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アリアドネの声

2023.08.19 公開 ポスト

ミステリー作家への出発点はファンタジー【井上真偽×阿津川辰海 対談①】井上真偽

6月21日に発売した『アリアドネの声』が話題沸騰中の井上真偽さんと、大学在学中に発表した『名探偵は嘘をつかない』でデビュー後、ミステリー界の第一線で活躍を続ける阿津川辰海さんの共演が実現。いま最も熱いお二人の対談をお届けします。(2023年7月25日対談)

*   *   *

二人の原点

井上 本日はよろしくお願いします。阿津川さんは本当にミステリーが大好きで、ミステリー作家になった方だという印象があるので、色々お話がお聞きできれば嬉しいです。

阿津川 よろしくお願いします! 自分は確かにその印象通りの人間ですが(笑)、そのあたりのスタンスの違いなども、今日は色々お伺い出来ればと思います。

井上 阿津川さんは作家を目指したのはいつ頃からですか?

阿津川 目指したのは中学生の頃からです。文芸部員だったので、部誌に合わせて色々書いていたという感じです。投稿活動はしていなくて、どこにも出すあてがないのに、原稿用紙で600枚くらいの作品を最初に書ききったのも、ミステリー作品でした。

井上 いきなり600枚書き切るってすごいですね。信じられないです。

阿津川 どこかに出せるような小説ではないですけど(笑)でも、よく600枚も埋めたなとは思いますね。私は井上さんの作品をデビュー作の頃から追いかけています。なので、今日の対談も楽しみにしてました。

井上 それはとても嬉しいです。どんな印象があるかって聞いてもいいですか?(笑)

阿津川 もちろんです。これは個人的な体験なのですが、2019年10月に刊行された集英社さんの『ベーシックインカム』(編集部注:文庫化では『ベーシックインカムの祈り』に改題)を読んだときに、その三ヶ月前に刊行された澤村伊智さんの『ファミリーランド』と重なる部分を感じました。
どちらもSFの手法と題材を経由した短編集なのですが、井上さんがミステリーで、澤村さんがホラーのオチに見事に着地していて……。デザイナーベイビーの話があるのも共通していたんです。同じ時期にこの二作を読んで、お二人は、ジャンルのお約束に囚われずに、様々なパーツを使いながら、小説の可能性を広げる作品を書く方たちだと感じたんです。それが凄く面白かった。
そうしてグッと興味を引き寄せられたタイミングで次に出たのが、実業之日本社さんの『ムシカ』。手法は違いますが、子供の頃に剣と魔法のファンタジーに興奮した時の感動が『ムシカ』を読んでいると湧き上がってきました。
そして、今回『アリアドネの声』を読ませていただいて今度はジオフロントを舞台にした災害救助物。一冊ごとに本当に色々な方向性を見せてくださるので、井上さんの作品を追いかけているのはとても楽しいです。長く話してしまって申し訳ないです……。

井上 本当に熱量が凄くて嬉しいです! 個人的には、ファンタジー的な部分も面白いと言ってもらえるのが特に嬉しいですね。実は自分の原点は、ミステリーよりもどちらかというとファンタジーなんです。

阿津川 子供の頃にファンタジーを読まれていたということですか?

井上 そうです。子供の頃は特にファンタジーを読むことが多くて、『指輪物語』とか大好きでした。あとは『エルリック・サーガ』とかご存じでしょうか?

(阿津川、頷く)

なので、自分の原点、一番大事にしたい部分は「物語性」にあると思っています。ですから、阿津川さんのようにミステリーがずっと好きだから、ミステリーを書く作家ではなくて……。ではなぜ『恋と禁忌の述語論理』みたいな数式が沢山出てくるミステリーでデビューしたかというと、自分でもよくわからないですけどね(笑)

阿津川 私も小学生の頃はファンタジー大好き少年でした。『ハリー・ポッター』は自分も含めてみんな読んでいましたね。第五作『不死鳥の騎士団』が小学四年生の時に出て、シリーズの映画化も盛り上がっていたんですよ。私は同時期に出ていた『ダレン・シャン』というダークファンタジーにも夢中でしたね。
あのあたりの作品や『指輪物語』などのヒットのお陰で、あの頃は大量に海外ファンタジーが翻訳されていました。だから私も井上さんと同じように、読書の入り口はファンタジーだったんですよ。それが急に、中学二年生で新本格に落ちるという(笑)

ミステリーとの出会い

井上 ファンタジーが入り口という点は、一緒だったんですね。ミステリーはいきなり新本格から入ったんですか?

