元々、芥川賞候補作を読んでお話しする読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。
毎月テーマを決めて、1冊ずつ本を持ち寄りお話しする、「マッドブックパーティ」。第四回のテーマ「好きな絵本」の後半です。幼いころ読んでいた絵本、思い出してみませんか?
読書会の様子を、音で聞く方はこちらから。
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菊池良の「好きな絵本」:ウィリアム・スタイグ作、木坂涼訳『ピッツァぼうや』(らんか社)
菊池:僕のおすすめしたい絵本はウィリアム・スタイグ作、木坂涼訳の『ピッツァぼうや』です。
藤岡:初めて読みました。すごいかわいい。
菊池:そうですよね。『ピッツァぼうや』っていうタイトルで、笑ってる男の子の顔がアップ。
藤岡:しかも裏表紙も一緒。
菊池:そうなんですよ、どっちも同じで。これだけで、なんだろうって思いますよね。
藤岡:全然ピザじゃない表紙ですもんね。
菊池:そうなんですよ。「ピッツァぼうやってなんだ?」ってまず思いますよね。ピザを作る子どもの話なのかなって思って読みますよね。
藤岡:思いました。うん。
菊池:ところが、ちょっと違うんですよ。雨が降って、外で遊べなくなった子どもが、退屈だからなんかしたいって言って。そしたらそのぼうやのピートくんの両親が、じゃあピザごっこをしようって、ピザごっこをするっていう絵本なんですけど(笑)。
藤岡:ピザごっこするって言っても、普通コックさんをやりますよね。
菊池:そうなんですよ。おままごと的な、料理をする遊びなのかなって思うと、このピートくんをテーブルの上に置いてピザに見立てて、ピートくんをピザとして調理するっていう。
藤岡:まさかのピザ側。
菊池:机の上に寝転がせて、生地をこねて、チーズをかけてっていう。
藤岡:これはまさに「ピッツァぼうや」ですね。
菊池:そうですね。少年そのものがピザになるっていう遊び。
藤岡:しかも可愛いんですよね、ピザになってる時の顔が。なんか澄ましたような感じの顔でこねられてる。
菊池:この絵もすごくいいですよね。線もフリーハンドで。日本だとヘタウマとかの分類になる絵かもしれないです。
藤岡:ゆるい感じの。
菊池:そうです。ゆるくて味のある絵で、それもすごくいいんです。
絵本を1000冊読んでみた!
菊池:この絵本は、絵本を読もうって思ってから読んだ絵本です。そもそもなんで僕が絵本をたくさん読み始めたかって言うと、芥川賞を全部読んだあと、いろんな人に「次は直木賞ですか?」とか。
藤岡:全部はきつい、長い!
菊池:「ノーベル文学賞ですか?」とか。
藤岡:またまた長い!
菊池 :色々聞かれまして。なんか読みたいなとは思うんですけど、何がいいだろうなって考えた時に、そういえば絵本ってそんなに読んできてないなって気がついて。
子どもの頃は読んでましたけど、それでも10から20冊ぐらい。家にある絵本を何度も読むって感じだったんで、そんないろんな絵本読んできてなかったなって思って。それで、じゃあとりあえず1000冊読んでみようって。
藤岡:それがおかしいですよね。とりあえず1000冊って(笑)。
菊池:企画とかもその時は考えてなくて、1000冊読んだらなんかあるんじゃないか? って。
藤岡:なんか見えるものがね、確かに。
菊池:はい。それで読み始めて、結構最初の方にこの『ピッツァぼうや』を読んで、こんなのありなんだってすごい衝撃を受けて。ますます絵本にはまるきっかけになったんです。
藤岡:そうなんですね。本当に菊池さんがこの本を好きなのがわかる。さっき、喋りながらずっと笑ってて、笑いが止まらない紹介だったから。
菊池:そうなんです。可愛いですし、発想に意外性があって、絵本ってこんなのがありなんだなって思って、どんどん他の絵本を読むようになったっていう感じですね。
ウィリアム・スタイグさんは、絵本の他に、児童書も書いてて。アニメ映画でやった「シュレック」の原作(『みにくいシュレック』)もこの人なんです。
藤岡:シュレックの原作! シュレックは絵本ですか? 児童書ですか?
菊池:シュレックは絵本でしたかね。あれは要は昔話のパロディで。登場人物がプリンセスなのに強いとか、そういう発想で作られてたりする本です。他にも、そういうパロディとか、ちょっと変わった発想で書いてる本が多いですね。
『ものいうほね』っていう、登場キャラクターが喋る骨を拾うっていうだけの絵本だったりとか。『空とぶゴーキー』だと、主人公が台所で薬を作って、それを飲んだら体がどんどん浮いてっちゃうっていう絵本。なんかナンセンスの発想で作ってる人で、すごくいいなって思って。他の作品も好きですね。
藤岡:他の作品も読んでみたいです。『ピッツァぼうや』って本当にピザごっこ、ピザになるだけで終わりですもんね。
菊池:そう。そうなんです。
藤岡:え、それでいいんだ、でも、好き! ってなる。菊池さんの『えほん思考』の中でも紹介されていましたよね。
菊池:はい。『ピッツァぼうや』も取り上げて1章書いてますね。
藤岡:ロールプレイングの面白さみたいな感じでしたよね。
菊池:役割を演じるとか、そういうことについてですね。
藤岡:確かにピザも演じようと思えば演じられるんだ。自由ですね。
菊池:藤岡さんは『ピッツァぼうや』、どうでした?
