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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

2024.11.14 公開 ポスト

藤岡みなみが「読んでいて笑った本」は珍ファンタジーな『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』菊池良(作家)/藤岡みなみ(エッセイスト/タイムトラベラー)

元々、芥川賞候補作を読んでお話しする読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。

毎月テーマを決めて、一冊ずつ本を持ち寄りお話しする、「マッドブックパーティ」。第六回は「読んでいて笑った本」です。思わず笑ってしまった本をお二人に持ち寄っていただきました!

 

読書会の様子を、音で聞く方はこちらから。

*   *   *

藤岡:今月もよろしくお願いします。

菊池:よろしくお願いします。

藤岡:第6回です。半年、あっという間ですね。

菊池:はい、あっという間に経ちました。

藤岡:でもやっぱり、毎月定期的に読書会をするのってすごく楽しいですね。

菊池:うん、そうですね。毎月新しい本にも出会いますし。

藤岡:私、ずっと読書会をやりたいなってここ何年も思っていて。小さな読書会って最近よく、個人書店さんとかでも開催されてると思うんですけど、ああいうのいいなってずっと思ってたので、今、毎月やれて、「これは本当にブックパーティーだな」って思ってます(笑)。

菊池:楽しいですよね。好きな本も掘り下げられますし。

藤岡:そうそう、改めて読んだりね。

菊池:そうですよね。テーマごとに本を選ぶ楽しみもありますよね。

藤岡:はい。しかも今回はテーマが「読んでいて笑った本」ということで、特に楽しい会かもしれない。

菊池:そうですね。僕もどれにしようかなって迷いました。

藤岡:ね。すごい悩みましたよね。じゃあ私が持ってきた本から。

菊池:はい。お願いします。

藤岡みなみの「読んでいて笑った本」:宮田珠己『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』(大福書林)

藤岡:今回私が紹介するのは、宮田珠己さんの『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険です。これがほんとに面白い。

菊池:はい、面白かったです。

藤岡:面白いですよね。最初にこの「笑った本」っていうテーマで本を探った時に、ぱっと浮かんだものは面白エッセイみたいなものだったのですが、どれを紹介しようかなってすごい悩んで。面白いエッセイってたくさんあるから、たくさんありすぎて、逆に決められないみたいな感じになって。

菊池:そうですよね。

藤岡:それでちょっと方向性を変えて、面白エッセイを書いている宮田珠己さんの、面白小説にしたんですけど。

菊池:そう、小説なんですよね。

藤岡:宮田珠己さんって、元々旅エッセイがとても人気で、いろんな珍道中を書いてらっしゃるんですが、そのエッセイが笑うところもたくさんあるし、いつもなんか「とほほ」な感じというか、肩の力が抜けた脱力感が、私はすごく好きなんですけど。エッセイでの脱力感が小説にもそのまま生きているっていうのが、この『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』なんですね。

菊池:なるほど。はいはい。

藤岡エッセイの時と、いい意味で同じテンションの部分があってそれが嬉しくて。この本は装丁からして、なんだか神々しい感じです。

菊池:うん、そうですよね。

藤岡:網代幸介さんという方が描いた装画とか綴じ込みイラストがついてるんだけど、それもとても雰囲気があって、宗教画というか……。

菊池:いろんな、なんでしょう、モンスターというか、空想的な生き物が描かれています。

藤岡:そうそう。この1冊を手に取った時点で、なんかとっても特別感を感じます。まさかその中身が「とほほな旅行記」とは思わないんですけど。
ストーリー的には、うまく説明できるかわからないけど……。元々、ジョン・マンデヴィルの『東方旅行記』っていう有名な本があって、この本の原典になっている14世紀ごろの本なんですけど。最初の方は、自分が旅した記録を書いてるんだけど、後半から段々、でたらめになっていくというか、架空の生き物がどんどん出てくる「とんでも本」として知られてるんです。ジョン・マンデヴィルという人が本当にいたかどうかも、歴史上微妙なところらしいんですけど。
そのジョン・マンデヴィルの息子がこの本の主人公のアーサー・マンデヴィル。彼が「あなたはこの『東方旅行記』を書いたジョン・マンデヴィルの息子だから、この本に書いてある通り旅をしてくれ」ってローマ教皇に言われて旅に出るっていうお話なんです。

