
1ヶ月ぶりの、ブリーフ&トランクスの伊藤です!
改めまして僕は「半径5メートル以内の日常生活」をテーマに曲を作って歌っている、
48歳のメンズです。
今回は1999年にリリースした「小フーガハゲ短調」という曲を掘り下げたいと思います。
まずは今回の題材、かなり誤解を招きやすい内容と思います。
すでにタイトルだけでも、世間の皆さんに怒られる空気が漂っているのは承知の上なのですが、
誤解を解きたい願いも込めて、この場をお借りして「言い訳」をさせていただきたいのです。
最後には何を伝えたいかわかっていただけると信じて書いていますので、
どうか怒らずに読んでいただけたら嬉しいです。
ブリーフ&トランクス「小フーガハゲ短調」
作詞:伊藤多賀之/作曲:J・S・バッハ
“あなたは髪の毛ありますか?
ハゲパゲこんなのやだ髪の毛消え去ってゆく
ハゲパゲハゲパゲハゲハー”
(歌詞引用)
知らない間にフラッシュ動画でバズってた
2000年初頭、インターネットがまだ普及して間もない頃、
YouTubeのような動画サイトもまだ普及してない中で、
世の中ではフラッシュ動画というものが流行っていました。
物好きな方々が遊び半分で作った、紙芝居レベルのチープな動画なのですが、
当時はそれがすごく面白かったんです。
アイデア勝負と言いますか、伝えたいことが一瞬でわかるような、
映像のクオリティーよりも、中身に心を奪われるような、そんな面白さがありました。
そんなフラッシュ動画が全盛の頃、事件は起こりました。
僕も知らない誰かが勝手に作った「小フーガハゲ短調」のフラッシュ動画が、
ネット界隈でとんでもなく再生されてたのです。
1000万再生の悪夢
最初に断っておきますが、
この動画には僕は一切関与しておりません!
僕自身も全く知らなかったので、初めて状況を知った時は、
曲を使用する許可も出してないし、有名な方の写真とかも多用されてるしで、
いくら冗談半分の動画とはいえ、
僕が悪者とみなされて、いつか怒られるだろうと怯える毎日を過ごしていました(笑)。
写真を勝手に使われた某大企業の有名なお偉いさんが、
SNSで「面白いですね」と冷ややかに反応してた事もあり、
ますます僕は身の危険を感じて震えていました。
YouTubeに転載されたものも“1000万”再生まわっており、
僕に対して敵意を抱く人が日増しに拡大しているんじゃないかと、
眠れぬ夜を過ごしたものです。
童謡のように子供に歌い継がれる現象
平成のフラッシュ動画で爆発し、そして令和となった今でも、
小学生みんなが知っている曲として、
20年以上経っても曲がまだまだ浸透している噂をよく耳にします。
子供達が学校でみんなで口づさんでいるみたいなんです。
ブリトラの曲を全く知らない子供達でも、
「小フーガハゲ短調」だけはなぜか歌えるという。
オリジナル音源を知らなくても、人から人へと、下の世代へ下の世代へと、
ある意味「童謡」のように伝わってしまっている現象に、
作者としては非常に嬉しい反面、本当に申し訳ない気持ちでもあります(笑)。
そんなに子供達みんなが歌っているなんて、
ヒット曲を出した作詞作曲家のように、僕が儲かっているようにも見えるでしょう。
しかし童謡というのは、人が口で歌うだけですので、そこに印税は発生しませんので、
僕の生活水準は全く変わっていないという切なさは否めません(笑)。
これだけ子供達に刺さるのには実は「ある理由」が!?
そもそも、なぜこの曲がこれほどまでに時代を超えて子供達に歌い継がれているのか?
