1. Home
  2. 社会・教養
  3. 国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶
  4. 日本人の11%が「コロナ感染は自業自得」...

国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶

2025.08.14 公開 ポスト

日本人の11%が「コロナ感染は自業自得」 経済の低迷を生んだのは“不寛容さ”だった!加谷珪一(経済評論家)

日本人の隠れた本性が景気を停滞させている! 政府系金融機関などのコンサルティングを務めた経験を持つ加谷珪一さんが、日本経済の長期的低迷を「国民性」という誰も触れたがらない視点で暴いた注目の一冊『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』。本書より一部を抜粋してお届けします。

本来の「自己責任」と日本社会における誤用

このところ「自己責任」という言葉を見聞きする機会が増えています。

投資やビジネスの世界では、結果の責任はすべて自分が負うという意味で「自己責任」という用語がよく使われてきましたが、今、日本社会で多用されている自己責任論はこれとはかなりニュアンスが違っています。本来の意味を超えた過度な自己責任論は、社会的にはもちろんのこと、適切な経済成長を阻害するという点において経済的にも問題があると筆者は考えます。

自己責任という言葉は、投資の世界における「自己責任原則」を除けば、明確に定義されているわけではなく、自分の行動がもたらした結果は自分が責任を負うという程度の意味合いです。責任が及ぶ範囲がどこまでなのかについては、その言葉を口にする人によって様々であり、明確な共通認識はないと思ってよいでしょう。

過剰な自己責任論が生むバッシングとその心理背景

投資における自己責任原則のように投資活動に限定した使い方であれば、この言葉が多用されたところで大きな問題は発生しません。株式投資はまさに自己責任の世界ですが、どの株をいくらの値段で、いつ買うのかを決めるのはすべて自分であって、それ以外の要素が入る余地はほぼゼロです。ビジネスの世界も同じであり、公平な競争環境が存在しているのなら、失敗はすべて自分の責任であり、他人のせいにすることはできません。

明確にルールが定められているわけではありませんが、経済活動における自己責任論というのは「相応の意思と能力を持った人が参加」することが大前提であり、そうであればこそ「自分自身がすべての結果を負う」という暗黙のルールが成立しています。

ところが近年、日本において声高に叫ばれている自己責任論は、それとは大きく異なっています。不可抗力であったり、本人に法的な権利があるものに対してすら、自己責任という言葉を適用し、権利の行使を抑圧しているように見えます。

もっとも露骨なのは新型コロナウイルスへの感染でしょう。

日本ではウイルスに感染した人をバッシングする人が後を絶たず、感染が分かると企業を解雇されるというとんでもない事例もたくさんありました。

一般論として感染予防策というものは存在していますが、広範囲にウイルスが存在している状況では、感染を100%防ぐ方法はありません。各人がより慎重に行動した方がよいのはその通りですが、本人に大きな過失がない限り、感染については不可抗力と考えた方が合理的です。

基本的に諸外国ではコロナ感染について不可抗力と認識されていますが、日本の場合、必ずしもそうとは言えない部分があります。

大阪大学の三浦麻子教授らの研究グループが2020年に行った調査によると、「新型コロナウイルスに感染する人は自業自得だ」と考える日本人は11.5%と、米国人(1.0%)、英国人(1.49%)、イタリア人(2.51%)、中国人(4.83%)と比較して突出して高い水準でした(図)。

日本人だけが比率が高いことの明確な理由は不明ですが、「公正世界仮説」という心理メカニズムが作用している可能性が高いと言われています。

公正世界仮説というのは、「社会は本来、安全で公正なものであるべきだ」という認知バイアスのことを指します。この価値観が強すぎると、想定外の悪い事態が発生した際、「そんなはずはない」と考えてしまい、被害を受けた人が過去に悪いことをしたに違いないと考える傾向が強くなります。

日本では通り魔事件の被害に遭った人が、逆に「深夜に出歩く方が悪い」と非難されるケースがありますが、これは公正世界仮説のメカニズムで説明できます。同様に日本では性犯罪が発生すると、加害者ではなく被害者が批判されることも少なくありません。日本社会は安全であるという「神話」が崩れることに耐えられず、被害者に問題があるという歪んだ形で自身を納得させようとするわけです。

神話が崩れた時、精神的にどのような作用がもたらされるのかは人によって異なるはずですが、日本ではたいていの場合「誰かが悪い」という話になります。ここでも他人の足を引っ張る、不寛容な社会という特徴が顕著に表れています。

