

下町ホスト#37
ぬるい雨の日が続き、ジメジメとした営業を繰り返す
一向に私のナンバーが上がることはなく、むしろ少しずつ下がっている
ここ最近の君の来店頻度は寒かった冬に比べると半分程度に減っていた
しかし変わらぬペースで私を自宅やホテルへ招いた
このような状況を打開すべく、君の誘いを断ってみたり、来店の少なさを指摘してみたりしたが、君は適当に笑いながら、私をあしらった
とある暇な営業終わりに、パラパラ男が珍しく声をかけてきた
「飯行かないっすか?」
ヘルプ以外で彼と話すのはいつぶりだろう
私は少々照れながら、酒で熱くなった首を摩りながら縦に振った
朝までやっている地元では有名な居酒屋へ行き、窓際の席に座った
備え付けのフックにジャケットを掛けると、窓に溜まった水滴が袖に染み込んだ
力強い雨は少しずつ弱まり、今では小降りになっている
「何飲みます?」
「ビールかな」
「瓶ビールにしましょうか?ちびちびと」
「そうだね 既に散々飲んでるもんな」
「そこですよ、シュンくんは飲まない方がいいです」
「それは無理でしょ」
「いや、無駄飲みが多いんですよ」
「無駄?」
「そうっす、別に誰からも求められてない時に、テンション上げようとして飲みますよね?」
「うん」
「まず、あれいらないです、たいしてテンション上がってないですし、面白くないですし、その後、ヘロヘロで仕事できてないっす」
「結構言うね、、」
「色々話したかったんすよ、頑張ってましたよ、僕」
「わかってるよ、ナンバーも勝てないし」
「シュンくん、ちょっと甘すぎなんすよ まあ乾杯しましょ」
キンキンに冷えた小さいグラスに冷え切った瓶ビールを注いで、音を立てずに乾杯をした
適当につまみを何品か頼んでから、先ほどの会話に戻る
「シュンくん時間ないっすよ 今日一番言いたかったことっす」
「歌舞伎町行くんですよね?せめて一回はトップ取らないと」
「わかってるんだけど、調子悪くてさ」
「もうやめた方がいいですよあの人」
「誰?」
「わかってるっすよね あの姉さんっすよ」
「、、、」
「あの派手ギャルに愛想尽かされますよ」
「うん」
「どうみても、魂抜かれて、空っぽにされてるだけっす」
「、、、」
「とにかく新規です 新しいお客様増やさないとです 僕も協力しますから」
「うん、、」
「そしたら、あの人の態度も変わるはずです、これからは簡単に会わないで下さい 同伴なら百歩譲っていいですけど」
「お前はなんで俺にここまでしてくれるの?」
「わかんないっす なんかもったいないんすよ 僕一人じゃ売れても限界あるんすよ、シュンくんと噛み合えばもっとイケると思うんす」
「そっか 気合い入れるよ」
「いいましたね、次はないですよ」
「わかった」
「ちなみにナンバーワンってなんだと思う?」
「なんすか?言葉通りの意味じゃないんすか?」
「なんていうか、意味というかなんというか」
「よくわからない質問ですけど、僕にとっては目指すべき場所ですよ 同時に現ナンバーワンはすごいと思いますよ」
「うん」
「こう思わせるのもあの人がナンバーワンだからでしょうし、店の雰囲気の中心はあの人っす 救いでもあるんすよ うちの店のナンバーワンはすげーって」
「色んなもの背負ってますよ、あの人」
「だよな」
「だからいい店っす だから勝つっす」
残りのビールを飲み干して、外はすっかり晴れている
日の出を待つ外気を思いっきり吸ってから、先端の削れてきた革靴でアスファルトを蹴って駅へ向かった
「酸味」
激戦の月の終わりに捨てられた毛羽が立たない白い歯ブラシ
週末の冷やこい指で渡された伝票をそっと僕は隠した
宝くじ売り場の横のシクラメン、人の呼吸に怯えておりぬ
君の息をコーラのように飲んでいる色とりどりの人間の群れ
明易い秘密を入れた吊し酒ベロで転がしあんたを千切る

歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
- バックナンバー
-
- 「魂抜かれて、空っぽにされてるだけ」と他...
- 「暑いから毎日池に入ろう」そのあとの激痛...
- 「他の客全部切ってよ」眼鏡ギャルの要望に...
- 「暇ならホテル行こうよ」家庭の匂いを背後...
- 「シュン君、No.5でしょ?色々足りてな...
- 「本気で歌舞伎町行く?」「十八になったら...
- 「しゅんくん、いいやつだ」眼鏡ギャルが連...
- もう3ヶ月「眼鏡ギャルの家」にいながら「...
- 「あの子といるのね?」君からのメールに「...
- 「嫉妬するから帰る」“席被り”に気づいた...
- 「二組も来てんじゃん」“眼鏡ギャル”と“...
- 「ホストのくせに」と眼鏡ギャルに呆れられ...
- 「あの人に会ってたんだよ」「あー、沼った...
- 「ちゃんと来てくれたんだ」そして目隠しさ...
- 「おうちに来ない?」「家族はいないから」...
- 「歌舞伎町いこーぜ」下町ホストの“あいつ...
- 「愛情は恐怖に変わり…」歌舞伎町ホストで...
- 「俺の歌舞伎町でのこと、シュンには話して...
- 「アフター来れそうだったら電話して」ナン...
- 「あんたも歌舞伎町いたんだっけ?」突然の...
- もっと見る