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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書

2023.10.20 公開 ツイート

「裸の聖者」ワシリイ、釜茹でにされたアクィナス、イエスを裏切ったペトロ…キリスト教の「聖人」たちの意外な素顔 武器になる教養30min.編集部

聖母マリア、洗礼者ヨハネから、フランシスコ・ザビエル、マザー・テレサまで、キリスト教には「聖人」と呼ばれ、崇められる人たちがいます。しかし、中には変わり者の聖人や、弱くて情けない聖人も存在するのをご存じでしょうか? 新刊『キリスト教の100聖人』を刊行した宗教学者の島田裕巳さんに、そんな聖人の中から「好きな聖人」を3人選んでもらいました。

*   *   *

「好きな聖人」を3人選ぶとしたら?

── この本ではおもな聖人を100人紹介していますが、人選では苦労しましたか?

カトリック教会と東方正教会の両方で1万人以上の聖人がいます。その中から100人を選ぶのは難しかったですね。

誰を取り上げるべきか、検討するのが最初の作業でした。でも、100人をただ並べただけではつまらない。

そこで、まずイエスの家族と関係者を取り上げ、次に十二使徒と呼ばれる12人の弟子、その次に福音書の作者、殉教者、布教に尽力した人物、キリスト教学者と修道士、宗教改革以降の人物……とセクションに分け、キリスト教の大まかな歴史と、聖人がどのように生まれたのかがわかるように流れをつくっていきました。

 

── 島田さんはこの本の中から、好きな聖人を3人選ぶとしたら誰になりますか?

正教会のワシリイは面白いですね。「聖愚者」とか「佯狂者(ようきょうしゃ)」と呼ばれる人物で、つねに裸でモスクワの街をさまよい、祈りを捧げていたそうです。

そんなワシリイに強い関心を持ったのがドストエフスキーで、『白痴』の主人公のモデルにもなったと言われています。

 

それから、中世のスコラ学の大家、トマス・アクィナスも興味深い人物です。オランダの歴史家、ヨハン・ホイジンガの『中世の秋』に出てくるエピソードですが、アクィナスは神学者として非常に有名な人だったので、死んだら聖人になると決まっていたんです。

聖人の骨は聖遺物と呼ばれ、非常に貴重なものとされていました。そのため、一緒に住んでいた修道士たちは、アクィナスが死んだらすぐに釜茹でにして、遺骨を取り出して、自分たちのものにしてしまいました

 

── 猟奇的な話ですね。

それが当たり前だったんです。中には聖遺物ほしさに、撲殺されてしまった聖人もいるくらいです。キリスト教には、生きているときよりも、死んだあとのほうが価値があるという性格があるのではないでしょうか。

日本にキリスト教が広まらなかったわけ

── あと一人は誰ですか?

十二使徒のペトロも好きな聖人ですね。カトリックの総本山、バチカンに建つサン・ピエトロ大聖堂にまつられている重要な人物ですが、実は人間くさい一面があるんです。

『新約聖書』には、イエスの仲間ではないかと疑われたペトロが、「自分は知りません」と3回否定したというエピソードがあります。しかも、イエスから「鶏が二度鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」と予告されていました。

そのことを思い出したペトロは泣き出します。情けないですよね。人間の弱さを示すエピソードだと思います。

 

── ワシリイやペトロのように、聖人として認定されている人の中には、現在の目から見たら「愚か者」とも言える人がたくさんいます。それがキリスト教の信仰世界に彩りを与えているように思うんです。

ヨーロッパはエジプトやペルシャと違って、古代からの文明が存在しているわけではありません。もともとは、言ってみれば野蛮な地域だったんです。そこにキリスト教が広まることで、文明化していったという歴史がある。

つまり、キリスト教の信仰を布教していく対象になった人たちというのは、いわば「愚か者」だったわけです。そうした人たちにとって、ワシリイやペトロのような存在は面白く、特別な存在だと思えたのではないでしょうか。こうした庶民性が、聖人崇敬につながったのだと思います。

 

── 日本ではキリスト教はそれほど広まりませんでした。古代から文明が存在していた日本は、そこまで「愚か」ではなかったからとも言えるでしょうか。

フランシスコ・ザビエルが日本にキリスト教を持ち込んだとき、ラテン語で神を表す「デウス」をどのように訳すかで苦労していました。そこで、密教の本尊である「大日」と呼んだのですが、日本人は仏教の新しい宗派だと誤解してしまった

そのため歓迎されるのですが、それでは本来の信仰を伝えることにはならないと、途中で「デウス」に戻します。日本には仏教という、宗教の厚みがあったわけです。

一度、禁教になったのち、明治時代になってふたたびキリスト教が入ってきますが、当時は文明開化の時代でした。キリスト教を受け入れたのは、お金持ち、上層階級、知識人が大半でした。そのため、庶民的キリスト教が広まることはありませんでした。

 

一方、韓国はキリスト教徒がおよそ30パーセントと、仏教徒と同じくらいの数がいます。ところが、韓国のキリスト教はシャーマニズムと習合していて、牧師が神がかりになったりする。

どちらかというと、この本で紹介したような聖人伝の世界に近いキリスト教が韓国では受け入れられているので、日本とは大きく事情が違うと思います。

日本では、拙著日本の10大新宗教』で取り上げたような新宗教が庶民的キリスト教の役割を果たしたので、キリスト教は必要なかったとも考えられますね。

 

※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】島田裕巳と語る「『キリスト教の100聖人』から学ぶ聖人とキリスト教の拡大」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。

 

 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』はこちら

 

書籍『キリスト教の100聖人』はこちら

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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書

AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。

『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。

幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。

この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。

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武器になる教養30min.編集部

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『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにした番組です。

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