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コンサバ会社員、本を片手に越境する

2022.11.24 更新 ツイート

「話さないやつ、存在価値無し」にとらわれた私が事故動画で開眼した“聞く技術” 梅津奏

私よ、相手の話を聞け……

 

あれは30歳になったばかりの頃だったか。職場のコミュニケーション研修に参加したときのこと。

座学とグループワークの後、研修の総仕上げとしてロールプレイをすることになった。部下役を演じる講師と一対一で会話する様子を動画撮影し、参加者全員で鑑賞する。与えられた設定は「問題行動を繰り返す部下と話し、上司として適切な働きかけをしなさい」というもの。

実際に部下を持った経験はなかったが、職場のあるある事例ではある。面倒くさい後輩はいくらでもいるし、それなりに良い先輩として対応してきた自負もある。何より「べしゃり力」には自信があった。ロールプレイもそつなくこなしたつもりだったが、後から動画を見て衝撃を受けた。

 

「元気?」「最近どう?」というおざなりのアイスブレイクの後、いきなり本題に入る私。

「Aさん(部下)が最近職場に不満をもっているのは知ってる」

いや、Aさんそんなこと一言も言っていませんが。

「それはAさんが、チームのみんなと気が合わないと思っているからだよね」

いや、Aさんそんなこと一言も(略)。

「Aさんの気持ちも分かるよ。でも仕事はチームワークでするものだから、もっとみんなの話も聞いてほしいんだ」

いや、まずお前がAさんの話を聞け。

持ち時間の10分弱、見事にずっとこの調子。相手の反応を待たず、回り込んで決めつけて、上から目線でアドバイスする。表情や声音こそ柔らかくしているが、自信満々で相手を丸め込もうとする気負いが見え見え。たまに思い出したように「だよね?」と笑いかける(しかし1秒後にまた自分が話しはじめる)のがまた白々しい。

最終的には恥ずかしさを通り越して、「聞く耳を持たない人ってまさにこいつのことだな~」と感心してしまった。さらに悪いことには、私はオンとオフでキャラクターに差がないタイプである。つまり、いつもこんな感じで家族や友人とやりとりしているということ? ああ……。

 

コミュニケーションに関する自分の誤解に気づいたのはこのときだ。私はそれまで、自己主張が何より大事だと信じてきた。「会議で発言しない者に存在価値なし」「コミュニケーションは先手必勝」、たしかに、動画の中の私は相手よりたくさん話し、自分の意見を積極的に主張していた。でもだからって何なのだろう。一分一秒でも長くマイクを持っていた者が勝ちなのか? それが相手にまったく響いていなくても?

 

「十分に聞くこと」なくしては、コミュニケーションは始まらない。舌鋒鋭く立て板に水流すがごとく流麗に喋れたところで、実は周囲はポカンとしているのかも。その場はうまくまとめたように見えても、丸め込まれた方は内心ふつふつと不満を募らせ、その後の関係に影響が出てくるのかも。

「自分は話すのがうまい。だからコミュニケーション力が高い」と勘違いしていた私は、いわば井の中の蛙。話す力に自信のある人は、どんな場でも我こそはと話し始める。自分が話す時間が長いほど聞く時間は短くなる。それを繰り返していれば、周囲の人がなにを考えているか・自分のことをどう見ているかなんて知ることはできない。この悪循環を断ち切るために、私が鍛えるべきは何より「聞く力」だ。

LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』(ケイト・マーフィ著・篠田真貴子監修・松丸さとみ訳/日経BP)

聞きべたの人たちは、本気で考えているのです。人の意見を聞くとは、相手の唇が動くのをやめて自分が話せるようになるまで、礼儀正しく待っていることだ、と。――『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』より

人の話を聞かない人は、自分とは違う意見・未知の話を聞くことで、自分の世界が揺らぐことを恐れている。急激に広がるSNSの世界でも、自分の話を遮られずに発信し、聞きたくない意見はブロック可能。しかしそうやって象牙の塔にこもってしまうと、自分の世界を狭めることになる。好奇心をもって人の話に耳を傾ける。ただそれだけのことで、見えてくる世界はがらりと変わる。

聞く技術 聞いてもらう技術』(東畑開人/ちくま新書)

余裕のない社会がそれでも社会であり続けるために、「聞く」が求められています。しかし余裕がないからこそ「聞く」自体が不全に陥っている。――『聞く技術 聞いてもらう技術』より

「聞く」はぐるぐる循環するもの。聞いてもらっている安心感があるからこそ、人は人の話が聞ける。「『聞く』の不全」が社会問題になっていると語る人気カウンセラー・東畑さんが伝授するのは「聞く技術」と「聞いてもらう技術」。この二つはいわば車の両輪で、一体不可分。まさに聞くプロである東畑さんがおすすめする小手先テクニックも非常に実践的。

問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』(安斎勇樹/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

これからの時代、仕事は「自力」ではなく、「他力」を引き出せなくては、うまくいきません。――『問いかけの作法』より

よし分かった、明日から人の話をしっかり聞くぞ!……そう決意した先に待ち構えるのは、「どう働きかければ、人は話を聞かせてくれるのか?」という壁。「最近どう?」「なんでも思ったことを言ってね」そんな問いかけで相手が饒舌に話し出すなら苦労はしない。どんなシチュエーションで、何を聞きたいのか、相手はどんな立場の人か。具体的なケース・スタディが多数紹介されている、聞く技術を学ぶための参考書。

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梅津奏

1987年生まれ、仙台出身。都内で会社員として働くかたわら、ライター・コラムニストとして活動。講談社「ミモレ」をはじめとするweb媒体で、女性のキャリア・日常の悩み・フェミニズムなどをテーマに執筆。幼少期より息を吸うように本を読み続けている本の虫。ブログ「本の処方箋、どうぞ♪」

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