1. Home
  2. 生き方
  3. わたしを幸せにする0円生活
  4. “現代版しばかりじいさん”が守る、わたし...

わたしを幸せにする0円生活

2025.08.03 公開 ポスト

“現代版しばかりじいさん”が守る、わたしたちの暮らしと森の未来田村ゆに

青森県南部町で自給自足生活を送る田村ファミリーの妻・田村ゆにさん。電気・ガス・水道は契約せず、廃材で建てた手づくりハウスに家族3人、ニワトリ12羽と暮らしています。お金の不安が尽きない都会の生活から抜け出し、田舎に移住して気づいた“本当の豊かさ”とは。初のエッセイ『わたしを幸せにする0円生活』より、一部をお届けします。

*   *   *

人と地球と地域がよろこぶ廃材の薪

幼いころ、窓からぼーっと空をながめる時間が好きでした。風に吹かれて雲がゆっくりとカタチを変えていく様子に何時間でも見ていられると感じたほどです。それと同じように、薪ストーブの窓から見える炎のゆらぎにも、飽きることがありません。

このために薪ストーブにしたいと考える人もいるくらいですから、この感覚には共感してくれる人も多いのではないでしょうか。

ジワジワと値上がりする灯油代に困惑し、薪なら安く済むのではないかと調べてみたら、薪の値段も年々上がっているようです。1ヶ月の暖房費が電気や灯油なら5千~6千円で済んでいたのに、薪を買うと相場では1ヶ月3万円にもなるそうで、いざ冬が始まり灯油代よりも高くついてビックリしたなんて話もあります。

青森に住むわたしたちは、冬の暖房と調理に薪ストーブを使います。朝晩が冷える10月ごろから火を入れ、真冬はじんわりと体を温めてくれる炭のコタツも合わせると、寒さは辛いどころか愛おしい時間へと変わります。6月でも「山背」という海からの風が強い時季は、薪ストーブをつけたこともありました。なんだかんだで1年の半分は薪を焚いていると言っても大げさではありません。

買うと高い薪ですが、うちでは0円でやりくりしています。なぜ0円かというと、捨てられるはずのゴミである「廃材」をメインで使っているからです。

廃材と言っても小屋の解体などで出る、骨組みになっていた木材です。廃材は生の木のように乾燥させる必要がなく、すぐに燃やせます。さらに、業者さんが家まで届けてくれることもあり、送料まで0円です。そのかわり金具が付いていることや火持ちが短いという欠点もありますが、この時代の暖房費0円にはかないません。

家を解体して処分するとなれば廃材はゴミになり、ただ燃やすだけでなく処理場に運ぶ際に費用がかかります。廃材をゴミとして捨てずに、燃料として使いたい人がいれば、地域のゴミが減り、暖房費が0円と地球の資源も節約されるので、三方良しの手段ともいえるのではないでしょうか。

今は空き家が増えて人に対して建物の方が多い時代なので、廃材が尽きることはなさそうです。ただ、もし廃材がなくなっても生活に困らないように、森を豊かに育てることは大切であり、そのために人の手が必要とされています。次はそんな森との共存についてお伝えします。

夫が御用聞きの仕事で集めた廃材や薪。
​​​​​​小屋の解体や庭木の剪定などで出た無垢材をいただくことも。

森を守る⁉ ロケットコンロ調理

わが家ではコンロも手づくりのものを使っています。捨てられるはずのものを再利用して、工具の扱いに慣れない人でもつくれます。スイッチひとつとはいかないけれど、お湯を沸かすことはもちろんチャーハンのような火力が必要な炒めものや、うちではコーヒーを焙煎するときにも活躍中です。さらに薪ストーブで使うような太い薪でなくとも、林を歩けば拾える細くて枯れた枝が活躍します。その名も「ロケットコンロ」です。

何がロケットなのかというと、少ない燃料で一気に火力が上がる瞬発力と、点火中はゴーッとまるでロケットが飛び立つような音がするからです。毎日のお料理には、昔ながらのかまどでなくとも、コンパクトで持ち運べる重さなので設置もラクラクです。ロケットコンロにはいろんなタイプがあり、暮らしに合ったサイズや数を自由にカスタムできます。

うちの場合、夏はウッドデッキが台所です。立ったまま調理ができて耐久性もある、オイル缶2つと一斗缶ひとつでつくるロケットコンロを気に入っています。最初は火のつけ方や火力の調整に苦戦していましたが、今ではその便利さに手放せないアイテムになりました。BBQで使った割り箸、栗のイガ、支柱にしていた竹、落書きした紙、卵の殻など身近なものを燃やす面白さもあります。また、時間があれば枝拾いからスタートすると、より自然とのつながりを感じられます。

最近、ご近所の森の手入れをお手伝いする活動を始めました。そこで学んだこととして、昔ばなしに出てくる「しばかりじいさん」は山で何をしているのかご存じですか? このおじいさんは今の草刈りのように「芝」を刈っているわけではありません。

漢字にすると「柴刈り」で、これは小さい雑木や枝を刈り取ることを意味します。おじいさんのイメージを思い浮かべてみると枝を背負っていますよね。おじいさんは山に細い薪を取りに行っていたのです。

今、森が荒れています。それは柴刈りじいさんのように、山と適度な距離感で関わる人が減ったことにも原因があります。人の手を加えない原生林のような、ただ守るべき場所もありますが、自分たちの子や孫が木を使えるようにと、先人の手でつくられた森もあります。一度人が関わった場所は手入れをしないと、土砂災害や倒木、乾燥による山火事など、わたしたちの暮らしにも悪影響を及ぼしかねません。

このように山の管理をしながら必要な分の薪を手に入れることは、自然破壊ではなく、むしろ森林を守るための行いです。ただ見守るばかりではなく、ときには必要な手助けをすることが森の健康的な循環を取り戻すことにつながります。ロケットコンロは柴刈りじいさんのように暮らしに必要な薪を拾って使うだけで、自然環境と暮らしのエネルギーの両方を循環させられるアイテムです。

換気のよいウッドデッキにロケットコンロを設置。
立ったまま、同時調理ができます。

 

関連書籍

田村ゆに『わたしを幸せにする0円生活』

電気・ガス・水道は契約なし!テレビで話題の自給自足ファミリーの妻・田村ゆにさん初の単著。 都会から青森の田舎に移住し、0円生活で手に入れた“無限の幸せ”とは。

{ この記事をシェアする }

わたしを幸せにする0円生活

電気・ガス・水道は契約なし!自給自足ファミリーの妻・田村ゆにさん初の著書『わたしを幸せにする0円生活』より、試し読み記事をお届けします。

バックナンバー

田村ゆに

1987年北海道札幌市生まれ。高校卒業後に歌手を目指して上京。アルバイトをしながらの歌手活動中に着物の魅力にハマり、価値観が激変。日本人の昔ながらの生活に触れ、「いつか自分で作った野菜を家族に食べてもらいたい」という新たな夢を見つける。29歳になる年にSNSで見つけた田村余一の「お嫁さん募集」へエントリー。その年の秋に青森へ移住し、2017年に入籍。オフグリッド生活や畑しごとをスタートする。2018年第一子を出産。現在は子育てや畑しごとの傍ら、テレビ出演のほか、SNSで暮らしの知恵や野菜に関する知識などをシェアして活動している。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP