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避赤地

2024.12.31 公開 ポスト

ヨアケマヒトゥ・ザ・ピーポー

階段を降りると、この時期決まって訪れる年末の静けさが深夜の街を包んでいるのが見え、引き締まった空気を肺に入れると酸素もどこか緊張していていつもよりざらついている。コンビニで缶ビールを買って、公園へ向かう。道には誰かのもういらなくなった歌がいくつか捨てられていて、拾い上げ街灯に照らす。もういらなくなった理由が透けて見え、もう少しだけポケットの大きな服でこれば、もう少しだけ持って帰れたのになとか思った。

今年はどんなだったろう? 前に進んだような気もするし、そもそもどこが前だったのかも忘れてしまった気もする。アイフォンのスケジュールを開いて2024年の一月まで遡ってみる。そうさせる力が年末にはある。たかだか数字が一つ増えるだけだというのに。

監督した映画「i ai」を公開したのも今年だった。あの時集った仲間たちはみんな元気にしているだろうか? その頃のスケジュールを見ると埋め尽くされた舞台挨拶やらインタビューの予定に胸が一気に苦しくなる。慣れない稼働に精神を蝕まれた記憶が白紙の上に滴る。この時期、わたしは闇に一度落ちた。でもその時の感触も今ではとっくに薄れて、世界には作品だけが残った。もう二度撮ることのできないわたしのデビュー作。同じ本、同じキャストを用意しても再現することのできない時間の集積が、わたしの遥か先から視力を失ったわたしを見ている。いや、そもそも同じキャストを集めることもできない。わたしたちはそれぞれの砂時計を振って愛や才能を渡しあい、有限な時を交換しながら生きているから。

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*マヒトゥ・ザ・ピーポー連載『眩しがりやが見た光』バックナンバー(2018年~2019年)

関連書籍

マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』

外国に行ったことのない英会話講師のゆうき。長く新しい曲を作れていないミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自 分を責め続ける、ましろ。大事なことを決めるのはいつも自分以外。人生の終わりも、突然の「通達」で決められてしまった。でも最後 くらい「自分」を生きたい ――。単調な日々の景色が鮮烈に変わる、美しく切ない終末小説。

マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』

海外に行ったことのない英会話講師のゆうき。長いあいだ新しい曲を作ることができないミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自分を責め続ける、シングルマザーのましろ。 決めるのはいつも自分じゃない誰か。孤独と鬱屈はいつも身近にあった。だから、こんな世界に未練なんてない、ずっとそう思っていたのに、あの「通達」ですべて変わってしまった。 タイムリミットが来る前に、私たちは、「答え」を探さなければならない――。 孤独で不器用な人々の輝きを切なく鮮やかに切り取る、ずっと忘れられない小説。

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避赤地

存在と不在のあいだを漂うGEZANマヒト、その思考の軌跡。

バックナンバー

マヒトゥ・ザ・ピーポー

ミュージシャン。2009年に大阪にて結成されたバンド・GEZANの作詞作曲を行いボーカルとして音楽活動開始。
2014年からは、完全手作りの投げ銭制野外フェス「全感覚祭」も主催。自由に境界をまたぎながらも個であることを貫くスタイルと、幅広い楽曲、独自の世界を打ち出す歌詞への評価は高く、日本のカルチャーシーンを牽引する。
著書『銀河で一番静かな革命』『ひかりぼっち』、絵本『みんなたいぽ』(絵:荒井良二)。映画監督作品『i ai』がある。

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