菊池:しかも、息子のアーサー・マンデヴィルは父親の書いた旅行記をデタラメだと思ってるんですよね。

藤岡:そうそう、ローマ教皇は本当の話だと思って、「この本に書いてある、すごく遠いけど同じキリスト教徒の国に行って同盟を組んできてほしい」って頼むんだけど、でもお父さんを昔から見てると旅に出てた感じもないし、多分適当に書いてるだろうってアーサーは思ってるから、そんな適当に書かれた本の旅をしてこいって言われても無理だろっていう。無茶言うなっていう形で旅が始まる。

菊池:そう、無理だろって思いながら本人は旅してるっていう。

藤岡:本人はインドア派で、苔とかが好きで庭作りを一番の趣味としてるタイプで、旅になんか本当は出たくないのに、すごく重い任務を課されて、いやいや旅に出るっていう。

菊池:そのギャップが面白いですよね。

藤岡:そうなんですよ。もうずっと嫌がってるんですよね。この本384ページあるけど、最後まで嫌だなって思ってる。

菊池:ええ。

藤岡その感じが、宮田珠己さんのいつものエッセイに感じる「とほほ」な感じと一緒で、すごく嬉しい。ローマ教皇が~とかみたいな話って、私が普段あんまり読まないタイプの世界観で、自分で手に取るかって言ったらそんなに取らないと思うんだけど、でも、めちゃくちゃ面白くて。
しかも実際に旅に出てみると、本当に変な動物とかいっぱい出てきます。

菊池:そうなんですよ。

藤岡:実際に変な生き物がいっぱい出てきて。頭が犬の人間とか、魚になっちゃった人間とか、あと、マンドラゴラっていう、引っこ抜くとその叫び声を聞いて人間が死んでしまうっていう伝説の植物とか。もう変なものがいっぱい出てきて、その描写とかもワクワクしながら読むっていう、珍ファンタジー

菊池:そうですよね、でたらめだと思ってたことに、旅してみたら実際に出会ってしまう。

藤岡:そうそう、本当に変な世界が広がってる。でも、 実際に14世紀とかの、こういう旅して他の世界を見てきたみたいな本ってたくさんあるけど、不思議なことが書いてあるのがこの時代の書物の特徴だったりもして。伝聞とか曖昧なものも混ざっていますし、実際の不思議さもあるし、自分たちが普段見ていて当たり前に思ってるものも、外から見たら奇妙だよねっていうところもあるし……。

菊池:そうですよね。

藤岡:様々すぎる文化にどんどん出会っていくんですよね。

菊池:これもそうか、小説ですけど、旅物ですね。

藤岡:旅物ですね。うん

菊池:だから、宮田さんの他のエッセイでは現在を旅してるけど、これは時代を変えて旅してるっていうことなんですよね。

藤岡:そうなんですよね。多分旅したかったんですよね、ずっと。宮田さんってかなりの読書家で、めちゃくちゃいろんな時代のいろんなジャンルの本を読んでて、多分『東方旅行記』を読んで、自分もこの世界を旅したいって思われたんじゃないかなって。

菊池:それはわかりますね。

ファンタジー史上、最も冷めた主人公⁉

藤岡:ファンタジーの温度感って、他だったらもっとロマンチックだったり感動的だったり厳かだったりするんだけど、すごい平熱のツッコミが入ったりして、「ファンタジーをその視点で見るんだ」みたいな切り口が時たま現れて、そういう時に声を出して笑ってしまう。

