昨年7月、安倍晋三元首相が凶弾に倒れて以降、「カルト問題」が議論の的になっています。しかし、みなさんは「カルト」と「宗教」はどこが違うのか、きちんと説明できるでしょうか? 新刊『キリスト教の100聖人』を刊行した宗教学者の島田裕巳さんに、カルトとはどういうものなのか、今後どんなことに注意すればよいのか、うかがいました。
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最良のインプットはアウトプットすること
── 島田さんは本の執筆だけでなく、大学の授業や、歌舞伎、オーディオなどの趣味も豊富です。時間はどうやって捻出しているのですか?
それなりにたくさん書いてきたので、効率は上がったなと思います。執筆は1日6時間ほどですが、原稿用紙20枚くらいは書くことができます。新書だったら、1か月あれば完成しますね。
昔はあらすじをつくって、下書きを書いて、赤字を入れて、清書して……という作業をしていたのですが、最近はいきなり書き始めて、うまくいけばそのまま最後まで書き上げることができます。
── インプットで心がけていることはありますか?
私の考えでは、最良のインプットはアウトプットすること。本というアウトプットがあるからこそ、どんなことを調べたらいいのかわかります。なんの目的もなく、むやみにインプットしても意味がないと思います。
もう一つは、書く領域を意識的に広げていくこと。かつての私は、新宗教にターゲットを絞って執筆活動をしていました。でも、やがて限界が来るんです。そこで神道、仏教、キリスト教、イスラム教など、既成宗教の研究にも取り組むようになりました。
最近は、世界宗教の動向を研究しています。このように、絶えず領域を広げていかないと、そのうち行きづまることになると思います。
── 執筆の際、注意していることはありますか?
私も学者の端くれですから、一次資料に当たることを重視しています。人の言うことは意外と当てになりません。「何々先生がこう言っていた」というのを鵜呑みにしたら間違いだった、みたいなことはよくあります。
論文に当たることも大事にしています。とくに、最新の博士論文はすごく役に立ちますね。先行研究に必ず当たっているので、現在の研究がどこまで進んでいるかがよくわかります。
私は学術的な訓練を受けてきたので、こうしたアプローチをとっているわけですが、一般的なもの書きの方は、そこまでやっていないかもしれません。
カルトと宗教はどこが違うのか?
── 今回の本で、幻冬舎新書の島田さんの著作は14冊になります。これは幻冬舎新書の著者の中で最多タイです。さっそくですが、次回作はどんな内容を考えていますか?
『日本の10大カルト』という本を考えています。安倍元首相の銃撃事件以降、カルトが問題になっていますよね。でも、カルトと宗教はどこが違うのでしょうか。
宗教側の人たちは、自分たちはカルトではない、いかがわしいものではないと訴えます。でも、そこに根本的な間違いがあるような気がします。宗教とカルトはもともと一体で、区別できないものだと思うんです。
キリスト教もイスラム教も、もともとはカルトでした。仏教はカルトではないと言う人もいるかもしれませんが、お釈迦さまは出家して家族を捨てているわけです。これは今のカルトが批判されていることの一つです。
そう考えると、あらゆる宗教はカルトとして始まると捉えたほうがいい。時間が経つにつれ、現実の社会に適応していく中でカルト性が薄まっていくと考えたほうがいいと思っています。
ただ、カルト性が強い団体は、今の日本社会に厳然として存在しています。そうした団体を10個取り出して、論じてみようというのが次回作の内容です。
── カルト問題が盛り上がっているうちに読んでみたいです。
経済発展によって伝統的な社会が崩れると、人々は新しいものに期待をかけるようになります。その中には、過激なものも生まれてくる。
世界を見ても、アフリカのケニアでは、死んだらキリストに会えると言われて数百人が餓死したカルトが問題になっています。経済発展とカルトの登場は結びついていて、ケニアもその段階に来たと言えるのではないでしょうか。
そう考えると、これからは先進国以外の国々でも、カルト的なものが数多く現れるようになると思います。中国では、カルトの存在が隠されてきました。でも、実際にはたくさんのカルトが生まれていますから、今後大きな問題になるのではと懸念しています。
── 日本は経済的に衰退していますが、これからカルトは減っていくのでしょうか。
これだけ旧統一協会が批判されても、大量に信者がやめたという話は聞きません。他にもエホバの証人など、カルト的な団体がある程度の勢力を保っていることを考えると、大きく増えることはないにせよ、今後も変わらず社会の中に存在する状況が続くのではないでしょうか。
── 先鋭化して、さらに大きな社会問題になるという可能性はありますか?
あるかもしれません。あるいは、突然出現する。「パナウェーブ」って覚えていますか? 次回作で取り上げようと思っているのですが、そういう団体がいきなり出てきたりするかもしれません。
オウム真理教も、急速に拡大しましたよね。地下鉄サリン事件などの凶悪犯罪を起こすまで、短期間でした。カルトの動きは予想がつかない面があるので、十分注意する必要があると思います。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】島田裕巳と語る「『キリスト教の100聖人』から学ぶ聖人とキリスト教の拡大」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
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この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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