阿津川 正確に言うと小学生の頃のはやみねかおるさんですね。

井上 はやみねさんはいいですよね! 自分も好きです。

阿津川 その後中学一年生のときに、東野圭吾さんと宮部みゆきさん、伊坂幸太郎さんにドハマりしました。三人の作品を全部読むところから始まって、学校の図書室から毎日のように三冊ぐらい借りていました。そしたら司書さんに目を付けられて、「これ好きだろうから読みなよ」と差し出された三冊が、綾辻行人さんの『十角館の殺人』、乾くるみさんの『イニシエーション・ラブ』、歌野晶午さんの『葉桜の季節に君を想うということ』。今から思うと、なんて邪悪なラインナップだろうと思いますが(笑)

井上 なるほど(笑)それは、完全に阿津川さんをハメるために選ばれたラインナップですね。

阿津川 恩師ですが、まるで悪いミス研の先輩みたいですよね(笑)そこでハマってしまって、三人の作品を全部読んで、綾辻さんを読んだら次は有栖川さんが読みたくなるという流れで、どんどん他の作品にも手が伸びました。あの図書室に読みたい本が全部あったんですよね。

井上 見事に本格ミステリーに落ちましたね(笑)環境がそれだけ整っていたというのは羨ましいです。阿津川さんは本当に読書家で有名ですが、海外ミステリーもその頃から読んでいたんですか?

阿津川 入り口はその図書室に全て揃っていた、早川書房さんの「クリスティー文庫」でした。文芸部の顧問から勧められて、一冊目の『スタイルズ荘の怪事件』から順番に読み潰していきましたね。クリスティーだけ読んでいると飽きるので、エラリー・クイーンは新本格の作家たちがたびたび言及しているからすごいんだろうと思って、順番に読んでいったり……ロードマップみたいにひたすら読みました。

井上 そんなに次から次に読めるなんてすごいですよ。なるべくしてミステリー作家になった流れですね。

阿津川 井上さんはミステリー作家だとどなたがお好きですか?

井上 本当に王道で有名な作家さんたちを読んできました。やっぱり特に東野圭吾さんは好きですね。あとは、阿津川さんが挙げた三人の本格ミステリ作家の方々のように、初めてミステリーの洗礼を受けたって意味だと京極夏彦さんです。
高校のときに部活の友達が「面白いから読んでよ」って貸してくれて、本当に衝撃を受けました。その頃はもう理系だったんですけど、量子力学などの話をこんなに面白く小説にできるのかって感動もありましたし、ストーリー自体にも興奮しました。京極さんが自分にとってのファーストインパクトでしたね。

阿津川 京極さんの作品は衝撃的ですよね。夏になるたびに『姑獲鳥の夏』と『魍魎の匣』を読み返したくなります。

井上 ちょうど今のシーズンにはうってつけですよね。

(第2回に続く)

 

〈対談者紹介〉

井上真偽(いのうえ・まぎ)

神奈川県出身。東京大学卒。2015年、『恋と禁忌の述語論理』で第51回メフィスト賞を受賞してデビュー。2017年『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』が「2017本格ミステリ・ベスト10」の第1位となる。

阿津川辰海(あつかわ・たつみ)

1994年東京都生まれ。東京大学卒。2017年、新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」により『名探偵は嘘をつかない』でデビュー。2020年、『透明人間は密室に潜む』が「本格ミステリ・ベスト10」の第1位となる。2023年、『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』で第23回本格ミステリ大賞《評論・研究部門》を受賞。

関連書籍

井上真偽『アリアドネの声』

救えるはずの事故で兄を亡くした青年・ハルオは、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職する。業務の一環で訪れた、障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震に遭遇。ほとんどの人間が避難する中、一人の女性が地下の危険地帯に取り残されてしまう。それは「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱え、街のアイドル(象徴)して活動する中川博美だった――。 崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。およそ6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまう。ハルオは一台のドローンを使って、目も耳も利かない中川をシェルターへ誘導するという前代未聞のミッションに挑む。

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アリアドネの声

二度読み必至の書下ろし長編ミステリ―。井上真偽さんの『アリアドネの声』最新情報をお届けします。

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井上真偽

神奈川県出身。東京大学卒業。『恋と禁忌の述語論理(プレディケット)』で第51回メフィスト賞を受賞してデビュー。2017年『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』が「2017本格ミステリ・ベスト10」の第1位となる。

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