もし、こうした感情が日本における自己責任論の背景なのだとすると、それはもはや経済活動における自己責任論とはまるで異なる概念と言わざるを得ません。

不可抗力や権利を有する事柄についてまで自己責任の用語を使うことについては、社会的にしっかりと抑制していかなければ、弱者へのバッシングにつながりかねません。そして生活保護の領域ではこの問題がかなり深刻化しています。

「生活保護」制度の歪みと自己責任論の危険性

生活保護の申請は国民が持つ権利ですが、現実には「住所がないから申請できない」など不当な理由で追い返されるケースが後を絶ちません。

申請者の親族に対して援助できるか問い合わせを行う扶養照会も、申請を諦めさせる手段として多用されています(生活保護申請者が親族から虐待を受けている可能性もあるため、扶養照会は重大な人権侵害を引き起こす可能性があり、先進諸外国ではほとんど行われていません)。

生活が困窮したのはすべて本人の責任であり、支援する必要はないという考え方になりますが、これは明らかにダブルスタンダードといってよいでしょう。

生命が脅かされる危険な状態であっても、経済活動の結果について、すべて自身が責任を負うべきだという概念がコンセンサスを得ているのなら、政府が行ったコロナ関連の支援策は全否定されるべきですが、現実はそうではありません。

すべてが自己責任ならば、企業にリストラされるのも自己責任なので公的な失業保険も不要となります。米国のように年金や医療も民営にしてしまえばよいでしょう。ちなみに、自己責任社会の頂点に立つ米国ですら、生活困窮者向けには公的な医療制度や年金制度などが整備されていますし、今の日本で年金と医療を民営化してしまったら、保険料は跳ね上がり、多くの国民が満足な医療を受けられなくなるでしょう。

結局のところ、今、声高に叫ばれている自己責任論とは、弱者に対するバッシングを行うための道具に過ぎず、経済活動における自己責任とは異質のものとなっています。こうした歪んだマインドは、社会的に問題があるのは当然のことですが、健全な市場メカニズムを阻害するという点において、経済的な悪影響も大きいのです。

*   *   *

この続きは幻冬舎新書『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』でお楽しみください。

加谷珪一さんの新刊『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来 物価高、低賃金に打ち勝つ秘策』も好評発売中!

関連書籍

加谷珪一『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』

他の先進国が消費を拡大する中、なぜ日本だけが沈み続けるのか――原因は、緊縮財政でも消費増税でもなく「日本人の性格」だった。高度成長からバブル期は、人口増加、輸出主導で我が世の春を謳歌した。が、自己陶酔した「優しさ」「思いやり」「絆」の像とは裏腹に、じつは猜疑心が強く、他人の足を引っ張るという隠れた国民の本性が、「失われた30年」で明らかになった。後ろ向きな心持ちでの景気向上はあり得ない。本書は日本人の消費マインドが萎縮する現状を分析、数多のデータから景気浮揚できない理由を指摘し、解決策を提示する。

加谷珪一『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来 物価高、低賃金に打ち勝つ秘策』

付け焼き刃のバラマキ政策に流されない! 生活の攻め【資産形成】と守り【年金理解】を確立せよ 社会保障、税、手取りの仕組みがわかれば、豊かな生活は手に入る 賃金停滞と米などの物価高騰の二重苦に晒される私たちの生活。財源なき減税論が政争の具とされ、国民も「今さえよければ」という一種の思考停止状態に陥っている。 日本経済はなぜツケを後回しにし続ける袋小路から抜け出せないのか? 年金や税、賃金の制度を変えることは簡単ではない。しかし、その仕組みを正しく理解することで、減税に頼らず手取りを増やす糸口は見出せる。その時は今しかない。 データに基づいた分析に加え、著者自身の経験則から導いた資産形成方法も明らかにした、国が、個人が生き残るための緊急提言。

{ この記事をシェアする }

国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶

加谷珪一さんの新書『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』の最新情報をお知らせいたします。

バックナンバー

加谷珪一 経済評論家

仙台市生まれ。1993年東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。その後野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、「ニューズウィーク」や「現代ビジネス」など多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどで解説者やコメンテーターなどを務める。ベストセラーになった『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『ポスト新産業革命』(同)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。

加谷珪一オフィシャルサイト http://k-kaya.com/

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP