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大塚篤司 幡野広志 新刊対談

2023.10.08 公開 ツイート

第2回(全3回)

日本人に必要なのは、アンガーマネジメントよりジェラシーマネジメント⁉ 大塚篤司/幡野広志

白い巨塔が真っ黒だった件の著者、医師の大塚篤司先生と、息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。の著者、写真家・幡野広志さんの新刊刊行記念対談。

キワどい話で盛り上がるお2人の話は加速するばかり…!

*   *   *

SNSをやってる医者が、偉い人たちから嫌われる理由

幡野 Twitter……今はXか……をやってることとか、WEBに記事書いてることとが、教授選でのマイナスポイントになるってのが、びっくりしたんですよね!

大塚 これは、よく考えるとわかりやすいんです。医学界ってこれまで、教授、准教授、講師、助教……みたいな、確実な序列があったんですよ。メディアとかに出るのは教授ですよね。”上から順に有名”っていう序列がある中で、SNSとかインターネットが登場したことで、この序列をひっくり返す奴が出てきた。そうすると、「俺より目立ってるやつはなんだ?」と考える古い方たちがいるわけです。

幡野 そういう考えなんですね!

大塚 ほぼメンツ、プライド、でしょうね。

幡野 逆に言うと、「ダメだ」って言ってる人たちも、有名になりたい? 嫉妬ってこと?

大塚 おそらく。

幡野 ぼくも、お医者さんの友達が何人かいるし、病院もよく行ってますけど、お医者さんてミーハーな人が多いですよね。メディア系に弱いですよね、それをよく感じる……。

大塚 あ、はい。僕、B'z大好きですし……。嫌な言い方をすると、偉い方々は、権力を手に入れたあとは、名声を手に入れたいんじゃないですかね。

幡野 権力と名声を手に入れたらどうなるんですかね?

大塚 お金に行くんじゃないですか。お金、権力、名声……。

幡野 でも、権力と名声とセットで、お金が来るじゃないですか。

大塚 僕が医学部の学生の頃、そんな話をどこかの教授としたことがあるんですが。そのときに、教授が「医学部の教授で、3つそろえることは難しい」って言ったんですよ。「名声か、権力か、お金か、どれかひとつだ」って言ってました。

幡野 え? どれか一個?

大塚 はい、「どれか一個しか手に入らん。君らはどれか一個した手に入らん」と。まだインターネットとかSNSとかがこんなふうになる前の時代ですね。それが、SNSが登場して、パッと有名になれちゃうみたいなことになって、これまで権力だけ持ってて、名声を手に入れようと頑張ってたご老体たちが、いっせいに「何事だ!?」ってざわめいたんだと思います。

幡野 でも大塚先生って、いま、権力持ってるじゃないですか。

大塚 これは「はい」って言うんですか……

幡野「はい」って言った方が夢ありますよ!

大塚 あ、はい、持ってます!(笑) ふりかざすかどうかは別ですが。

幡野「権力」は、行使するかは別ですからね。で、名声もあるわけじゃないですか。他の教授さんたちと比べたら。

大塚 有名かどうかっていわれたら、少し名は知られてるかもですが。

幡野 すごい嫉妬されてるんでしょうね。

大塚(笑)。

幡野 たぶん、失脚しろ、って思ってる人がいて……。この本でも、妨害工作を働いていた人たちがいるわけじゃないですか。この人たちの話を聞きたいなあ。Twitterの画像をねつ造して、ネガティブなヘイトみたいなことやってた話とか。そういうの余裕でできるんだって、この本に書いてありました(笑)!

大塚 フィクションですからね、これは(笑)。

幡野 でも、事実に近しいわけですよね?

大塚 まあ、やられていることはそういうことですけど……。

嫉妬と復讐

大塚 仕事してると、男の嫉妬が怖いって感じることありませんか? 幡野さんも、有名になられて、古い人たちの「お前、どうなんだそれは」って声が、遠くからやまびこのように聞こえることがあるでしょ?

幡野「人間の感情から嫉妬が消えねえかな」って思いますよよ! 服薬で(笑)!

大塚 開発しましょうか。皮膚科ですけど(笑)。

幡野 水道水とかに流して、風呂に使ったら皮膚から吸収しちゃう薬とか。そしたら全国民に!

大塚 誰かが言ってたんですが、「日本人はアンガーマネジメントより、ジェラシーマネジメントの方が大事だ」っておっしゃってて。

幡野 僕もそれ、読んだか聞いたかしたことあるかも。

大塚 とにかく、同性の仕事の嫉妬がいちばんつらいかな。

幡野 露骨に妨害してきますよ。

大塚 それとの戦いですよ、日々。

幡野 確かに、伸びる人って、若いうちからある程度、分かるわけじゃないですか。こいつ伸びるなって。その段階で、新芽をつぶす……みたいなのが、写真業界にはいっぱいあって。

大塚 写真家になりたい人達の夢をつぶしませんか? 大丈夫ですか?

幡野 逆に知ったほうがいいと思うんですよね。そもそも20年前の話だから、さすがに減ってきてる気はするんですけどね。僕もすごくいじめられて、けっこう、復讐をしていたんですよ。だから、「いじめると、復讐がある」ってことを、僕知ってるんで。

大塚 教授になってしまって思うんですけど、言われた側って覚えてるんですよね。

幡野 そう!

