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17歳のビオトープ

2023.12.05 公開 ツイート

令和版『君たちはどう生きるか』に込められた想い 清水晴木

デビューから8年、『さよならの向う側』のヒットで一躍人気作家の仲間入りを果たした清水晴木。着実に進化をし続ける著者の最新作『17歳のビオトープ』は、謎めいた校務員が高校生4人の抱える悩みと真摯に対峙する作品で、揺るぎない哲学をもった「人生の学校」でもある。読後には眼前の霧がすっかり晴れわたる風景が見えてくる。まさに令和版『君たちはどう生きるか』ともいえるこの物語に凝縮された想いを聞いてみた。(取材・文/内田剛)

―まずは執筆のきっかけを教えてください。

僕の作品には必ず「救い」があるようにしています。これまでの作品では過去の後悔を書いてきました。でも人の悩みには未来への不安もありますよね。今回はそれを書いてみたかったのです。当初は社会人くらいを想定していましたが、高校生の自殺が増えているというニュースを聞いて、若い世代に向けて「救い」のある小説を書きたいと思いました。そして人生先生と一緒に高校生の悩みを考えるというスタイルが決まりました。

タイトルにこめられた想いとは?

―タイトルはすぐに決まったのでしょうか?

当初は『人生先生』という案もありました。『17歳』にしたのは真っ先に高校生に向けてメッセージを発したかったからです。高校生の年代でも「17歳」は特別ですね。そして年代を冠したタイトルであればシリーズ化の夢も広がります。それぞれの世代によって悩みも変化してきますから。タイトルを決めてから物語が始まりました。

―読めば必ず続きが読みたくなります。嬉しいですね。

「人生先生」の過去について意識的に触れていないのは、次作以降で明かしたいからです。明かしてしまうと高校生でなく大人の話になってしまいます。続編のためにも、まずはこの作品が売れないといけませんが(笑)。

―「ビオトープ」のタイトルは新鮮ですね。

「生きる」という作品のテーマにとって必要でした。「ビオトープ」には「いのち」と「居場所」といった意味も含まれていて、ぴったりだと思います。学校現場での「ビオトープ」を実際に見てイメージが膨らみました。

人生先生という圧倒的な存在感

―人生先生がとにかく魅力的でした。

全体的に説教がましくならないようしたかったので、普通の「先生」にはしたくありませんでした。「先生」ではない立場の人だからこそ通じる言葉がありますよね。学校の社会から少しズレた場所にいながらも「先生」と呼ばれる存在。それが「校務員」でした。

―「平人生」という名前も印象的です。

もうこれしかないという名前です。一度耳にしたら忘れられないでしょう。

―モデルはいるのですか?

特には考えていませんでした。映像を考えたら少しミステリアスで細身のイケメンというイメージですから窪田正孝さんでしょうか。僕と生年月日がまったく一緒なんです。個人的に縁を感じています(笑)。

全編から溢れだす名言たち

―コミック、映画などたくさんの名言にも圧倒されました。

学生時代に得たものを物語に入れていますね。僕が影響されてきた言葉はマンガや映画、もちろん小説などもあります。今回、哲学として出している答えにはこうした名言に大いに影響されていますね。これも意図的に入れました。

―清水さんの知の集積がここに表されているのですね。

僕が伊坂幸太郎さんや村上春樹さん作品を読んでビートルズを知りました。そんな体験を読者にもしてもらいたいですね。面白いエンタメを次の世代にも伝えたい。この本を読んで「寅さん」や「花とアリス」に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

一話~四話へと練りこまれた構成の妙

―構成が見事です。

エピローグを含めて最初から考えていました。今の高校生の悩みを考えたときに、まずはSNSだろうと。そして恋愛。そこで幸せや不幸せを考えて、「親ガチャ」など今どきの言葉を入れていきました。この構成に関してしっくりと進みましたね。

第一話は「恋愛」、第二話は「運」、第三話は「幸福」、そして第四話が「生きる意味」と、読み進めるうちにテーマがだんだんと根源的なものになっていくようにしています。

―高校生の日常が実にリアルに描かれていて驚きました。

自分の高校時代を思い出しながら書きました。もう二十年くらい前ですが、そんなに変わってはいませんね。モノは変わってもやっていることは同じなんです。

―問いかけと答えのすべてが読みどころでした。

本当に肝だらけですね(笑)。答えが陳腐であったら腑に落ちません。作品全体が面白くなくなります。説得力が持てるよう、頭の中でディベートしながら、相当頑張って考えました。

―それぞれの話だけでも一冊の哲学書になるテーマで、小説一本書けますよね。

そうなんです。一話につきひとつテーマを入れているので、もうストックはない状態です(笑)。まったく出し惜しみしませんでした。

人生先生の教え~自分自身で答えを出すことの大切さ

―まさに渾身の一冊ですね。ここに凝縮された文学には凄みさえ感じます。

答えの出し方についても自分の中ではかなりこだわりました。これまでの作品では類書や参考となる文献を読んだうえで書きましたが、本作ではそれらを見ないで書こうと決めました。第一話で人生先生が「ネットで調べずに自分で考えてください」と言いますが、これは僕から自分自身に対しての言葉でもあるのです。「恋と愛は主体が違う」などは自分が悩み抜いて考えました。人生先生の出した答えは他の何も参考にしておらず、オリジナルなのです。それは自信を持って言えますね。それゆえに結果としてかぶっている回答があるかもしれませんが。自分自身で答えを出す、それが大切なんです。

―人生先生は清水さんの分身に思えます。

確かに考え方に関しては自分です。これまでの作品で「生きるとは人との関係性がある」とか「愛するとはその人のためにいきること」のように、ひとつひとつ答えを出してきました。それがたくさんの読者に受け入れられたからこそ、この物語が書けたのです。

