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韓国・国家情報院

2025.08.18 公開 ポスト

「極秘」拠点がGoogleマップに写ってしまった! 地図から消された韓国国情院本部佐藤大介(共同通信 編集委員兼論説委員)

『シュリ』『愛の不時着』ほか韓国エンタメではおなじみの存在ながら、秘密のベールに包まれた大統領直結の情報機関・秘密警察である韓国・国家情報院。予算や組織が明らかになっていないだけでなく、その所在地も公式には秘密になっています。佐藤大介さん『韓国・国家情報院 巨大インテリジェンス組織と権力』からお届けします。

記事の最後には、ジャーナリスト青木理さんとの刊行記念トークイベントのご案内があります。

地図から消されている国情院本部

組織や予算の詳細を公開していない国情院だが、そうした「秘密組織」としての位置づけがよくわかるのが、インターネット上での位置情報だ。国情院の公式サイトには、本部の住所や連絡先についての記載は見当たらない。だが、さまざまな文書や報道には、本部は「瑞草区内谷洞(ソチョグネゴクドン)」と記されており、韓国語版のウィキペディアにも明記されている。「ネゴクドン」は国情院を示す隠語でもあり、所在地は言わば「公然の秘密」となっている。

しかし、人々が知っていても、公式には「秘密」であることに変わりはない。韓国で多くの人たちが利用する検索サイト「NAVER」の地図サイトで「ネゴクドン」とハングルで打ち込めば、一帯の航空写真が示される。高速道路のインターチェンジから北の方には山林が広がっており、そこに建物の姿は見えない。

だが、日本をはじめ世界で広く使われているGoogleマップで「韓国 内谷洞」または「韓国 ネゴクドン」と打ち込み、そこに出てくる航空写真をよく見ると、NAVERの地図とは違う点があることに気づく。

NAVERの地図では山林となっている場所に、巨大な施設が写っている。円形のような敷地に建物があり、NAVERの地図にも写っていた周辺の道路とつながる道もある。それこそが国情院の本部だ。

韓国では、許可なく空間情報を海外へ持ち出すことを法律によって禁止している。軍事境界線を挟んで北朝鮮と対峙しているという事情を反映してのことだが、そのためサーバーを韓国内に置いていないGoogleは、韓国の詳細な地図データを入手することができない。韓国を旅行した際、Googleマップが役に立たなかったという経験をした人は少なくないはずだ。

Googleは2016年、韓国政府に地図情報を提供するよう要請したが、最終的に認められなかった。その理由を、韓国政府は「南北が対峙する中で安全保障に関しての脅威を高める恐れがあり、そうした懸念を解消するための案を提示したが、Google側が受け入れなかった」と説明している。韓国政府の懸念について、当時の新聞報道はこのように伝えている。

データを管理する国土交通部の国土地理情報院、国防部、情報機関の国家情報院などは、安全保障上の理由から強く反対している。Googleが求めている地図には青瓦台(大統領府)をはじめとする主な官公庁や軍の基地、軍事施設の位置も記されており、これら重要施設の情報を削除して渡すとし
てもGoogleアース(人工衛星写真サービス)を利用すれば復元できてしまう。韓国への配備が決まった米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」のような戦略的な軍事設備の位置が丸分かりになるということだ。(2016年8月8日付、朝鮮日報)

記事からは、地図情報の提供に国家情報院も強く反対していたことがわかる。公開すべきではない「重要施設」に国情院の本部も含まれていることは、NAVERの地図を見れば一目瞭然だ。だが、ここで懸念された通り、韓国当局の規制を受けていないGoogleマップでは、その姿は誰にでも確認できる状態になっている。

存在自体が完全に秘匿されている施設も

Googleマップに本部が写っていることを国情院はもちろん把握しているが、だからといって目くじらを立てている様子もない。そもそも大統領などが国情院の本部を訪れれば、その様子は公開され、記者たちも同行して報道する。本部での韓国人記者の取材対応ほか、特派員などの外国人記者向けに組織運営についての説明会を開くこともある。

そうした意味では、NAVER地図で本部が消されているのは、象徴的な意味とも言えるかもしれない。だが、それはあくまで本部だけの話で、関連施設にはその存在自体が完全に秘匿されているケースが多い。

(図はイメージです)

過去に国情院と関わりのあった男性は、ソウルと京畿道を含めた首都圏には、職員の研修や情報の分析などを行う施設が14カ所あり、そのいずれも公にはされていないと明かす。

男性が訪れた京畿道の施設は郊外にあり、路線バスの停留所からしばらく歩いた場所に位置していた。のどかな農村といった風景の中で、その施設の入口の門には常に警備員がいて外部からの立ち入りを厳しく制限しており、周辺とは違った雰囲気を醸し出していたという。

門からは道路が延びているが、その先は山になっており、その先に何があるかは外部から見えないようになっている。中に進んでいくと、広大な庭や噴水などがあり、何棟かの建物が並んでいた。その中では海外情勢に対する分析や語学研修などが行われており、各国に派遣される予定の職員が学んでいた。

門の近くには雑貨店や飲食店があり、施設を訪れた帰り道に飲食店へ立ち寄った男性は、居合わせた客から「あそこは、いったい何の施設なんだ?」と尋ねられたという。守秘義務が課せられていたことから、男性は「荷物を運びに行っただけなので、何もわからない」とごまかしたが、客は男性がスーツ姿だったことに目をつけ「そんな格好で運ぶ荷物って何なんだ」と、ますます疑念の目を向けられたと振り返る。

*   *    *

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関連書籍

佐藤大介『韓国・国家情報院 巨大インテリジェンス組織と権力』

大統領直轄の情報機関・秘密警察であり、強大な権力を持つ、韓国・国家情報院。前身のKCIA、安全企画部時代には、北朝鮮に関する情報収集・工作活動を最大の任務としながらも、大統領と結託し、政敵を陥れ、民主化運動を弾圧してきた。国家情報院として改組され、政治的中立を掲げるようになってからも、世論操作や大統領選挙での暗躍など、政治介入の疑惑は絶えない。韓国現代史の裏側で何をしてきたのか? 予算・組織・活動の実態とは? 韓国国内でも謎に包まれた国家情報院の全容に迫る。

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韓国・国家情報院

大統領直轄の情報機関・秘密警察であり、強大な権力を持つ、韓国・国家情報院。前身のKCIA、安全企画部時代には、北朝鮮に関する情報収集・工作活動を最大の任務としながらも、大統領と結託し、政敵を陥れ、民主化運動を弾圧してきた。国家情報院として改組され、政治的中立を掲げるようになってからも、世論操作や大統領選挙での暗躍など、政治介入の疑惑は絶えない。韓国現代史の裏側で何をしてきたのか? 予算・組織・活動の実態とは? 韓国国内でも謎に包まれた国家情報院の全容に迫る。

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佐藤大介 共同通信 編集委員兼論説委員

1972年、北海道生まれ。明治学院大学法学部卒業後、毎日新聞社を経て2002年に共同通信社に入社。韓国・延世大学に1年間の社命留学後、09年3月から11年末までソウル特派員。帰国後、特別報道室や経済部(経済産業省担当)などを経て、16年9月から20年5月までニューデリー特派員。21年5月より編集委員兼論説委員。著書に『13億人のトイレ~下から見た経済大国インド』(角川新書)、『オーディション社会 韓国』(新潮新書)など。

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