
9月の開運行動は「しない時間をつくる」!です。その理由は――
神職さんが教えてくれる『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』より、貴重なお話。
* * *
「ツクヨミ(月読命)の時間」を作る
ここで、神道における「三貴神」の一柱(神様を数える単位は「柱」です)でありながら、謎に包まれている神様、「ツクヨミ(月読命)」についてすこしお話ししたいと思います。
以前、3月の項で桃の霊力についてお話しするときに、「イザナギという神様が、黄泉(よみ)の国から逃げるときに桃の実を投げて追手をまいた話」をご紹介しました。
あのあと、イザナギは、身に着けていたものをぜんぶ捨てて裸になり、流れる水辺で「みそぎ」をします。
彼が左の目を洗うときに生まれたのがアマテラス(天照大御神)。
右の目を洗うときに生まれたのが、ツクヨミ(月読命)。
鼻を洗うときに生まれたのがスサノオ(須佐之男命)。
そしてこの三柱が「三貴神(三貴子)」です。

(イラスト:宮下 和)
イザナギがたいへんよろこんで、「吾は子を生み生みて、生みの終(はて)に三はしらの貴き子を得つ」と言ったことから「三貴神」と呼ばれているのですが、このあと、アマテラスとスサノオについてはめちゃくちゃたくさんのおもしろいエピソードが語られるのに対し、ツクヨミはほとんど出てきません。
「古事記」では、ツクヨミは父であるイザナギに、「汝命(いましみこと)は、夜の食国(をすくに)を知らせ」と言われるのですが、それ以降、一回もツクヨミが出てきません。
これでは、
「ツクヨミは、たぶん、夜の国を治める、月をつかさどる神様なんだな」
「アマテラスが太陽神なんやから、ツクヨミは月の神やろな、しらんけど」
という漠然としたイメージしか得られないのです。
心理学者の河合隼雄さんは、このことについて、「神話と日本人の心」の中でこんなふうに書いています。
『古事記』『日本書紀』の本文に注目する限り、ツクヨミはほとんど「無」に等しいと言っていいだろう。三貴子と言いつつ、中心のツクヨミが無為であることは極めて重要である。
アマテラス(姉)とスサノオ(弟)という、戦闘能力も統治能力も高い二柱の間にいるツクヨミが、「何もしない」神様であるということが、どうして「極めて重要」なのだろう? 私には河合隼雄さんの言っていることがわからず、ずっと疑問でしたが、最近なんとなく腑に落ちるようになったのです。
というのも――。
水墨画の白い部分/がらんとした床の間/水のない庭、枯山水/何もない部屋/何もしない時間/夜空の月を眺めるひととき。
こうしたものの尊さに、気づくようになったからです。
そんなわけで、私がおすすめする9月の開運行動は、「しない時間をつくる」です。
何も買わない日/ごはんをつくらない日/お化粧しない日/携帯を見ない時間/何も考えない時間/何もしない時間。
そしてお月様をただ眺める。
こういう時間を、「ツクヨミの時間」と呼ぶことにしましょうか。
私が思うに、昔の人は何もせずぼーっと月を眺めるツクヨミの時間に、むちゃくちゃいい歌や俳句、散文を生みだしています。
吉田兼好の「徒然草(つれづれぐさ)」には、「配所の月」という言葉がでてきます。
顕基中納言の言ひけん、配所の月、罪なくて見ん事、さも覚えぬべし(=顕基中納言が言ったという、配所の月を、罪のない身の上で見たいという事。そんなふうに思われることだ)
「配所の月」は島流しになった場所で見る月のことです。島流しになった身ではなく、さびしい流刑の地で見る月は、さぞよかろう。という感じですね。
リアルに島流しになった身では、自分の身の上が辛すぎますが、そうではなくて、島流し先のようなところで、「無」と「孤独」を味わいながら眺める月はよさそうだなーという、都会人的な発想。
ここまでいくと、ツクヨミ時間の達人という感じがしますね。
ああ、今日は良いツクヨミの時間が持てた。
そんな日が続くと、いつのまにか幸せになっている気がします。
(10月もおたのしみに!)
神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること

古(いにしえ)より、「生活の知恵」は、「運気アップの方法」そのものでした。季節の花を愛でる、旬を美味しくいただく、しきたりを大事にする……など、五感をしっかり開いて、毎月を楽しく&雅(みやび)に迎えれば、いつの間にか好運体質に!
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神主さん直伝。「一日でも幸せな日々を続ける」ための、12カ月のはなし。
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