
クラシックから、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガまで、幅広い分野に造詣が深く、これまで発表した著書は80冊以上。自宅の蔵書はなんと2万冊近く……。まさに博覧強記を地で行く、編集者で作家の中川右介さん。そんな中川さんが実践している勉強術、読書術を教えてもらいました。
※本記事は、 Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』より、〈【後編】中川右介と語る「『世襲 政治・企業・歌舞伎』から学ぶ世襲問題」〉の内容を一部抜粋、再構成したものです。
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「いろんなこと」を同時にやってみよう
── 中川さんはこれまで80冊以上の著書があり、ジャンルもクラシック、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガと多岐にわたっています。いまもたくさんの仕事を進めていらっしゃいますが、混乱することはないんですか?

よく聞かれますが、同時にいろんなことをやるのは苦にならないですね。学生時代を思い出せばいいと思うんです。1時間目が国語、2時間目は数学、体育や音楽の授業もあって、部活や女の子とのデートもある。それでも同時並行でうまくやっていたでしょう。
会社に勤めるようになると、一日中、同じ仕事をやることになりがちですが、僕は学生時代の感覚がいまだに続いているのかもしれません。
それに、いろんなことを同時にやっていると意外な発見もあるんです。たとえば今回の『世襲──政治・企業・歌舞伎』でいうと、政治の章で吉田茂のことを調べていたら、次の企業の章に出てくる日産自動車の創業に吉田茂のお兄さんが関わっていたりする。
「こんなところでつながっているんだ、世間は意外と狭いんだな」と驚きました。いろんなことを同時にやるほうが広がりがあって、僕は面白いと思います。
── 膨大な知識をお持ちですが、勉強はどのようにしているのですか?
新しい分野に手をつけるときは、とにかく本を読みますね。本を書くときはもちろん、母の介護をしなければならなくなったときは介護の本を読んだし、糖尿病だと言われたときは糖尿病に関する本を読みました。なんでもまず本から入る、というのはあると思います。
もちろんインターネットも使いますが、ウィキペディアなどに書かれている情報をうのみにしたりはしません。ウィキペディアを見るときは、出典をチェックして、文献に直接当たるようにしています。
ここ10年ほどで、文献に当たるのが本当に楽になりました。昔は目当ての本を探すために古本屋さんを回り、見つけたら高くてもそこで買うしかなかった。でも、いまは「日本の古本屋」というサイトがあって、目当ての本がどこのお店で、いくらで売っているかが瞬時にわかる。本当に助かりますね。
でも、それがどんな内容の本なのか確かめるには、やはり現物を見ないとわからない。その意味で、街の本屋さんが出会いの場であることには変わりはありません。
『ガラスの仮面』に学ぶ不屈の精神
── 蔵書は何冊くらいお持ちなんですか?

2万冊くらいでしょうか。事務所はもう歩くスペースもありません(笑)。これくらいが限界で、増えたぶんは定期的に古本屋さんに来てもらって処分するようにしています。
── 仕事で使い終わったら処分する、という感じですか?
それが逆で、仕事で使った本、読んだ本は取っておくことが多いんです。買ったけど使わなかった本、ほとんど読まなかった本は、縁がなかったと思って「さようなら」することが多いです。
整理はジャンルごとにしていますね。クラシックの棚、歌舞伎の棚というように分類して、すぐにわかるようにしています。文庫本や新書については、書店と同じように出版社ごとに並べています。タイトル、著者名、出版社名をぜんぶ覚えておかないといけないのは、ちょっと大変ですけどね。
── 本はやはり紙のほうがいいですか?
小説とかはいまも紙で読みますけど、マンガはむしろタブレットのほうがいいですね。新書判のコミックより大くて見やすいし、画もきれいに映ります。同じマンガでも、タブレットで見るのと紙で見るのでは線の再現度がまったく違うんですよ。
とくにいまのマンガ家はパソコンで描いていますよね。だからタブレットで見たほうがオリジナルに近いんです。
── ちなみに、中川さんの人生にもっとも影響を与えた本はなんですか?
美内すずえさんの『ガラスの仮面』(白泉社)ですね。主人公の北島マヤが失脚して、舞台に立てなくなったとき、彼女は「さがしてもさがしても道がみつからなければ、自分で道をつくればいいんだ」と決意します。そうして、一人芝居という新しいチャレンジをするんです。
これって、本当にその通りだなと思います。僕も父の会社が倒産して、債務を引き継いだときはどうしようかと悩みました。でも、自分で道をつくればいいと思って、自分の会社をつくってここまでやってきました。
── 最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。
僕はこれまでクラシックや歌舞伎をはじめ、そのジャンルのファンの方に楽しんでもらえる本をつくってきました。しかし、今回の『世襲──政治・企業・歌舞伎』は、現代の日本に生きている人なら誰でも関心を持ってもらえる本になったと思います。
見かけはちょっと分厚くて、普通の新書よりお値段も高いですけど、おそらくページあたり単価でいえば非常にお買い得になっていますので、ぜひお読みいただければと思います。
Amazonオーディブル『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』はこちら
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武器になる教養30min.by 幻冬舎新書

AIの台頭やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化で、世界は急速な変化を遂げています。新型コロナ・パンデミックによって、そのスピードはさらに加速しました。生き方・働き方を変えることは、多かれ少なかれ不安を伴うもの。その不安を克服し「変化」を楽しむために、大きな力になってくれるのが「教養」。
『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』は、“変化を生き抜く武器になる、さらに人生を面白くしてくれる多彩な「教養」を、30分で身につけられる”をコンセプトにしたAmazonオーディブルのオリジナルPodcast番組です。
幻冬舎新書新刊の著者をゲストにお招きし、内容をダイジェストでご紹介するとともに、とっておきの執筆秘話や、著者の勉強法・読書法などについてお話しいただきます。
この連載では『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』の中から気になる部分をピックアップ! ダイジェストにしてお届けします。
番組はこちらから『武器になる教養30min.by 幻冬舎新書』
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