
前々からしつこいほど言っていた、私の漫画原作のドラマの放送がはじまった。
正直、ドラマ放送後、文字を書くことはもちろん、失語を患って「はい/いいえ」意思疎通する状態になっていると思ったので、こうやって原稿を書いているのが不思議ですらある。
放送2週間前から当日まで続いた下痢はやっと止まり、今は目尻から謎の粘液が出続けるにとどまっている。
とりあえず、一番危惧していた、炎上ということもなく、私が見た限り概ね好評のようで安心している。
そもそもドラマが大荒れを予想できる出来だったかというと、そんなことはない、むしろ原作が私というハンデを乗り越えてよくぞここまでという感想だった。
登場人物の顔面作画コストだけで原作の5億倍かかっており、予算感だけならもはや別物である。
しかし、制作側の配慮により、原作は間違いなく私の漫画になっているのだ。
漫画原作実写の最大の荒れポイントは「大幅な原作改変」だ。
もちろん漫画をそのまま実写にすることは不可能だし、二次元にZ軸をぶち込むだけで名作になるなら誰も苦労しない。
ただ、キャラや作品のテーマなど根幹がブレている実写に対し、原作ファンはメロスのように敏感なのである。
ただし、今回の実写化はギネス級に「原作ファンより俳優陣や脚本ファン数の方が圧倒的に多い」という異常事態なのだ。
例え原作ファンが全員激怒して邪知暴虐の公共放送を除かんとしても、俳優陣ファンの1%でも満足していれば余裕で制圧できるという戦なのだ。
しかし、こんな新兵の初陣に使われるレベルの戦いにも関わらず、妙なほど内容は原作通りに進んでおり、逆にそれが私の大腸周りを破壊する原因になっていた。
原作を無視して不評なら「原作を無視したのが悪い」と結果論で文句を言えるし、好評であれば「原型はないが原作のおかげ」と思うことができる。
しかし、原作どおり作ってダメだったら、それは原作が悪いとしか言えない、どれだけ1流シェフを揃えても、原材料がスチールウールだと食えるものにはならないのと同じだ。
では自分の原作を食べ物だと思いこんでいる鉄繊維の塊だと思っているかというとそんなこともない。
確かに「〆切」という因習があるため、解凍が間に合ってない食パンみたいな状態でお出ししなければならないことも、ままあるが、それでもその時の自分が面白いと思ったものを出している。
しかし、漫画家も長いこと続けると「面白いかどうか自分ではもはやわからない」という状態がやってくる。
自分が面白いと思ったものが全くの不発で、逆に半解凍の食パンの方がムシャムシャいかれているということもある、そういう経験を繰り返すと、もはや自分のセンスが信用できないのだ。
よって、ドラマを試写した時も、俳優のビジュと演技は文句なく、背景美術も音楽も作り込まれて素晴らしいと思ったのだが、何せ話の大筋が自分が作ったもの通りなので、自分的にはすごく良いと思うが、これを他人が見た時面白いのかどうかが、さっぱり判断できなくなっていたのだ。
よって唯一得られる客観的意見として夫に見せたのだが、夫から寄せられたコメントは驚くべきことに「これは荒れそう」の一言であった。
むしろ「荒れそう」という感想のみを抱えて2週間、下痢だけで済ませた私を褒めてほしい、尻から溶解した内臓が全部出てもおかしくない。
そして前日深夜に嘔吐して迎えた放送当日だったが、前述の通り見た限り好意的な意見が多く、少なくとも荒れてはなかったので、私もようやく「やはり良く出来ている」と思うことができた。
もちろん今後何が起こるかわからない、初回はよくてもその後の展開でも燃えるかもしれないし、むしろ最終回が一番燃えがちなのもフィクションの怖いところだ。
作品に問題がなくても、関係者が逮捕されるという異次元の激震が走る可能性があるのも3次元の怖いところだが、関係者の中で一番お縄の可能性があるのが自分なので、それは多分大丈夫だ。
だが原作者すら納得いっておらず、放送中作者のSNSが不気味な沈黙を続けるか、食った飯の話しかということもある。
そんな中、これでダメなら話を作った自分を呪うしかないないというレベルのものを作ってもらえたのだから良いではないかと改めて思えた。
そして、夫のコメントは、初めてのメディア化で不安を抱えて下痢をしている配偶者にかける言葉として、改めて狂っていると確信した。
仮にそれが本当に荒れそうだったとしても、身内だけは「俺は好き」ぐらいのことは言ってやってほしい、さもなくばドラマは荒れなくても、配偶者は座礁する。
カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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