

グループ別野菜紹介も今回が最後であります。しんがりを勤めまするはウリ科野菜。ナス属と並んで夏の畑をにぎわせるウリ科たちでございまする。
ズッキーニはキュウリではなくカボチャの仲間
日本でよく食べられるウリ科野菜は、予想通りキュウリがトップで、カボチャ、スイカ、メロン、ズッキーニ、ゴーヤと続き、世界的な生産量でもほぼ同じ順である。ウリ科といえば真っ先に思い浮かぶのはキュウリやし、なんとなくイメージ通り、ウリ科の特徴は、つるを持つこと、雌雄の花が別であること、夏野菜が多いこと、などである。しかし、中にはツルを持たないズッキーニのようなものもある。

ズッキーニ、見かけからキュウリの仲間とばかり思っていたけれど、類縁関係でいくと、キュウリよりもカボチャに近い。いまいち釈然とせんが、言われてみたらそんな気がしない訳でもない。ただ、その生えている姿は、カボチャにもキュウリにも似ても似つかない。キュウリもカボチャも巻きひげのようなツルを持っていて、どんどんと伸びていく。それに対して、ズッキーニは地面から茎がいっぱい生えて、その根元に近いところから実がなる。ちょっと不思議な感じのする植物だ。
食用のカボチャには、西洋カボチャ、日本カボチャ、それから、ペポカボチャなる種(しゅ)がある。ペポカボチャって知らんかったけど、バリエーションが豊富で、ハロウィン用の大きくて中味スカスカのカボチャとか、時々ニュースに登場する信じられないくらい大きなジャイアントパンプキンや、知る人ぞ知る生食用のコリンキーや、ズッキーニまでもがペポカボチャの仲間である。もう少し正しく言うと、仲間も仲間、これらは同じ種 Cucurbita pepoで品種の違いにすぎない。あの巨大カボチャとズッキーニが同じ種って、ちょっとびっくりやわ。なんでも、ペポカボチャは変異が生じやすいから、バラエティに富んだ品種があるそうな。
ズッキーニという名前は、想像通り、イタリア語由来である。英語名称は、米国ではzucchini(ズッキーニ)、英国ではフランス語由来のcourgette(クルジェット)。和名はほとんど知られていないが「ウリカボチャ」あるいは「ツルなしカボチャ」という。そんな名前では売れそうな気がせんわな。ちなみに、イタリアで品種改良がおこなわれ今のようなズッキーニが普及しだしたのは20世紀に入ってからというから、我が国だけでなく、世界的に見てもその歴史は新しい。
いまや八百屋さんでよく見かけるズッキーニだが、日本でよく食べられるようになったのは1970年代になってからである。使われるのは、ラタトゥイユ、グリル料理、パスタとか、もっぱら西洋料理なので「西洋野菜」の代表と言っていいのかもしれない。栽培しやすい、味に癖がない、イタリア料理を始めとした西洋料理に向いている、などが日本でも広まった理由である。天ぷらにしてもおいしそうやと思ったら、ネットにレシピが載っておったわ。
毎朝カボチャの花のおしべを抱きしめて悶えるハチたち
西洋カボチャと日本カボチャは名前が違うだけではなくて、種――タネじゃなくてシューーも違う。日本カボチャは16世紀にポルトガル船によって九州――おそらく豊後の国――にもたらされた。その野菜がカンボジア産であったのがカボチャという名の由来とされている。最近はあまり使われないが、南瓜(なんきん)という別名は、南蛮由来の瓜、ということからきている。西洋カボチャは明治になる直前、1863年に米国からやってきた。
現在、日本で作られているのはほとんどが西洋カボチャで、甘さやホクホク感が強いので好まれるとのこと。日本カボチャは料亭などの特殊な用途と家庭菜園くらいしかないらしいけど、なんか、この二極化ってすごいな。そんなことまったく気にしてなかったが、我が家で栽培した何種類かもすべて西洋カボチャだった。

