
フェイクドキュメンタリーQによる連載も、今回が5回目。この連載では、とある事情にてお蔵入りとなった文章を、一部再編集し公開できるようになったものを掲載します。「お墓」がテーマの今回は、とある奇妙な告発から始まるストーリーです。軽い気持ちで応募した先には、どんな結末が待っているのでしょうか……?
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「夫はカルトの仏像にされた!」小誌がスクープした謎のカルトの合葬墓に衝撃の新証言——2003年 某週刊誌に掲載予定だった原稿
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3年前、「懸賞で当たった墓がカルト宗教と関連している」という奇妙な告発を小誌で掲載した。合葬墓に眠る数十の骨壺、遺骨で歪に組み上げられた「骨仏」……衝撃のスクープは読者の話題をさらったが、真相が明らかになることはなかった。
しかし今年2003年、編集部にある投書が届いた。
「私の夫も、その墓に眠っています」
1998年、夏。都内で平穏な日々を送る、とある主婦のもとへ一本の電話が入った。
「この度は弊社のプレゼントキャンペーンにご応募いただきありがとうございました。抽選の結果、ご当選されました」
ささやかな嬉しい知らせ。しかし、次に続いたのは予想だにしない言葉だった。
「お墓の永代供養権を差し上げます」
この電話を受けたのはAさん(当時42歳)。今回、投書を送ってきた人物である。当時は東京郊外に夫と二人で暮らす専業主婦で、バラエティ番組の影響で懸賞にハマっていた。

「お墓の懸賞なんて応募した覚えがありませんでした。でもそのときは手当たり次第という感じで応募していたので、そんなものもあったのかなと思ってしまいました」(Aさんの投書より)
数日後、分厚い封筒が届いた。中には、○○県にある霊園の「永代使用権証明書」が入っていた。それによると管理費や供養費もすべて無料で永代に渡って使用できるとのこと。ただし、その権利を誰かに譲渡することはできない。書類にはすでにAさんの名義が記されていた。
夫にこのことを相談したところ、ひとまず現地に見に行くことになったという。
「墓」は山の中にあった。登山道が整備されているわけでもなく、取り立てて景観が良いわけでもない山道を進みたどり着いたのは、霊園という言葉で想像する、区画分けされた墓地ではなかった。

周囲に他の墓石はなく、墓碑銘のない立派な石碑が一つだけ建てられていた。
「私は寂しい感じがしたのですが、夫は『静かで良いな』と気に入っていました」(同前)
2002年、Aさんの夫が交通事故で急逝した。しばらく行くことはないだろうと思っていたあの墓に、またすぐに訪れることとなってしまった。唐突な別れにAさんは心を痛めたが、夫が気に入った場所に眠れるのは幸いだった。納骨は管理人がおこなった。この時点で墓碑銘はまだ刻まれていなかったが、後ほど彫刻するとのことだった。
その後しばらく経ったある日のこと。Aさんは何気なく立ち寄った図書館で、とある週刊誌のバックナンバーを手に取った。パラパラとページをめくるうち、ふと目に止まった見出しに彼女は衝撃を受けた。それが2000年小誌掲載の「懸賞で当たった墓」に関する記事である。以下、当時の記事を抜粋して引用する。
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「懸賞で墓が当たる!?“墓”の正体!! カルトが仕掛ける合葬墓の闇」(週刊XXX 2000年X月X日号掲載)

(前略)
告発者である山井さん(仮名)は懸賞で当たったというその墓地を実際に訪れた際の出来事をこう語った。
「まだ墓碑銘のない、立派な石碑でした。その下の納骨室が開いていたので覗いてみると、人が入れるくらい異様に広く、すでに数十名分の骨壺が納められていたんです」

「その奥には、ミイラのようなものが座っていました。こんな得体の知れない墓に入るなんて私も家族も絶対に嫌です」
(中略)
小誌記者が管理団体の事務所を直撃。最初は応えようとしない団体関係者であったが、納骨室のミイラについて問うと「ミイラではない、骨仏だ」と語気を荒くした。
「皆の遺骨を混ぜて作った骨仏だから、こんなに強い仏は他にないんです、あそこに入れるのは『選ばれた人』だけ」(同関係者)
管理者はそれ以上小誌記者の質問に答えることはなく、足早に去っていった。

(中略)
彼らは、仏像を作るために、懸賞で“選ばれた”人々の遺骨を集めているというのだろうか? 団体は宗教法人でこそないが、もしそうなのだとしたら、これはれっきとしたカルトと言えるだろう。
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たしかに、小誌掲載の墓の写真と、Aさんから送られてきた写真は、まさに同じ場所だとしか思えない。
しかし、告発記事の掲載から3年、小誌宛に同様の告発はなく、Aさんからの投書が初めてであった。当時取材に当たった記者にも確認したが、掲載からしばらく情報収集を続けていたものの、やはり他の利用者からの苦情や訴えなどはなかった。
管理団体へも改めて取材を行おうとしたが、かつての事務所を退去しており所在不明となっていた。現在の活動実態は掴めていない。
Aさんの夫は今もあの墓の中で、見知らぬ誰かと共に骨を重ねられ「骨仏」として祀られているのだろうか。
この奇妙な“懸賞”の裏には、まだ語られていない事実が隠されている。小誌はそれを明らかにすべく取材を続ける。
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本稿は、掲載直前にAさんから掲載中止の申し入れがあり、記事はお蔵入りとなった。
当時電話に応じたAさんによれば、異様な墓だと感じつつも、遺骨を改葬するには大きな手間と費用がかかる、永代使用や供養の仕組み自体は悪いものではないと分かったため、現状を受け入れる事に決めたと話していたという。
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この連載では、とある事情にてお蔵入りとなった文章を、一部再編集のうえ公開できるようにし、掲載していきます。呪われたモノ・こと・人…あなたのまわりにも「それ」はあるかもしれません。