藤岡:めっちゃ好きでした。ピザになるために、小麦粉をふりかけるシーンで、(本当はベビーパウダーなんだけどね)って書いてあって(笑)。かっこの中がめちゃめちゃ可愛くて。
絵本って自由だから、例えば「ピザみたいにこねてたら、本当にピザになってしまったのです!」とかってなってもおかしくないけど、これはひたすらにロールプレイで、最初から最後までちゃんと現実の中で行われていて、自由でありながらも、「これはチーズじゃなくて紙なんだ」とか「油じゃなくて水なんだ」とか、演技でやってますよっていう軸足があって、すごい微笑ましいし、私もピザになってみたい。
菊池:想像力の遊びですよね。これも『ウエズレーの国』と共通点があるかもしれないですね。
藤岡:あ、そうですね! 想像力で自由にやっていくっていう。
菊池:想像力で世界を楽しくするというか、そういう面白さが両方の絵本にあるのかなって思いました。
藤岡:確かに。
実際子どもが不機嫌でどうしようもないって時って結構あると思うんです。そういう時って、本当にどうしようもなくて、きっと気を逸らすしかない。根本的解決とか正論を言っても、不機嫌なものは不機嫌でしょうがなかったり。これはいろんな子どもに共通すると思うんですけど。たまに公園で見かけるのが、うまく全然違うことで釣って帰りたくないって言ってる子どもを帰らせてる人とか。不機嫌な子どもに対するソリューションとして、ピザにするっていうのはいいかもなって思ったりもしました。
菊池:ぜひちょっと試してみてください。
藤岡:試してみます(笑)。
菊池:僕がおすすめの絵本は『ピッツァぼうや』でした。
藤岡:ありがとうございます。絵本の自由さが知れて、すごい楽しかったです。
次回のテーマは……?
藤岡:どうします、次回のテーマは。
菊池:そうですね……、あ……、なんも考えてなかった。
藤岡:正直な感想(笑)。もし公開時期が大丈夫そうだったら、「秋に読みたい本」とかいいかなって思ったのですが、どうですか?
菊池:そうですね!
藤岡:読書の秋だし、秋っぽい感じのものとか。
菊池:うん、それでいきましょうか。
藤岡:はい。じゃあ、そうしましょう。
菊池:じゃあ、次回もよろしくお願いします。
藤岡:はい。よろしくお願いします!
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絵本、大人になって読んでみるとまた違った楽しみ方があるようです。菊池さんの新刊『えほん思考』とあわせて、ぜひ読んでみてください!
次回は「秋に読みたい本」です。お二人が読書の秋のおともにしたい本とは? お楽しみに!
取材後のこぼれ話:絵本を1000冊読むと……
藤岡:絵本を1000冊読むと、例えば本屋さんとか図書館とかの絵本コーナーとか、ぱっと見大体読んだなっていう感じなんですか?
菊池:いやそれが面白くて。1000冊読んでも全然足りないなって思ってるんです。今2400冊なんですけど。
藤岡:え、すごい。
菊池:それでも絵本にコーナー行くと、全然知らない本ばっかりですね。
藤岡:絵本って多いんだな。
菊池:まだ読んだことないなっていう絵本が結構ありますね。
藤岡:へー、それ、片っ端から読む感じなんですか。
菊池:そうですね。図書館とか行って、目についたものをどんどん読んだりとか。
藤岡:あ、あと、同じ作者で読んだりとか?
菊池:そうですね。ウィリアム・スタイグいいなって思ったら読んだりとか。あと、喫茶店行くと絵本が置いてあることあるじゃないですか。
藤岡:確かに。歯医者さんとか。
菊池:歯医者さんもそうですけど、そういうたまたま入ったお店に本が置いてあったら、読まなきゃって……。
藤岡:絵本を見たら読まなきゃって思うようになったんですね(笑)。
菊池:そうやって、読んだりとかしてましたね。
藤岡:いや、誰も超えられないですね、2400は。
菊池:いや、でも全然いると思います。絵本の書評家さんとか研究者の方は全然もっと読んでるんじゃないっすかね。
藤岡:そっか。そうなんですかね。
菊池:多分5000冊ぐらい読んだら、一通り読んだかなってなると思います。
藤岡:へー、じゃあ、あと半分。
菊池:そうなんです。ちょっと終わりがないんですよね。芥川賞も半年ごとに読まなきゃいけないですし。
藤岡:確かに増えていくっていうのは、大変ですよね。
菊池:絵本自体も、年間どのぐらいだろう。3000から4000点ぐらいは出てたと思います。
藤岡:それは多いな。
菊池:なので、終わりがないって感じですね。さらにまた別のジャンルを追加するかは、悩むところですね。
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