その理由を僕が分析するに、
当時まだ中学2年生だった僕が「子供の心」で作ったものだからではないかと思うのです。
音楽の授業中、音楽鑑賞としてバッハの「小フーガト短調」をクラス全員で聴く時間がありました。
そのわずか数分間の中で、中2の伊藤少年は、まるで天から歌詞が降り注いで来たかのように、
あのメロディーに「あ〜な〜た〜は髪の毛ありますか〜」という歌詞を思いついたのです。
その曲を何度も何度も学校の休み時間に鼻歌まじりに歌ってましてね。
担任の先生からも「それ面白いね、おでこが広い〇〇先生に贈ってあげなよ〜」とか言われ、
学園祭のステージでも披露したりしているうちに、
勝手ながらバッハとの共作として、僕の人生初のオリジナル曲となっていました。
なので昔も今も、子供達が歌いたくなる理由としては、
作詞者自身が、まだ子供心を充分に残したまま、何の計算もなく純粋に作ったものだからこそ、
“仲間的な”同じ匂いを感じて、自然と反応してしまうんじゃないかと思います。
それから時は流れ、
1999年にブリトラの3枚目のアルバムにその曲が収録されることが決まりました。
僕は「え!?こんな曲をCDに入れるって大丈夫なの!?」と不安な気持ちのままレコーディングし、
無事にリリースされたものの、「コンビニ」や「石焼イモ」といったブリトラの人気曲も押され、
当時は完全に埋もれていた感じでした。
まさかこの“埋もれ曲”が、数年後ネットの片隅から火がついて、
全国の小学生たちに口ずさまれるとは…
あの時の伊藤少年も腰抜かす程にビックリすると思います(笑)
なぜこの曲を作ったのか
さて、曲の「言い訳」をそろそろしておかないといけませんね。
まず、この曲は、決して薄毛の人をバカにしようと作った曲ではありません。
中学の頃、多感な時期だったからか、
ちょっとでも枕に自分の抜け毛を発見すると
毎回「このまま全部髪の毛なくなったら悲しいな」と、
1人で過剰に心配していたことがありました。
大好きだったおじいちゃんの頭が、
お坊さん並みに光り輝いていたのを間近に見ていたのもあり、
「ああ、僕もおじいちゃんみたいになるのかな」と不安になるばかりで…(笑)。
当時、僕の家は貧しく、友達に比べてお小遣いも少なかったのですが、
欲しいおもちゃを我慢し、お小遣いを貯めて、
ジェット噴射で頭にシュワっとする液体を吹きかける育毛剤を買ってみたり、
地元で有名な「椿油」を買ったり(1本3000円もした)、
今思うと、何やってたんだろうと思いますが、
その時は、必死の思いで毎日鏡を見て髪の毛の生え際をチェックしていました。
さらに切ないことに、
お小遣いやお年玉をほぼ全額育毛に費やしたおかげで、
当時人気のファミコンのソフトも、僕にはほとんど買えませんでした。
ある日、母におねだりにおねだりを重ね、
やっと買ってもらった某ソフトがクソゲーだった時の落ち込みようったらありゃしません。
女手ひとつで僕と妹を育て、
安い給料から泣く泣く息子のためにと5000円以上の大金を捻出し、
自分の新しい服も買わないような母の大事なお金を、
こんなクソゲーに変えてしまったなんて…と、
子供ながらに母に申し訳なさすぎて、本気で泣きましたね。
育毛剤さえ買ってなければ、自分の責任でソフトも買ってただろうし、
あの時の涙もなかったと思います。
そんな思いで作ったのが、この曲なんです。
自分の「悲愴」をただ歌っただけなんです。
そして、事件は起こった
15年くらい前だったか、とある大事件が起こりました。
Yahooニュースにも取り上げられてビックリしたのですが、
とある小学校の児童が、給食中の校内放送で、
「小フーガハゲ短調」を流し、それを聴いた薄毛の先生が激怒し、
曲を聴いて笑った児童に土下座をさせた、という。
笑ったのは20人くらいだったか、
土下座を強要したのは体罰だとして親側が激怒し、
それが問題になったというニュース。
この記事を読んだ時、血液が逆流しかけましたね。
僕の曲さえなければ、みんな土下座しなくて済んだんじゃないかと。
作者として責任を感じ、
フラッシュ動画の時のあの恐怖が、またも僕を襲いました。
僕はすぐにパソコンに向かい、震える手でブログを更新し、
求められてもいないのに、なぜか謝罪しましたよ(笑)。