菊池:確かに他のファンタジーと違って、アーサーが旅行記の内容を信じてないんで、ツッコミ役になってるんですよね。

藤岡:そうなんですよね。ファンタジー小説史上、最も冷めた主人公かもしれない。

菊池:確かに他のファンタジー小説ではツッコミ役はその世界観に対してツッコむなんてないですよね。

藤岡:そうなんですよね。ツッコんでいいんだ、みたいなところもありつつ、そこが非常に面白い。

菊池:いろんな空想上の奇妙な生き物が出てくるんですけど、僕はやっぱりバロメッツが好きです。

藤岡:そうなんですね! かわいいですよね。

菊池:植物なんだけど、育つと、木の実とかじゃなくて羊が生えてくる。これはすごい魅力的な植物ですよね。

藤岡:そうなんですよね。

菊池:主人公が、庭いじり、庭作りが好きなんで。植物を見ると、持って帰りたいとか思うんですよね。

藤岡:そこもかわいい。私が好きなのは、なんだろうな。やっぱり頭が犬で体が人間のキュノケファルスかな。 とっても気前がいいっていう性格が好きです。一番気前がいい人が王様になれるっていう国だから、頼み事をすると絶対オッケーしてくれる。それがすごい面白くて。

菊池:主人公を助けてくれるんですよね。面白かったですね、ここも。

藤岡:あとはやっぱり、このイラストも本当に素晴らしくて。蛇腹になっている長い絵巻のようなイラストが綴じこみ付録でついてるんですけど、物語に出てくる不思議な生き物とかが全部描かれています。この本ってプレゼント、贈り物にしたいかも。

菊池:そうですね。この絵も想像力をかき立てられて、すごくいいですよね。

藤岡:そうなんです。特別感があって、神々しさがあって、だけど笑えるっていう、ギャップがすごい。

菊池:すごく豪華な作りですよね。

藤岡:豪華ですよね。表紙に箔押しもしてあるし。

宮田さんのエッセイとも、やっぱり繋がっている

藤岡:というわけで、私が「笑った本」でおすすめしたい『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』でした。

菊池:はい。僕も読んでてすごく面白かったです。

藤岡:よかったです。

菊池:宮田さんのエッセイ、僕も好きで読んでて。『旅の理不尽』という最初の本を多分中学生ぐらいに読んで、文章でこんなに笑えるんだって思いましたね。

藤岡:そうですよね。 私もそうかも。私も10代ぐらいの時に宮田さんのエッセイに出会って、衝撃を受けましたね。

菊池:そうですよね。宮田さんの旅のエッセイの中でも『旅の理不尽』ってタイトルについてるぐらい理不尽なことが起きるんですけど。それを淡々とというか、なんか冷めた感じで、ツッコミながら書いてたりして。そういうところがすごく面白かったんですけど、そのテイストがこの小説の中にも入ってて。

藤岡:だって、この小説のタイトル『旅の理不尽』でもいいですもんね。

菊池:そうですね。『旅の理不尽』でもいい。最初のエッセイ集が『旅の理不尽』で、この小説は『不合理な冒険』。

藤岡:そう、同じこと言ってる。

菊池:繋がってるんですね。じゃあ宮田さんがこの時代に生きてたら、こういう旅をしてたかもしれない。

藤岡:多分そうですね。

菊池:いや、すごく面白かったです。

藤岡:ありがとうございます。

*   *   *

来週は菊池良さんが「読んでいて笑った本」を取り上げます。どんな本なのか、お楽しみに!

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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

菊池良さんと藤岡みなみさんが、毎月1回、テーマに沿ったおすすめ本を持ち寄る読書会、マッドブックパーティ。二人が自由に本についてお話している様子を、音と文章、両方で楽しめる連載です。

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菊池良 作家

1987年生まれ。「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」シリーズ(神田桂一氏との共著)は累計17万部を突破する大ヒットを記録。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』『芥川賞ぜんぶ読む』『タイム・スリップ芥川賞』『ニャタレー夫人の恋人』などがある。

藤岡みなみ エッセイスト/タイムトラベラー

1988年、兵庫県(淡路島)出身。上智大学総合人間科学部社会学科卒業。幼少期からインターネットでポエムを発表し、学生時代にZINEの制作を始める。時間SFと縄文時代が好きで、読書や遺跡巡りって現実にある時間旅行では? と思い、2019年にタイムトラベル専門書店utoutoを開始。文筆やラジオパーソナリティなどの活動のほか、ドキュメンタリー映画『タリナイ』(2018)、『keememej』(2021)のプロデューサーを務める。

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