ますます激化しているイスラエル・パレスチナ紛争。日本では「パレスチナの子どもたちがたくさん死んでかわいそう」といった意見をよく目にしますが、本当にそれで終わらせてよいのでしょうか。中東情勢のウラ側を知り尽くした元外務省交渉官で、新刊『中東危機がわかれば世界がわかる』を上梓したばかりの中川浩一さんに解説していただきました。
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日本人に欠けている「危機意識」
──日本人にとって、どうして中東という地域の安定が大切なのでしょうか。
オイルショック当時、日本は原油の約70パーセントをアラブ諸国に頼っていました。その反省もあって、ロシアなど他の国々からも輸入しようという多角化の動きがありました。
しかし、うまくはいきませんでした。一時期、60パーセント台まで下がったこともあるのですが、ロシアのウクライナ侵攻以降、中東への依存度はますます上がっており、2022年は95パーセントに達しました。
日本で生活していると、中東で起きていることは自分たちと関係ないと思ってしまいがちです。しかし、もし中東で何かあったら、オイルショックのときのようにトイレットペーパーがお店から消えるようなことが起こるかもしれません。
原油を持っている国なら、気にしなくたっていいでしょう。しかし、日本には原油がありません。エネルギー自給率はたった12~13パーセントです。持たざる国である以上、とくに原油に関しては中東との関係がほぼすべてであると意識して、関心を高めていく必要があると思います。
──そんな中、イスラエルとパレスチナの紛争が激化しています。中川さんはイスラエルにも駐在されていたことがあるそうですが、実際どんな国なのでしょうか。
意外かもしれませんが、イスラエルは「中東のサンフランシスコ」と呼ばれるほど緑豊かな美しい国です。また、シリコンバレーのようにハイテク産業も発展しています。エジプトといった砂漠の国と比べると、ここは本当に中東なのかと思うくらいです。
しかし一方で、イスラエルという国は、ホロコーストからみずからの命を守らなくてはいけない、みずからの土地を探さなくてはいけないという、ユダヤ人の強い思いから生まれています。
ですからイスラエル人は、サバイブの意識をとても強く持っています。もちろん徴兵制もありますし、いつでも戦える準備ができている。
イスラエルの土地には、アラブ諸国のように原油がありません。その点では、日本と同じです。その中で、どうやって自分たちはこの国を守っていくのか。自分の国を持っていなかった彼らが、これからもこの地でユダヤ人として生きていくにはどうすればよいか。そこに全精力を投入しています。
日本にいると、残念ながら日本人はそうした意識が欠けているなと感じます。イスラエル人と比べると、危機意識の違いが相当あるように思います。
──日本で暮らしていると、平和でボーッとしてしまうというか……。
もちろん、それは決して悪いことではありません。日本は平和でいい国だなとも思います。ただ私は世界中を飛び回っていて、イスラエルのような国を見ると日本とは決定的に違うなと思いますし、見習わなくてはいけない部分も多いと思うんです。
ものごとにはすべて裏と表がある
──中川さんから見て、今回の紛争はこれからどうなっていくと思いますか?
昨年10月、イスラム組織ハマスによる奇襲があり、それからイスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が続いています。しばらくは日本でも、ガザの惨状が連日報道されましたが、最近では大きく扱われることは少なくなりました。
しかし、今でも毎日、イスラエルの攻撃によって子ども・女性をふくめた人々が殺害されています。昨年の10月から3万8000人という、ちょっと想像できない数の人々が亡くなっています。
私は『ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ』(幻冬舎新書)という本の最後で、「ここは人間のゴミ箱である」という表現をしました。それが私の正直な実感で、その状況がますますひどくなっていると感じます。
しかし一方で、イスラエルも今回、大きなダメージを受けています。ネタニヤフ首相は「第2次独立戦争」という言い方をしていますが、それくらいイスラエルにとって、今回のハマスによる攻撃は自分たちを脅かしているという危機感があるんです。
イスラエルにとっては、この戦いはユダヤ人の命を守るための戦いであり、負けたら終わりと考えています。おたがいが命をかけた戦いなんです。
──日本にいると、こうした感覚がわからないわけですね。
日本では、「パレスチナの子どもたちがたくさん死んでかわいそう」という意見をよく目にします。まったくその通りですし、人道的に許されることではありません。しかし一方で、イスラエル人の立場になってみると、この戦いに勝たなければ自分たちが生きていけないわけです。
ものごとにはすべて裏と表があります。とくに中東は難しいエリアですから、両面をしっかり見る必要がある。今起きていることだけを見ていると、逆側が見えなくなってしまいます。
今回の本は『中東危機がわかれば世界がわかる』というタイトルですが、実は中東だけを見ていてもすべてを理解することはできません。イスラエルの後ろにはアメリカがいて、パレスチナの後ろには中国やロシアがいます。
世界がふたたび二極化している中で、今の中東危機が起きています。さまざまな視点で、ものごとを見ることが大切ではないでしょうか。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】中川浩一と語る「『中東危機がわかれば世界がわかる』から学ぶ中東情勢」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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