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妻はりんごを食べない

2025.07.11 公開 ポスト

瀧羽麻子氏インタビュー 後半

物語の舞台となる三つの場所は、どのように決めたのか?瀧羽麻子

発売前から、「展開が予測不能!」「一気読み必至!」と書店員さんが熱狂している妻はりんごを食べない。著者の瀧羽麻子さんの刊行記念インタビュー、後半です。

ロードノベルとしても楽しめる本作の裏側に…迫る!

(構成/瀧井朝世 )

(写真:イシヅカマコト)

主人公の夫とともに、妻の足取りをたどることに、読者はどんどんハマっていくはず。
妻はどこにいるのか? なぜそんな町に行ったのか?


――主人公たちは京都だけでなく、青森や長崎にも足を運ぶこととなります。物語の舞台を変化させていこうと最初から決めていたのですか。


瀧羽 決めていました。ロードノベル感を出したかったのと、主人公が一人でモヤモヤしているだけだと話が狭くなるので、動きがほしかったんです。場所を変えることによって、出てくる人物の幅も広がりますし。私は脇役を書くのが好きなので、行く先々でいろんな人を登場させるのが楽しかったです。


―― 三つの場所はどのように決めたのですか。京都は瀧羽さんも学生時代を過ごされた馴染みのある町ですが。


瀧羽 まず京都を選んだのは、京都の人は本心が分かりづらいというイメージが一般的にあって、今回の設定に合うと思ったからです。関東出身の主人公からすると、京都の人は本音を言っているのかどうか分からない。

青森は、なんとなく北の寒いところがいいなと思って(笑)。終盤にかけてどんどん話が加速していく中で、さらに離れた長崎にも行くことにしました。場所を決めてしまった後で、それぞれの土地の共通点や、小説の設定との繋がりが次々に見つかって、なんだか縁を感じました。私はディテールを考えるのも好きで、思いつきで決めた設定に、後から思いがけない意味がくっついてくるのが面白かったです。


――青森と長崎には取材に行かれたのですか。


瀧羽 行きました。今の時代、Google マップを見て書けると言えば書けるんですけれど、やっぱり現地に行くといろんな出会いや発見がありますね。風景もそうですし、行ってはじめて分かる事実や空気感がある。青森のりんご畑のシーンは、実際に行かなかったら書けなかったと思います。長崎は、秘密裡に信仰を持っていた潜伏キリシタンがいた場所で、今回の小説は秘密が大きなテーマの一つでもあるので、近しいものを感じました。

(写真:イシヅカマコト)

――暁生が映画好きということで、いろんな映画が言及されますね。タイトルは書かれていませんが、これは「ゴーン・ガール」のことだな、と分かったりして。登場するのはすべて実在の映画ですか。―


瀧羽 半々くらいです。実際にある映画を参考に、少し違う設定にして書いていたりもします。

妻がいなくなるフィクションってわりとあるんですよね。連れ去られたり、自発的にいなくなったり、夫に不満があったり、自身の問題があったり……既存の作品でも切り口はいろいろです。そういうものをどんどん出して、これとは違う、あれとも違う、と主人公をあたふたさせたかった。

あと、神話や民話にも、妻がいなくなる話があるんです。なので、妻の弟を民俗学者にしてみました。イザナギノミコトの話やオルフェウスの話を出しましたが、いなくなった妻を夫が連れ戻そうとする話って、起源が古いんですね。ある意味、普遍的なテーマなのかも。同じ境遇に立たされた主人公が、そうした話に思いをはせるところを書きたかったんです。


―― 最終的な真相が分かったと思ったら、そこからまた一筋縄ではいかない展開が待っていて唸りました。


瀧羽 これはいなくなった人を見つけるのが目的の話ではないな、と思っていました。たとえば子どもが誘拐されて、最後に無事見つかって「よかったよかった」で終わる類いの出来事ではないんです。


―― だからこそ、結末が腑に落ちました。なんともスリリングな作品となりましたが、書き上げての実感は。


瀧羽 一人の視点人物だけで長編を書くのは久しぶりだったんですが、楽しかったです。私は連作短編や群像劇を書くのも好きですが、今回は一人の目線だけだからこそ、めくるめく展開をひたすら追っていく感じが書けました。


――また一人称の長編にトライしてみたいですか。


瀧羽 そうですね。機会があれば。ちょっと大変ではあるんですけれど(笑)。

*   *   *

このほか、取材旅行リポートや、書店員さんからの絶賛コメントなども、「小説幻冬 2025.7号」に掲載されています。ぜひ、「小説幻冬」もお楽しみください!

関連書籍

瀧羽麻子『妻はりんごを食べない』

友達のように仲のいい夫婦に訪れた、突然の「妻の不在」。 スマホではこんなにも簡単に「つながる」のに、こんなにも手がかりが無いなんて。 そこはどこ? あなたは誰? 不安は、不信になり、不穏へ――。 日本を北に南に、夫は”見えない妻”を追う。

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妻はりんごを食べない

40代に入った小川暁生は、妻と二人の生活を気に入っている。

ところがある日、妻が実家に行ったきり、戻ってこない。

京都にある彼女の実家を皮切りに、日本を北へ南へ――彼女に縁のある場所を探る暁生だったが、どこへ行っても、彼女は気配だけ残し、姿は無い。

見知らぬこの地で彼女は何をし、どんな顔を見せていたのか? 

遠く離れた土地と土地を結ぶ“線”には、どんな秘密があるのか? 

そもそも彼女は無事なのか?

穏やかすぎる夫婦に突然訪れた、愛のゆらぎの物語。

愛と謎を軸にしたロードノベルに、書店員からの絶賛の声が続々届いている。

バックナンバー

瀧羽麻子

1981年兵庫県生まれ。京都大学卒業。2007年『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。2019年『たまねぎとはちみつ』で第66回産経新聞児童出版文化賞フジテレビ賞受賞。その他の著書に『株式会社ネバーラ北関東支社』『左京区七夕通東入ル』『いろは匂へど』『ありえないほどうるさいオルゴール店』『もどかしいほど静かなオルゴール店』『虹にすわる』『女神のサラダ』『博士の長靴』『さよなら校長先生』『かわせみのみちくさ』他、著書多数。
今作は、これまでの作品とはガラリと作風の変わった、謎を軸にした物語で、すでに、全国の書店員さんから絶賛の声が集まっている。

(撮影:イシヅカマコト)

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