ウリ科の例に漏れず、ズッキーニもカボチャも雄花と雌花が咲く。雄花が圧倒的に多くて、雌花が少ない。それから、雄花の方が先に咲く。知識はまったくなかったが、毎日畑を観察していると、それくらいのことはわかる。作るためのエネルギーコストは、雄花よりも雌花の方がはるかに大きいことを考えると、これはとても理にかなっている。雌花の結実をできるだけムダにしないためには、それが有利だ。
人工受粉をした方がいいとされているので、できるだけするように心がけてはいるが、感覚としては、しなくても大丈夫だ。花は1日しか、それも午前中だけにしか咲かない。なので、うっかりして人工授粉を忘れることもよくあるのだが、あまり問題はない。人工授粉で、おしべを摘んでめしべにこすりつけていると、なんだか性行為を強要して申し訳ないような気がしてしまうけど、それは考えすぎやわな。
基本的には虫媒である。普段はそれほどハチを見かけることはないのだが、朝早くにカボチャの花を見ると、たいがいハチがやってきている。カボチャの花はそれくらいハチや他の虫を引きつける魅力があるのだろう。直径10センチほどもある黄色い花はとても目立つし、花粉や蜜は虫を引きつける揮発性化合物を含んでいるためだ。もちろん虫としては受粉のためでなくてエサ集めのためなのだが、花に入っておしべを抱きしめるように悶え動くハチを見てると、こいつどんだけ花粉が好きやねんと思ってしまう。
キュウリとゴーヤにとって想定外のできごと
ウリ科植物の雌花は根元がふくらんでいるので、雄花との違いは一目瞭然だ。ゴーヤも雄花の方が雌花より圧倒的に多いのだが、キュウリはなぜかほぼ同じくらいである。キュウリ、不思議やないかと思って調べたら、野生型では雌花が多いけれど、品種改良によって雌花の多いものが作られたからとのこと。中には雌花しか咲かない品種もあるらしい。え~っ、どうやって実がなるねんと思ったら、キュウリは単為結果といって、受粉なしでも実るから、雌花だけになっても野菜栽培としてはまったく問題がないらしい。なるほどねぇ。
キュウリとゴーヤは、驚くほどたくさんの実をつける。2株ずつも植えたら、とても食べきれないほどだ。それやったら1株にしたらええやないかと思われそうだが、ひょっとして想定外のことがおこって育たないっちゅうようなことがあったらイヤなので、バックアップとして最低でも2株は植えることにしておるのじゃ。

うっかりしていると、あっという間、というのは大げさだけど、ホントに1日2日の間にキュウリは巨大化するし、ゴーヤは黄色くなってしまう。なので、毎日の見回りが欠かせない。ただ、これは、キュウリは肥大途中の、ゴーヤは熟す前の未熟果を採って食べているせいだ。なので、あくまでも人間からの都合であって、キュウリくんとかゴーヤくんにとっては、完熟する前に採取されてしまっている、ということになる。
キュウリは巨大化(キュウリにとっては普通に成長)することによって、種子が多くなり、果肉が厚くなって鳥や虫から種を守ることができる、表面が硬くなって腐敗を防げるようになるというメリットがある。キュウリは完熟して自然落下し、それによって拡散する植物なので、大きく硬くなった方が有利なのだ。けど、そうなってしまうと不味い。

