
「痛み」の感じ方は人によっても、時と場合によっても違うもの。女性は男性より痛みを感じやすい、不安をおぼえていると痛みを感じやすい、昼より夜のほうが痛みを感じやすい……。著書『とれない「痛み」はない』を発表した、麻酔科専門医の柏木邦友先生に、「痛み」にまつわる意外な事実を教えてもらいました。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【前編】柏木邦友と語る「『とれない「痛み」はない』から学ぶ痛みと対処法」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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「痛み」はこれまで軽視されてきた?
── 今回の本は「痛み」がテーマですが、痛みに特化した本って、意外とこれまでありませんでした。

たしかに腰痛だったり、頭痛だったり、個々の病気にスポットを当てた本はありますが、痛みそのものを扱っている本は見当たりませんね。なぜかと考えると、痛みという総論を、専門的に扱っている先生が今までいらっしゃらなかったことがひとつ。
もうひとつは、痛みは過程であって、結果ではないことです。痛みがあって調べてみたら、がんが見つかった、心筋梗塞が見つかったということはあります。でも、痛みを治したからといって、がんや心筋梗塞が治るわけではありません。だから、あまり重要視されてこなかったのだと思います。
── 痛みの感じ方って、人それぞれですよね。
おっしゃる通りです。痛みに強い人もいれば、弱い人もいます。ホルモンの影響で、男性より女性のほうが痛みを感じやすいこともわかっています。
同じ人であっても、痛みを感じやすいとき、感じにくいときがあります。精神面で不安なときや、昼より夜のほうが痛みを感じやすかったりします。なぜ痛みを感じやすくなっているのか、その原因を明らかにして、とり除くことが大切だと思います。
── ちなみに、先生は痛みに強いほうですか?
私はめちゃくちゃ弱いんです(笑)。健康診断の採血とか本当にイヤで、何日も前から気が滅入っています。だからこそ、自分が患者さんに注射するときは、できるだけ痛みが少ない方法をとるようにしています。
── 以前、新型コロナワクチンを打ったとき、ものすごく痛かったんです。しかも、打ったところが内出血して……。これって、失敗だったということでしょうか。
採血にしろワクチンにしろ、打つのが上手い人もいれば下手な人もいます。やはり上手な人が打つと、それほど痛くなかったりしますね。そもそもワクチンは、血管に当たらないように打つものです。なのに内出血したということは、おそらく血管に針が当たってしまったのでしょう。
血液の中には、プロスタグランジンという痛みの原因となる物質が入っています。それが血管から漏れると、痛みが広がってしまうんですね。
元気なうちに考えておきたい「QOD」
── 「ロキソニン」「イブ」など、市販の鎮痛剤にはたくさんの種類があります。どれを飲めばよいのか、素人が判断するのは難しいのですが……。

新しい薬がどんどん出てくる一方、古くてリスクのある薬は淘汰されているので、より安全で使いやすくなっていると思います。
入手もしやくすくなりました。以前は、インターネットで買えるのはビタミン剤など副作用のない、第3類医薬品と呼ばれるものだけでした。しかし、2013年の最高裁の判例によって、すべての市販薬がインターネットで購入できるところまで来ています。
ただし、市販薬で痛みがとれない場合は注意が必要です。たしかに病院で薬を処方してもらうより、薬局でもらうほうがラクでしょう。私も、病院へ行くのは面倒だなと思います。でも、これは明らかにおかしいと考えて、早めに病院にかかることが重要です。
── 『とれない「痛み」はない』の中では、終末期の緩和ケアについても触れられています。
QOL(クオリティ・オブ・ライフ)という言葉は、かなり世間に定着してきました。おそらく今後は、QOD(クオリティ・オブ・デス)という言葉が広まるのではないかと思っています。ようするに、「どういうふうに死にたいか?」ということです。
いざ後期高齢者になってから、QODを考え始める人は少なくないと思います。しかしそれだと、自分の理想とする死に方を見つけられないまま、死に至ることになりかねません。できるだけ早い段階で知識を身につけ、「どういうふうに死にたいか?」を考えることが必要だと思います。
── これからの時代、日本でも安楽死が普及することはあると思いますか?
海外では、安楽死を認める国が増えていますね。オランダは世界で初めて安楽死を認めた国ですが、2010年には年間死亡者数に対する安楽死の割合が、2.8パーセントまで増えています。また、世界で2番目に安楽死を認めたベルギーでは、12歳以下の子どもにも安楽死を認めています。実際、9歳の子どもに安楽死が適用された例があります。
日本では安楽死は禁止されていて、延命措置をやめることしかできません。それも嫌がる医療従事者もいますし、患者さんの家族の中にも、延命措置を希望する方は少なくありません。ですから、元気なうちに、しっかりご家族の方と話し合っておくことが大切だと思います。
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AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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