丁寧に謝りつつも、
その先生が自分の事だと誤解して怒りを児童たちにぶつけるのはおかしいし、
曲を聴いて面白いと感じて笑っちゃうのは生理現象と同じだし、
みんなは決して悪くないぞと、悪いのは僕だと、
作者として謝罪しました。
曲を校内放送で流してくれた勇気ある小学生を讃えながら。
さらに、その数年後だったか、
この曲を道端で歌っていた子供に対して、
通りがかりのおじさんが「自分の事をけなされた」と、
ラリアットして暴力事件になったというニュースもありました。
事件を知って改めて反省
なんて器の小さな人間が多いことかと、
にわかに信じがたい話ではありますが、
そんなニュースを聞くたびに改めて「なんて曲を作ってしまったんだ」と、
反省の気持ちでいっぱいになりました。
僕がどれだけ言い訳しようと、曲の本質はなかなか伝わらないものです。
現代のコンプライアンスは、僕が思うにちょっと過剰過ぎる気もしますが、
さすがにどの時代でも「アウト」なんでしょう。
偉大なる作曲家バッハさんにも申し訳ないです。
あ!でもバッハも、あの有名な肖像画はカツラでしたよね。
17世紀から18世紀のヨーロッパでは、
貴族とか地位の高い人がカツラを着用するのが一般的だったようです。
カツラは権威の象徴だったようで、
今も昔も、やっぱり髪の毛に対するイメージは変わらないみたいですね。
男にとっては髪の毛は「永遠のテーマ」って事でしょうか。
人の魅力に髪の毛は関係なし
最後にどうしても言わせていただきたいことがあります。
僕が大好きな、一番影響を受けたサイモン&ガーファンクル、
2人とも、おでこはかなり広めです。
そのポールサイモンは、僕が最も尊敬するミュージシャンでもあります。
デビュー前、ポールサイモンに憧れ、
CDジャケットに写るギターの寸法を計算し、
ほぼ同じ形のギターをYAMAHAにオーダーメイドの発注をしたり、
(そのギターは今でもメインギターとして使っています)
全財産注ぎ込む勢いでアメリカまでライブを見に行き、1列目で号泣するなど、
計り知れないほどの憧れやリスペクトを今も持っています。
そして、これからもずっと憧れているでしょう。
したがって、
人間の偉大さや魅力に、髪の毛の量は全く関係ないということを、
僕は断言したいです(笑)。
その人が解き放つ魅力と毛量は、
決して比例の図式には当てはまらないと思うのです。
人はやっぱり、外見じゃないですよね。
運よく、今僕は髪の毛に恵まれていて、
まだまだ大丈夫そうではありますが、
今の時代、この曲はなかなか歌えないし、あえて歌いたいとも思いません(笑)。
あくまで、田舎の中学生が「悲愴」の心で作った曲ですからね。
いつか「小フーガハゲ短調」を下校中に歌う子供を見かけたら、
「人の魅力に髪の毛なんて関係ないよ」と教えてあげたいです。
* * *
◆最新ライブ情報
「ブリトライトウエキサイトナイト」
“牛の内臓スペシャル2001~2011+α”
【日時】2025年7月19日(土)
【場所】SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
【チケット】
・指定席:¥6,600(税込・ドリンク代別)
・VIP指定席(前方5列以内・メモリアルプレゼント付き):¥8,800(税込・ドリンク代別)
【チケット一般発売(先着)】
https://tiget.net/events/394997
◆リリース&ライブ情報
アルバム「ブリトラリニューアルビッグミニ」(2024年9月)
ライブ「ブリトラ完全リニューアル祭り2024」(2024年9月)
ライブ「ブリトラハモり極み祭り2025」“黄金スペシャル2012~2022+α”(2025年5月)
変わるコンビニ、変わらない青のり

新生ブリーフ&トランクスとして再始動した伊藤多賀之が
自身の楽曲や歌詞を手がかりに、“あの頃”と“いま”の違い、そして変わらずそこにあり続ける日常の断片を綴ります。
「青のり」「コンビニ」など、ブリトラ楽曲に登場した身近な風景を見つめつつ、
移ろいゆく時代の中でも変わらない“青のり”的な何かを探しながら、
「半径5メートル以内の日常生活」を描き出していくエッセイ連載です。