
人気怪談系YouTuberナナフシギが、子どもたちに届けたい、実話怪談をセレクト!
児童向け怪談集『5分怪談』から、夏にピッタリな怖い話をお届けします。
油断していると、大人でも眠れなくなるかも……?
* * *
死神のお仕事
建築系の会社で働く俺は、改修工事の監督見習いとして総合病院に来ていた。
今日から数週間はここが俺の職場になる。ていっても、監督見習いなんて肩書きは名前だけで、やることは現場の見回りや作業する職人さんたちの世話がほとんどだった。
「今日からよろしくお願いします」
ベテランの職人さんたちに頭を下げて、工事現場周辺を見て回る。
今年23歳になる若者にできることなんてそのくらいだ。
俺は高校を卒業してすぐこの会社に入ったから、経歴で言えば5年目。だけど、この業界じゃまだまだ見習いだ。そんなやつがいきなりリーダー面したって、職人さんたちにみとめてもらえるはずがなかった。
「おまえ、いつの間に監督になったんけ」
現場を回ってると、なじみの職人さんがたまに話しかけてくれる。
「まだまだ見習いですよ。今日はよろしくお願いします!」
「おう、全部終わったら飯でも行こな」
「ぜひ!」
古くさいかもしれないけど、こういうつながりは意外と大切なのだ。
工事も折り返しに入ったある日。飲み物を買おうと、俺は病院の出入口付近にある自動販売機へ向かった。エントランスに目を向けると、50代くらいの女性がイスに座っている。その後ろには、真っ黒のスーツに黒のハンチング帽をかぶった男がいた。
(変わった格好だな)
そう思って見ていると、男は突然、女性の耳元に顔を近づけて、なにかをささやく。
耳に口元がくっつきそうな距離感で、俺は思わずガン見をしてしまった。
話し終わったのか、男は女性の肩に手を置いて席にもどる。
その瞬間――
男はこちらを向いて、ニヤリと笑った。
「え?」
視界の端で女性がゆっくりとたおれていくのが見えて、頭が真っ白になる。
「キャーッ!」
「大丈夫ですか!?」
考えるより先に体は動いていて、俺は女性の元へかけよった。
「場所をあけてください!」
しばらくすると担架を持った受付スタッフや看護師がやってきて、女性を病室へ運んでいく。なにが起きたのかよくわからなかった。
(そうだ、あの男はどこに?)
辺りを見わたしても、黒スーツの姿はない。エントランスにいた人たちに聞いても「そんな男は見ていない」と言うばかりで、俺は狐につままれたような気分だった。
* * *
「な? 不気味だろ?」
数年後。俺は飲み屋で、新しく入ってきた会社の後輩に黒スーツの男の話をしていた。
「不気味というか、普通に事件ですけど……それ、結局助かったんすか?」
「いいや、原因不明のまま亡くなったらしい」
「うわあ。俺、明日からの現場、病院だってのにやめてくださいよ」
つまみをほおばりながら後輩はケラケラ笑う。
「まさか、先輩はその黒スーツの男が一瞬にして女性を殺したって言うんですか?」
「どうだろなあ」
「そんなのマンガの世界じゃないすか」
「それな。俺も同じことを思ったよ」
当時は俺も黒スーツの男のせいではないかと疑っていたけど、今考えればただの偶然だろう。病院に来るような人なんだから、もともと病気だった可能性も十分にある。
そもそも、ねらった相手を瞬時に殺せる方法なんて、現実にあるはずがなかった。
「まっ、黒スーツの男を見かけたら逃げたほうがいいぞ」
ナマイキな後輩を怖がらせようと、俺はニヤリと笑って酒を飲んだ。
翌日。現場の病院で駐車場に車をとめておりると、ふいに声をかけられた。
男の姿に俺は息をのむ。
(黒スーツの男だ!)
喪服みたいな真っ黒のスーツに、黒のハンチング帽。見間ちがえるはずがない。
そこにいたのは、数年前、病院で目にしたのとまったく同じ男だった。
黒スーツの男は、鼻と鼻がくっつきそうなくらい顔を近づけて俺に言う。
「やあ。君には私が見えているね?」
目の前にいるのに、男からは気配が感じられなかった。生気というか、人間なら感じるはずの呼気というか、とにかくそういうものが一切ないのだ。
(こいつは人じゃない)
直感的にそう感じて、俺はぴったりと口をとじる。人の姿をした怪異。気づいてはいけないなにかだった。
「君は死神を信じるかい?」
黒スーツの男は質問を続ける。俺は無視をした。
「ふむ。……そういえば、ここが新しい職場になるんだ」
「しょ、職場だって?」
はっとして口元を手でおさえる。
でも、もう手おくれだった。
「ほら、やっぱり聞こえてるじゃない」
ニタリと口を真横に開いて、スーツの男は笑う。
「ひさしぶりだねぇ。君には見えてると思ってたよ」
数年前、エントランスで目が合ったのを思い出して呼吸が浅くなる。
じわじわと見えない手に首をしめられているみたいで、息が苦しかった。
「まあ、この辺の管轄は私だからね。また会えるよ」
男がくるりと後ろを向くと、首をしめつけるような感覚は消えていく。
のどの奥に急に空気が入ってきて、俺はむせてしまった。
(も、もう会いたくない!)
そう思っていると、男は俺の心を読んだみたいにカラカラ笑う。
「君はまだ大丈夫だよ」
(まだ? 次に会ったら俺は死ぬんだろうか)
「さあ、どうだろうね」
黒いスーツの男は背中を向けたまま俺に手をふると、病院に向かって歩いていった。
一瞬、カメラのピントがズレたみたいに視界がぼやけて、元にもどる。
もうそこに、男の姿はなかった。
5分怪談

5分でゾッとする、本当にあったコワい話!
小学5年生の春休み。お父さんにおつかいをたのまれてコンビニに向かう途中、幽霊の女の子「レイちゃん」につかまって、連れてこられた先はなんと‟霊界”!
おばけの学校、病院、神社、ホテル……コワ~い場所には怪談がいっぱい。
背筋がこおる、霊界ツアーのはじまりはじまり。
SNS総フォロワー50万人超の大人気怪談系YouTuber【ナナフシギ】が子どもたちに送る、気軽に読める実話怪談集『5分怪談』より、一部を抜粋してお届けします。