1. Home
  2. 生き方
  3. 避赤地
  4. 君の街まで

避赤地

2025.04.05 公開 ポスト

君の街までマヒトゥ・ザ・ピーポー

ここ最近、雨が続いて桜がちっていないか不安になって夜中に近くの公園に行く。4月の初旬、よかった。まだかろうじて咲いている。どうしてこの花のことを綺麗だと思うのだろう。小さい頃は埃の塊が枝の先についてるみたいで“綺麗”というフォルダには入れていなかった。むしろ夜の街灯が不自然なほど淡く浮かべるのを不気味な気持ちで見ていた覚えがある。この世のものと思えなかった木の下でスーツを着た大人が泣いているのを見たことがある。小さなわたしは横に立ち、顔をじっと見ていた。心配していたのではなく、驚いていた。大人は泣かないものだと思っていたから。

小雨の降る中、公園のベンチに座り、缶ビールのタブを開ける。日比谷野外音楽堂で踊ってばかりの国とライブをしたのは二週間前。なんだか熱ばんだ体が未だ着地せずに、気球のように浮かんでいた。多分だけど一度も靴底は地面についていない。その熱を家で一人では抱えきれず、わたしたちはひたすらにスタジオで練習した。可能性に触れている瞬間はあらゆる不安や寂しさから自由でいられる。バンドは手段ではなく、目的そのものだとわたしは知っている。

ここから先は会員限定のコンテンツです

無料!
今すぐ会員登録して続きを読む
会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン

*マヒトゥ・ザ・ピーポー連載『眩しがりやが見た光』バックナンバー(2018年~2019年)

関連書籍

マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』

外国に行ったことのない英会話講師のゆうき。長く新しい曲を作れていないミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自 分を責め続ける、ましろ。大事なことを決めるのはいつも自分以外。人生の終わりも、突然の「通達」で決められてしまった。でも最後 くらい「自分」を生きたい ――。単調な日々の景色が鮮烈に変わる、美しく切ない終末小説。

マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』

海外に行ったことのない英会話講師のゆうき。長いあいだ新しい曲を作ることができないミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自分を責め続ける、シングルマザーのましろ。 決めるのはいつも自分じゃない誰か。孤独と鬱屈はいつも身近にあった。だから、こんな世界に未練なんてない、ずっとそう思っていたのに、あの「通達」ですべて変わってしまった。 タイムリミットが来る前に、私たちは、「答え」を探さなければならない――。 孤独で不器用な人々の輝きを切なく鮮やかに切り取る、ずっと忘れられない小説。

{ この記事をシェアする }

避赤地

存在と不在のあいだを漂うGEZANマヒト、その思考の軌跡。

バックナンバー

マヒトゥ・ザ・ピーポー

ミュージシャン。2009年に大阪にて結成されたバンド・GEZANの作詞作曲を行いボーカルとして音楽活動開始。
2014年からは、完全手作りの投げ銭制野外フェス「全感覚祭」も主催。自由に境界をまたぎながらも個であることを貫くスタイルと、幅広い楽曲、独自の世界を打ち出す歌詞への評価は高く、日本のカルチャーシーンを牽引する。
著書『銀河で一番静かな革命』『ひかりぼっち』、絵本『みんなたいぽ』(絵:荒井良二)。映画監督作品『i ai』がある。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP