幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
天野節子『他言せず』
を、他人に話してはいけません」。倉元家へ奉
公に上がったよし江に、女中頭は告げた。あ
る時、顔馴染みの御用聞2人が続けて行方
不明になり、警察は店の台帳をもとに彼らの
配達先を訪ねるが……。
一方、こちらは文庫書き下ろしとなるミステリ小説。まず、このタイトルがいい。思わせぶりで、一気に作品世界に吸い込まれていくようだ。
昭和33年、東京・下目黒の交番に、ある失踪人の届け出があった。いなくなったのは食料品店に住み込みで働く20歳の男。店の主人によると、自転車で得意先に配達に出たまま行方が分からなくなったという。しかし、当時は「尋ね人の時間です」というラジオ番組もあったくらい行方不明者が多かった。この案件も単なる家出と見なされた。だが、半年後、今度は精肉店で働く21歳の男が失踪した。ともすれば、これも「よくあること」になるところだが、交番の巡査たちは2つの事案に共通点(同じ管内、住み込みで働く若い男、自転車で配達中に行方不明になったなど)があることに違和感を覚え、独自に捜査を開始。2人が失踪した当日の配達先に共通する得意先の洋館が怪しいと狙いをつけるが……。
そして、小説は巡査部長と、この洋館で働く女中の視点を行き来しながら進む。この女中は、先輩から屋敷で見聞きしたことは決して他人に言ってはならないと、固く命じられていた。
本作の背景にあるのは戦後の混乱と高度成長が共存する当時の社会。その中で真相に迫る警察と、秘密を守ろうとする容疑者の鬼気迫る攻防。そして変わらぬ人間の業の深さ。400 ページを超える大作だが、読むのを止められない。その冷徹な筆致と相まって、松本清張を彷彿とさせるこんな重厚なミステリが文庫書き下ろしで楽しめるとは!
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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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