ゴーヤは葉がものすごく繁るので、食べるのに適した状態のやつはけっこう見つけにくい。しかし、完熟すると黄色から橙色になって鳥や動物に見つけられやすくなる。さらには、完熟した果実が割れて、真っ赤な「仮種皮(かしゅひ、かりしゅひ)」と呼ばれる衣をかぶった種子が露出される。こうして、鳥や動物に食べてもらって種子を運ばせるのだ。もちろん、完熟前に人に食べられるのは想定外のできごとである。
トマトやカボチャ、トウモロコシ、枝豆なんかは完熟させた方が美味しいけど、キュウリやらゴーヤはあきません。完熟させたゴーヤは甘くなって、それを好む人もいます、とかネットには書かれてるけど、そんな人は例外的としか思えませんわ。
キュウリ、トマト、ナス、一番冷静なのは?
キュウリはインド北部、ヒマラヤあたりが原産で、日本には平安時代に入ってきている。キュウリの漢字は「胡瓜」であって、中国から伝来したので、胡、すなわち西域民俗、の瓜(うり)という意味だ。しかし、語源的には、黄色いウリを意味する「黄瓜」が正しいらしい。昔は黄色くなるまで熟させて食べてたんやろな。ちなみに、黄色くなるのは巨大化のさらに後であって、とても食べられたものではございません。
いまはキュウリという書き方が一般的だが、黄瓜が語源で、元々は「きうり」だったらしい。「きゅうり」という発音が定着したのは、戦後に発行された国定教科書からだというから比較的新しい。なんとなく、キュウリよりキウリのほうが格調高いような気がせんでもないんですけど、そんなことないですかね。
英語では cucumber である。cucumber といえばなんといっても、高校時代に覚えたイディオム、as cool as a cucumber だ。直訳すれば「キュウリのように冷静に」だけれど、意味は「非常に落ちついている」とか「冷静沈着である」という意味だ。キュウリは水分が95%で触るとひんやりしてるかららしい。
それはトマトでもナスでも同じようなものである。しかし、「キュウリのように冷静」はなんとなくわかるけど、「トマトのように冷静」とか「ナスのように冷静」はありえんわな。トマトは赤くて怒ってるみたいやし、ナスは形なんかボンヤリしてるみたいやし。ここはやはり、キュウリのシュッとした形と落ち着き払った色合いがモノを言っとるに違いない。っでも、完熟したキュウリはボテッとして黄色くてあまり冷静には見えませんな。
あの時のゴーヤは苦かった
ゴーヤとキュウリは似ているような気がするが属のレベルで違う。ただ、カボチャとの三つ巴戦でいくと、進化的にはゴーヤとキュウリの方が近縁ではある。ゴーヤは江戸時代からニガウリ(苦瓜)と呼ばれていたのだが、その学術的な標準和名を知る人は少なかろう。「ツルレイシ」だ。
日本で作られた言葉で、ツルのある植物に実るレイシ(茘枝、あるいはライチ)という意味。イボに覆われた外観と、完熟したら仮種皮が甘くなるのがレイシに似ていることに由来する、って、どこが似てんねん! 大きさも形も味も全然違うやないか。そのせいでもないだろうが、ツルレイシなどとは呼ばれず、ゴーヤ(あるいはゴーヤー)と呼ばれることが多い。これはもともと沖縄の名称だ。
初めてゴーヤを食べた時のことは、その場所、味とリンクして、とてもよく覚えている。1994年、ノーベル賞の本庶佑先生の研究室にいた頃だ。鳴かず飛ばずの何年かを過ごした後、ようやく超一流誌に論文を載せることができた。その内容でセミナーするためにハーバード大学を訪れた後の食事会、チャイニーズレストランでbitter melonなるものの炒め物を食べた。メロンのくせに苦すぎるやろ! というのが率直な感想だった。その頃、まだあまり日本、というより本土、では食べられていなかったはずだが、あっという間に一般的になり、いまや我が家では、採れすぎのため、夏の間はチャンプルーとして頻繁に食卓にあがるようになっている。遠い目……。
スイカを「もう作ってやらん」理由
ウリ科としては、スイカにも挑戦した。スイカは難しいと言われるので、初心者向けのちいこいやつを育ててみた。結実はするけれど、食べ頃がよくわからない。調べてみると、糖度計を使うか、叩いて音で調べましょうとある。糖度計はないし、叩いてもわからんわっ! という状況で、甘くなるかなぁと思っているうちに割れてしまう。それでも食べてみたら美味しいけど、うまく育ててるとは言いがたし。
割れるのは、中味と果皮の育ち方のアンバランスによる。果皮の成長には細胞分裂が必要なので、ある程度の時間がかかる。一方、中味は水分を蓄えるだけなのでどんどん大きくなる。なので、水が過剰になると中味が大きくなりすぎて破裂してしまう。水を絞ればいいと書いてあるけど、難しいから、もう作ってやらん。
近所の果実店に四角いスイカが1万円で売ってある。というか、ずっと飾ってある。いつも、どんな味がするんやろうかと眺めているのだが、食用ではなくて観賞用らしい。完熟まで成長させると破裂するリスクが高いので、熟する前に収穫する。なので、甘くない。単なる飾りものやったんや。そう思うと、四角いスイカはちょっとあわれ。
夏の畑の主役ともいえるウリ科植物はこんなとこですかね。次回は、畑で育てたちょっと変わった野菜とかのお話でありまする。
知的菜産の技術

大阪大学医学部を定年退官して隠居の道に入った仲野教授が、毎日、ワクワク興奮しています。秘密は家庭菜園。いったい家庭菜園の何がそんなに? 家庭菜園をやっている人、始めたい人、家庭菜園どうでもいい人、定年後の生き方を考えている人に贈る、おもろくて役に立つエッセイです。
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