大塚 本人は忘れてると思いますけど、僕も、絶対許さねえってことを言われたことがあって……。ちょっとした一言なんですが、言われた方は覚えてるんですよねえ……。

幡野 復讐とかが怖いから、僕は自分のアシスタントに嫌なことは絶対しません。怖くて仕方ない。彼らのことが……。20代の若者ですが。

大塚 僕の方がピュアだな。俺、優しくしようと思って優しくしてますもん(笑)。復讐が怖くて優しくしてるわけじゃないですもん(笑)。

幡野 僕だってそうですよ、優しくしようと思ってますよ(笑)。

子ども、部下……育てるのって、甘いほうがいいの? 厳しいほうがいいの?

幡野 でも、あまり優しくしすぎても、写真業界では、僕のところ以外では厳しいよな……とちょっと思っちゃうんですよね。

大塚 これは悩みですよね。僕も思うんですけど、たとえば、すごく厳しくしたら外に出た時に苦労しないんですけど、優しくすると、外に出た時に苦労する。子育てと同じ……。

幡野 そう、子育てと同じだなと思った!

大塚 幡野さんはどうしてるんですか? 厳しさと優しさと。心強さと。

幡野 篠原涼子じゃないですか……小室哲哉(笑)。うちは、ド甘ですよ。全く厳しくない。

大塚 叱らない? 注意もしない?

幡野 指摘はしますよ。怒鳴ることは無いし、大きな声を出すこともないし、罰とかもぜんぜん与えない。取り上げるとかもしない。

大塚 優君が、イヤな大人になったらどうしますか?

幡野 妻ともよくしゃべってるんですけど、世の中って、ヤバい人がいっぱいるわけじゃないですか。そういう人に出会った時に、(息子は)耐性がないから、うつ病とかになるぞ、みたいなことを言ってるんです。

大塚 早めにこの本(『白い巨塔が真っ黒だった件』)を読ませてもらって……寝る前に読み聞かせを……(笑)。

幡野 うちの子が、よくYouTubeを見てるんですけど、最近よく見てるのが、家族系YouTuber。パパ、ママ、こども、こども、みたいな。その家族がディズニーランドに行ったりしてる動画を見てるの、小1の子が。面白いのかなって思うんだけど……。その家族系YouTuberのお母さんが、めちゃくちゃ言葉が粗いんですよ。子供に「てめー何やってんだよ」とか言うの。盛り上げてるという面があるのかもしれないけど……。そういうの見てるから、妻は「見せるのやめたい」って言うんだけど、でも僕は「うちは、そういう言葉を言わないんだから、あそこから摂取しないと」って。むしろ比較して、妻の事を「いいお母さん」て思うわけであって。それに、女の人の言葉のマネはしないから大丈夫って言ってます。妻はそっか……と。

大塚 いい家庭で育ってる子たちは、外に出た時に、大人の悪意に衝撃をうけたりとか、もちろん逆もありますしね。だから、今の医局の若い先生たちには、優しく……っていうか、やりたいことをやらせてあげて伸ばしてあげたいと思ってるんですけど、世の中はこんなんじゃねえぞとも思うし、時々暴君にならなきゃいけないかなって……。

幡野 いや、僕時々思うんですけど、我々の世代って、たぶん子供の時に厳しく育てられてるじゃないですか。「社会が厳しいんだから厳しく育てる」ってのが、日本人の大半で、そういうふうに育った40代、50代が今の社会の中心ですよね。今、厳しい社会になってますよね。優しい社会になってませんよね。

大塚 厳しい社会、ですよねえ……。

幡野 正直、やさしく甘く育てられた人たちの集団って、優しいです。

大塚 そうかあ……じゃあいいことなんですね。

幡野 ただ、「圧倒的に厳しい人の方が多いからなあ」とは思います。

(最終回へ続きます)

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大塚篤司 幡野広志 新刊対談

この夏、『白い巨塔が真っ黒だった件』を上梓した医師の大塚篤司氏。『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』を上梓した、写真家の幡野広志司。全く方向性の違う本ですが、話し始めると盛り上がり…。ということで、8月25日に開催された対談をまとめました!

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大塚篤司 医師

1976年生まれ。千葉県出身。近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授。 2003年信州大学医学部卒業、2010年京都大学大学院卒業、2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部外胚葉性疾患創薬医学講座(皮膚科兼任)特定准教授を経て、2021年より現職。専門は皮膚がん、アトピー性皮膚炎、乾癬など。アレルギーの薬剤開発研究にも携わり、複数の特許を持つ。アトピー性皮膚炎をはじめとしたアレルギー患者をこれまでのべ10000人以上診察。アトピーに関連する講演も年間40以上こなす。間違った医療で悪化する患者を多く経験し、医師と患者を正しい情報で橋渡しする発信に精力を注ぐ。日本経済新聞新聞、AERA dot.、BuzzFeed Japan Medical、などに寄稿するほか、著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)、『教えて!マジカルドクター 病気のこと、お医者さんのこと』(丸善出版)などがある。最新刊は、自身の教授選の体験をもとにした初の小説『白い巨塔が真っ黒だった件』(幻冬舎)。

幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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