―それだけこの作品に対する想いが強いということですね。

哲学のテキストのように感じてくれる読者もいて嬉しいです。実用書やビジネス書を読むような感覚で読んでもらいたいですね。大人の方でも、小説を読まないという人は多いですが、ジャンルを意識せず気軽に手にしてほしいです。「幸せについて」はブータンの話を入れるなど、実際の例に基づいて説得力を増すように書いていますので、読みやすいと思います。

「生きる意味」を問いかけ続ける

―いちばん苦労した点はどこでしょうか。

やはり最後の「生きる意味って」の章ですね。ここだけは明確に答えを出していないのです。「生きる意味がないと生きていちゃいけないの」というセリフがありますが、生きる意味がなくても生きていてもいい。この章だけは本当に完全に明確な答えを出すのはやめようと思いました。生きる意味を考えることが人生なのです。ひとりひとりに違った答えがあってもなくてもいいのです。

―大病と闘う少女の姿からは、強い生命力が伝わってきました。

『さよならの向う側』を書いて自分の方向性が見つかりました。そこから「命と向き合うこと」を書き続けて、それが自分の作家性でもありますし、すべての作品のテーマともいえます。健康でも生きていたくない人がいれば、病気でも生きたい人もいる。そんな対照的な立場から「生きる意味」を明確にさせたかったのです。

コロナ禍が作品に与えた影響とは?

―この数年のコロナ禍は作品に影響を与えましたか。

物理的に遠ざからざるを得なかったからこそ、逆に人と人との関係性が強調されたように思います。人間同士の結びつきの大事さに、改めて気づいたのではないでしょうか。人と会うことはこんなにも嬉しいんことなんだと再認識しましたね。この物語で書いた居場所というのも一人ではなく誰かがいる場所ですから。

―失って初めて気づくことってありますね。

社会情勢的なこともありますが、将来への不安も顕著になりましたね。昔の子どもにとっての未来はキラキラした明るいものでしたが、大学生と話してもお金の不安とかがあってとにかく先が見えない。ダークなイメージなんです。この物語は未来への不安とも向き合っていますから、何か感じとってもらいたいですね。

答えを出すよりも考えることが大事である

―本書を通じていちばん伝えたいことはなんでしょうか。

自殺する若者の命を救いたいという切実な想いから、この物語が生まれました。「生きる意味」を一緒になって考えてもらいたいです。とにかく考えることを諦めないでもらいたい。考えることをやめたら絶望が生まれます。考えることは人に与えられた贅沢なんです。考えていれば答えが見つかるし、誰かが助けてくれるかもしれない。答えを出すよりも考えることが大事なのです。

―今後の予定はいかがでしょうか。

来年の五月に初めて、小学五・六年生向けの児童書を出す予定です。読者の間口を広げられれば嬉しいです。

―読者へのメッセージをお聞かせください。

この物語にいま自分がもっているすべてを注ぎこみました。作品中の問いかけは読者それぞれ答えが違うと思います。この一冊をきっかけに語り合っていただきたい。その答えを僕も知りたいです(笑)。若者だけではなく広い世代の方に楽しんでほしいと思います。

 

(取材後記)

インタビューをしながら感じたのは、この著者には強い「芯」があることだ。そして作家・晴木その人こそが「人生先生」なのだと思う。悩める若い読者のために、人生の真理を伝えようという想いは清々しいほど真っ直ぐだ。『17歳のビオトープ』は人間らしく生きるヒントが凝縮されたバイブルでもある。誰もの居場所がここにある。上質なエンターテインメント作品というだけでなく尊い「教え」と「学び」に溢れたこの一冊は読まれるほど、この世界を浄化させるに違いない。末長いシリーズ化を期待しよう。

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関連書籍

清水晴木『17歳のビオトープ』

ドラマ化も話題となった大ヒット作『さよならの向う側』の著者が贈る、最新作! 「――あなたの“居場所”はどこにありますか。」 謎多き校務員と悩みを抱える4人の高校生が織りなす、青春ヒューマン物語。 舞台は高校。 恋愛、ガチャ、SNS……現代特有の悩みを抱える高校生たちを、校務員・平人生(通称:人生先生)が導いていく。 「誰にでもビオトープ(居場所)があるということを分かっていてほしい」という著者の想いが詰まった、青春物語。

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17歳のビオトープ

ドラマ化でも話題となった『さよならの向う側』の著者、最新作。本特集では『17歳のビオトープ』にまつわる情報をお届けします。

【あらすじ】

いつも飄々と、謎めいた雰囲気を醸し出している、奏杜高校の校務員・平人生。「人生先生」と呼ばれる彼のもとには、日々、悩みを抱えた高校生が訪れる。人生先生と話すうちに、自分なりの答えを見い出していく生徒たち。彼らは次第に、人生先生が始めた中庭のビオトープ作りに参加するようになり……。

第1話 恋と愛のちがい
第2話 運とかガチャとか
第3話 不幸せになる方法
第4話 生きる意味って

バックナンバー

清水晴木

1988年、千葉県出身。東洋大学社会学部卒業。

2011年、函館イルミナシオン映画祭第15回シナリオ大賞で最終選考に残る。以降、短編映画脚本や、スマートフォン向けアプリのシナリオ原案に携わる。’15年、『海の見える花屋フルールの事件記 ~秋山瑠璃は恋をしない~』(TO文庫)で長編小説デビュー。’16年、第2作『海の見える花屋フルールの事件記 ~秋山瑠璃は恋をする~』を上梓した。

近著に、ドラマ化でも話題となった『さよならの向う側』(マイクロマガジン社刊)、『分岐駅まほろし』(実業之日本社刊)、『旅立ちの日に』(中央公論新社刊)などがある。

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