
発売前から、「展開が予測不能!」「一気読み必至!」と書店員さんが熱狂している『妻はりんごを食べない』。著者の瀧羽麻子さんの刊行記念インタビュー、後半です。
ロードノベルとしても楽しめる本作の裏側に…迫る!
(構成/瀧井朝世 )

主人公の夫とともに、妻の足取りをたどることに、読者はどんどんハマっていくはず。
妻はどこにいるのか? なぜそんな町に行ったのか?
――主人公たちは京都だけでなく、青森や長崎にも足を運ぶこととなります。物語の舞台を変化させていこうと最初から決めていたのですか。
瀧羽 決めていました。ロードノベル感を出したかったのと、主人公が一人でモヤモヤしているだけだと話が狭くなるので、動きがほしかったんです。場所を変えることによって、出てくる人物の幅も広がりますし。私は脇役を書くのが好きなので、行く先々でいろんな人を登場させるのが楽しかったです。
―― 三つの場所はどのように決めたのですか。京都は瀧羽さんも学生時代を過ごされた馴染みのある町ですが。
瀧羽 まず京都を選んだのは、京都の人は本心が分かりづらいというイメージが一般的にあって、今回の設定に合うと思ったからです。関東出身の主人公からすると、京都の人は本音を言っているのかどうか分からない。
青森は、なんとなく北の寒いところがいいなと思って(笑)。終盤にかけてどんどん話が加速していく中で、さらに離れた長崎にも行くことにしました。場所を決めてしまった後で、それぞれの土地の共通点や、小説の設定との繋がりが次々に見つかって、なんだか縁を感じました。私はディテールを考えるのも好きで、思いつきで決めた設定に、後から思いがけない意味がくっついてくるのが面白かったです。
――青森と長崎には取材に行かれたのですか。
瀧羽 行きました。今の時代、Google マップを見て書けると言えば書けるんですけれど、やっぱり現地に行くといろんな出会いや発見がありますね。風景もそうですし、行ってはじめて分かる事実や空気感がある。青森のりんご畑のシーンは、実際に行かなかったら書けなかったと思います。長崎は、秘密裡に信仰を持っていた潜伏キリシタンがいた場所で、今回の小説は秘密が大きなテーマの一つでもあるので、近しいものを感じました。

――暁生が映画好きということで、いろんな映画が言及されますね。タイトルは書かれていませんが、これは「ゴーン・ガール」のことだな、と分かったりして。登場するのはすべて実在の映画ですか。―
瀧羽 半々くらいです。実際にある映画を参考に、少し違う設定にして書いていたりもします。
妻がいなくなるフィクションってわりとあるんですよね。連れ去られたり、自発的にいなくなったり、夫に不満があったり、自身の問題があったり……既存の作品でも切り口はいろいろです。そういうものをどんどん出して、これとは違う、あれとも違う、と主人公をあたふたさせたかった。
あと、神話や民話にも、妻がいなくなる話があるんです。なので、妻の弟を民俗学者にしてみました。イザナギノミコトの話やオルフェウスの話を出しましたが、いなくなった妻を夫が連れ戻そうとする話って、起源が古いんですね。ある意味、普遍的なテーマなのかも。同じ境遇に立たされた主人公が、そうした話に思いをはせるところを書きたかったんです。
―― 最終的な真相が分かったと思ったら、そこからまた一筋縄ではいかない展開が待っていて唸りました。
瀧羽 これはいなくなった人を見つけるのが目的の話ではないな、と思っていました。たとえば子どもが誘拐されて、最後に無事見つかって「よかったよかった」で終わる類いの出来事ではないんです。
―― だからこそ、結末が腑に落ちました。なんともスリリングな作品となりましたが、書き上げての実感は。
瀧羽 一人の視点人物だけで長編を書くのは久しぶりだったんですが、楽しかったです。私は連作短編や群像劇を書くのも好きですが、今回は一人の目線だけだからこそ、めくるめく展開をひたすら追っていく感じが書けました。
――また一人称の長編にトライしてみたいですか。
瀧羽 そうですね。機会があれば。ちょっと大変ではあるんですけれど(笑)。
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このほか、取材旅行リポートや、書店員さんからの絶賛コメントなども、「小説幻冬 2025.7号」に掲載されています。ぜひ、「小説幻冬」もお楽しみください!
妻はりんごを食べない

40代に入った小川暁生は、妻と二人の生活を気に入っている。
ところがある日、妻が実家に行ったきり、戻ってこない。
京都にある彼女の実家を皮切りに、日本を北へ南へ――彼女に縁のある場所を探る暁生だったが、どこへ行っても、彼女は気配だけ残し、姿は無い。
見知らぬこの地で彼女は何をし、どんな顔を見せていたのか?
遠く離れた土地と土地を結ぶ“線”には、どんな秘密があるのか?
そもそも彼女は無事なのか?
穏やかすぎる夫婦に突然訪れた、愛のゆらぎの物語。
愛と謎を軸にしたロードノベルに、書店員からの絶賛の声が続々届いている。