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撮影:倭田宏樹

「バカヤロー」キャラで74年やってきた泉谷しげるさんの新書『キャラは自分で作る―― どんな時代になっても生きるチカラを』より、泉谷さんの熱い「キャラ論」をお届けします!

奥尻救援フォークゲリラライブ

忘れもしない1993年の7月。テレビ見てたら、衝撃的な映像が流れてきた。北海道南西沖地震。北海道の奥尻島がひでえことになってるって。爆撃でも受けたんじゃねえかってくらい、島がめちゃくちゃなんだ。

なんとかしねえとな。オレにできることがあるんじゃないか。そう思ってな、で、行きついたのが街頭チャリティーライブよ。

東京で奥尻救援フォークゲリラライブっていうのを始めた。新宿とか渋谷とかで。いろんな街を回ってよ、ギター1本持って路上で歌うんだ。

で、集まった客に向かって、「お前ら、募金しろ!」「奥尻島のために金を出せ!」って強要した。そうしたら、予想を超える募金が集まるじゃねえか。ライブの場所を全国に広げていって、各地を回ったっていうワケよ。

金だけじゃなく、賛同者も集まってきた。忌野清志郎、桑田佳祐、小田和正、それから吉田拓郎も。音楽で被災者を助けようって、集まってくれたんだ。で、翌年に「日本をすくえ」っていうチャリティーコンサート開いた。武道館でな。

「日本をすくえ」で、2000万円くらい集めた。でかく考えれば、そんなの焼け石に水だけどな。でも、いいことをやった気がした。有頂天でよ、「オレは社会を動かせるんだ」って自己満足にひたったなァ。

でも、疑問も湧いてきた。オレは事件好きなただのお調子者じゃねえのかって。こんなことで、自己満足してていいのかってな。

だけどよ、金が集まれば被災地で役に立つのは確かだろ。そう自分を納得させて、しばらく募金の呼びかけを続けたんだ。

偽善で何が悪い!

奥尻島のチャリティー活動で、非難を山ほど受けた。まあ、予想はしていたんだけどな。ここぞとばかりに、叩きやがる。

「どうせ売名行為だろ」「泉谷って、やっぱり偽善者だよな」ってな。何せ、暴れん坊キャラの泉谷しげるだしよ、チャリティーとは最も縁遠い場所にいると思われていたワケだ。

それに、ゲリラライブって言ってたけど、警察に許可は取ってたんだ。暴動が起きて、ケガ人が出たら困るだろ。大都会でそんなことになっちまったら、どうすんだ。正直、オレもビビっちまって、警察に前もって話しておいたんだ。

警察も、意外にOKしてくれるんだ。許可の申請に出向いたら、初めは「路上でゲリラライブをやりたいだと? ダメに決まってるだろ」って言ってくる。「一回だけ、お願いしますよ」って粘ると、「じゃあ、一回だけだぞ」って。日本の警察は寛容だって、初めて感じたな。

で、そのゲリラライブが警察の許可を取っているって、客にバレちまった。

「泉谷、このニセゲリラめ!」ってよ。テメエら、言うじゃねえか。

こっちも開き直って、「お前ら、バカじゃねえのか。警察の許可なしでできるとでも思ってんのか」って、逆に説教よ。まあ、文句垂れるヤツは、何にでも文句つけてくるからな。

日本は依然としてチャリティーへの意識が低いよな。海外なら、地震やハリケーンで被害が出ると、ミュージシャンや役者が率先してチャリティーをやるだろ。日本にはその土壌や文化がないんだ。

逆に、チャリティーをやると叩かれる。タレントやアイドルが「募金お願いします」って言うと、「偽善者だ」って言うヤツが出てくるんだ。

オレは非難が出てくるのは承知だったから、こっちから先に言っておいた。「売名行為で何が悪い! 売名でもなんでも奥尻島には金がいるんだ。偽善でもなんでも、なんと言われてもいいから、お前ら、金を出せ!」ってな。

標語も作ったんだ。「一日一偽善」。いい言葉だろ。お前が偽善って言うなら、それでいい。どうでもいいから、とにかく、金を出せよ。

ボランティアっていうのは、犯罪行為とスレスレっていうところがあるんだ。ゲリラライブは道路交通法に引っかかるし、大勢集まれば突発的集会にもなっちまう。逮捕される可能性だってあるワケよ。でもよ、それでも、やらなきゃなんねえって思うから、やるんだ。

募金がいっぱい集まったって、オレの儲けは一銭もねえ。全部寄付するからな。だから、オレの所属事務所も儲からねえし、逆にリスクしかないんだ。もしもオレが逮捕されちまったら、事務所にも捜査が入るだろ。責任を追及されるのが目に見えてるからな。

そうなるのが嫌で、事務所に言ったんだ。「チャリティー活動の責任は、あくまでオレひとり。だから、オレとの契約を打ち切ってほしい。事務所を辞めたい」ってな。

でもよ、事務所はクビにしてくれなかった。それどころか、事務所のヤツらが、手伝わせてくれって言い出した。

オレはひとりでやると決めてたから、「やめとけ」って言った。でも、聞きやしねえ。「いや、やらせてくれ」ってな。結局、たくさんの人を巻き込んじまったんだ。

関連書籍

泉谷しげる『キャラは自分で作る どんな時代になっても生きるチカラを』

二言目には「バカヤロー!」が口を衝く、「強烈にして無比」なキャラクターでやってきたミュージシャンも、74歳。本当は臆病で小心者だけど、孫悟空に憧れて、暴れん坊キャラで生き抜いてきた。根拠なき自信は強い。「バカヤロー」キャラは男の兵法。自信を持って臆病キャラに徹する。「悟れ」ではなく「悟るな」。こずるく図々しく生きて構わない。偽善で何が悪い。生きることが困難な時代だからこそ、「キャラで生き抜け!」と叱咤激励。

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