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月はすごい 資源・開発・移住

2022.12.08 公開 ポスト

月の「永久影」で実用化?!「超伝導コイル」莫大なエネルギーを生む夢の技術佐伯和人(博士(理学))

アメリカ主導による有人月面着陸計画「アルテミス計画」、民間ベンチャーによる月面探査機打ち上げなど、宇宙開発の中でも特に注目度の高い「月開拓」。なぜ国や企業は「月」に注目しているのでしょうか。

最前線の月探査プロジェクトに携わる佐伯和人さんの著書『月はすごい 資源・開発・移住』(中公新書)から、月の環境があるから実現できる、夢の技術について抜粋してお届けします。

「超伝導コイル」月の極低温環境で実用化されるかもしれない、夢の技術

高日照率地域縦穴の他にも場所としての重要な資源があるので、ここでまとめておきたい。

まずは、永久影だ。永久影は、第3章で氷が貯蔵されているかもしれない場所として紹介したが、ここでは他の意義も確認しておきたい。永久影の利用価値は、マイナス190度C以下の極低温というところにある。そこに超伝導という技術を組み合わせると、いろいろな活用法が浮かび上がってくる。

(写真:iStock.com/HASLOO)

超伝導とは、物質の電気抵抗がゼロになる現象で、ある種の物質が極低温に冷却されたときにのみ発現する性質である。超伝導の性質を得られる温度をできるだけ室温に近づけようという研究が行われているが、まだ夢の室温超伝導は達成されておらず、現在のところはマイナス123度Cが最高温度だ。

しかし、永久影ではこの超伝導が実現する低温環境が簡単に手に入る。超伝導コイルという、超伝導物質でできたコイルに電気を流して、電力ゼロで強力な磁場を発生させる装置はさまざまに応用できる。例えば、フライホイール式の蓄電施設をつくることができる。

フライホイールというのは、巨大な重いコマのようなもので、モーターの原理を用いて電気で重いコマを回転させる。超伝導コイルの磁力を使ってコマの軸を空中に浮かしておけば、回転のエネルギーが自然に失われることがほとんどなくなり、いつまでもコマは回り続ける。電気が必要な時には、そのコマの回転エネルギーを使って発電することで、ためていたエネルギーを取り出すことができる。月は夜の時間が長いので、昼に発電した電気を夜のためにためておく方法として有効だろう。

 

超伝導コイルの活用方法として、他にも期待されているのが、核融合炉だ。次章で詳しく紹介するが、月面で採掘できるヘリウム3という物質は、核融合炉の燃料として期待されている。陽子2個と中性子1個でできているヘリウム3原子と、陽子1個と中性子1個でできている重水素を反応させて、陽子2個と中性子2個でできるヘリウム4原子と、陽子が1個になるときに莫大なエネルギーが生まれるのである。

核融合炉では、1億度Cを超すような想像を絶する温度にした燃料物質を狭い空間に閉じ込めておく必要がある。もちろんそんな高温に耐える容器は存在しない。そこで、強力な電磁石で磁界をつくって閉じ込めてしまう方法が考えられている。通常、この電磁石をつくるのに電力を使うと、発電電力よりも大量の電力を使ってしまうのだが、超伝導コイルであれば、電力ゼロで強力な磁界を発生させることができる。このため、未来の核融合炉は永久影にできる可能性が高い。

もっとも、それまでにもっと高温で発現する超伝導物質が開発されれば、永久影にこだわる必要はなくなるわけだが、さて月に核融合炉が建設されるのと、常温超伝導物質が開発されるのと、どちらが先になるだろうか。

 

超伝導と言えば、超伝導量子コンピューターという次世代コンピューターの開発も進んでいる。もしかすると、近い将来には、広大な月面に広げられた巨大太陽電池パネルの電力と、永久影の低温を武器に、月の極域のクレーターの底に超伝導量子コンピューターセンターができて、複雑な計算は月でするという時代が来るかもしれない。

各国、各企業が奪い合う「場所」としての資源

場所としての資源というと、宇宙観測に最適な場所という意義もある。例えば重力波天文台という構想がある。地球上につくられた施設で2015年に初めて重力波が検出され、2017年にこの成果に貢献した研究者がノーベル物理学賞を受賞したのは記憶に新しい。月面には大気がなく、振動の発生源も地球に比べてきわめて少ないので、大型の高精度な重力波天文台をつくることができる。

(写真:iStock.com/songqiuju)

他にも低周波電波天文台という構想がある。地球では人工の電波源が多すぎて10メガヘルツ以下の低周波の電波観測が難しい。そこで、地球の電波に邪魔されない月の裏側に低周波で宇宙を見る電波望遠鏡をつくろうというわけである。2019年1月に人類初の月の裏側着陸を成功させた中国の嫦娥4号は低周波電波による宇宙観測を行うということなので、どんなものが見えてくるのか結果を楽しみにしたい。

そのほかにも、火星探査や火星開発のための練習場という意義もあるし、観光地としての利用もあるであろう。

*   *   *

この続きは中公新書『月はすごい 資源・開発・移住』をご覧ください。

佐伯和人『月はすごい 資源・開発・移住』(中公新書)

一番身近な天体、月。約38万km上空を回る地球唯一の衛星だ。アポロ計画から約半世紀を経て、中国やインド、民間ベンチャーも参入し、開発競争が過熱している。本書では、大きさや成り立ちといった基礎、探査で新たに確認された地下空間などの新発見を解説。人類は月に住めるか、水や鉱物資源は採掘できるか、エネルギーや食糧をどう確保するかなども詳述する。最前線の月探査プロジェクトに携わる著者が月面へと誘う。

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月はすごい 資源・開発・移住

アメリカ主導による有人月面着陸計画「アルテミス計画」、民間ベンチャーによる月面探査機打ち上げなど、宇宙開発の中でも特に注目度の高い「月開拓」。なぜ国や企業は「月」に注目しているのでしょうか。

最前線の月探査プロジェクトに携わる佐伯和人さんの著書『月はすごい 資源・開発・移住』(中公新書)は月の基礎知識から月がもたらすであろう資源やエネルギー、そして宇宙開発の未来まで解説した一冊。

月の大きな可能性が垣間見えるこの本から、一部を抜粋してお届けします。

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佐伯和人 博士(理学)

1967年(昭和42)愛媛県生まれ。東京大学大学院理学系研究科鉱物学教室で博士取得。専門は惑星地質学、鉱物学、火山学。ブレイズ・パスカル大学(フランス)、秋田大学を経て、現在、大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻准教授。JAXA月探査「かぐや」プロジェクトの地形地質カメラグループ共同研究員。月探査SELENE-2計画着陸地点検討会の主査を務め、月着陸計画SLIMにかかわるなど、複数の将来月探査プロジェクトの立案に参加している。

著書『世界はなぜ月をめざすのか』(講談社ブルーバクス、2014年)『月はぼくらの宇宙港』(新日本出版社、2016年)ほか

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