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二十代最後の日。

床に伏せていた。

インフルエンザで。

 

二十代が終わるその日に、何かを企てていた訳ではありません。

けれど、そのやるせなさに涙をのむことしかできませんでした。

 

 

十代最後の日は「終わり」というより、「始まり」を予感させる春風が吹いていました。

大人の仲間入りだの、めでたいだの、ポジティブな形容と共にありました。

 

ところが、二十代最後の日には「終わり」を暗示する木枯らしが吹いています。

実際、ぼくも三十歳という称号を重たく感じました。年齢なんて人間が人間を管理しやすくするために作られた共同幻想に過ぎないのに。

 

なぜ、二十歳と三十歳はこんなにも印象が違うのでしょうか。

二十歳には、未だ子どもであるという甘えが存在している。しかし、三十歳はもう子どもではない。

 

独り立ちした立派な大人というレッテルを貼られるのです。

結婚していて、子どももいて、幸せな家庭を築いている。そんなイメージだし、二十歳の自分もそう思い描いていた。

ごめんよ、成人式で浮かれていた自分。

 

 

インフルエンザで寝こんでいるのに、お粥を食べさせてくれる相手もいない。

四十度近い高熱で朦朧としているのに、病院を探して連れていってくれる相手もいない。

うめき声を上げないと動かない身体なのに、労って助けてくれる相手もいない。

 

たったひとりで立ち向かう大病。

こんなにも苦しくて、こんなにも辛いとは。

 

すまない、夢見る二十歳の自分。

三十もの大人になったのに、インフルエンザに罹り「ゾンビの気持ちがわかったぞ」とひとり嬉々するのが現実なのだ。

 

10年前。壮大な人生の計画を立てた。

でも、何一つ計画通りになっていません。

 

もし、あのときに立てた計画がうまくいっていれば、26歳で結婚していて、28歳には第一子が生まれ、30歳である今年には第二子が生まれマイホームが建っている。

ちなみに、流暢に英語とスペイン語が使え、年収は1000万円である。貯金に関して言えば、500万円はある。

 

現実はどうだ。

なにひとつ実現していない。結婚どころか彼女すら居ず、貯金どころか親への借金すらある。唯一、薄毛の進行具合だけは、予想通りであります。

 

まあしかし、二十歳で思い描いた夢の設計図通りになっていたのなら……。

「ムワラムッツエ」なんて陽気な挨拶をするルワンダという国を好きになることはなかったでしょう。

人と人の繋がりの尊さを感じられるソロキャンプを始めることはなかったでしょう。

独り身の人間が抱く解放感や孤独感を生涯知ることはできなかったでしょう。

もし二十歳の計画通りになっていたら、このルワンダの美しい景色も、愉快なルワンダ人の笑顔も見ることはなかっただろう。

そんなわけで三十歳を迎えます。

 

病み上がりなのに無理して、ケンタッキーでチキンを買い、セブンイレブンでケーキを買い、記念すべき日を祝う。

自分ひとりだけでも、この世界をどうにか三十年生き抜いてきたことを祝福してあげないと、さすがに可哀想である。

 

おめでとう、三十歳の自分。

ごめんね、二十歳の自分。

もし二十歳の計画通りになっていたら、ソロキャンプの楽しさを知らなかっただろう。

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