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イノベーション道場

2022.11.21 公開 ポスト

元ネスレ社長が語る「キットカット受験生応援キャンペーン」誕生秘話高岡浩三(元ネスレ日本社長)

元ネスレ日本代表をつとめ、現在はビジネスプロデューサー・マーケターとして多くの企業を成長に導いている高岡浩三さん。近著『イノベーション道場』は、「ネスカフェアンバサダー」「キットカット受験生応援キャンペーン」など、数々の革新的サービスを世に送り出してきた高岡さんの経験から練り上げられた、「イノベーションを生み出す手法」を惜しみなく公開しています。現状打破を考えるビジネスパーソンなら必読の本書より、内容を一部ご紹介します。

*   *   *

イノベーションはこのようにして起こす

プロジェクトチームは、基本的にもう先に進めないと諦めていました。しかし、私は諦めていませんでした。その根拠は、九州のスーパーでの売り上げが、毎年1月、2月だけ突出して伸びている事実です。

「九州では、受験生にキットカットを贈る習慣がある」

最初にその事実を教えてくれたのは、鹿児島でもっとも大きなリージョナルチェーンの社長でした。その社長が、顧客に直接聞いたというのです。

「キットカットと、きっと勝つ(方言で『きっと勝っとう』)を掛けている」

(写真:iStock.com/Panama7)

売り上げと関係なければ、私も一部の地方で流行しているだけの話と聞き流していたでしょう。ところが、実際に普段より売り上げが伸びているのです。そこには何かがあると感じました。

そこで、お客さま相談室に寄せられた声を集めてみました。すると、ちらほらと似たような声が寄せられていたのです。

「甲子園に出場する野球部のマネジャーが、部員全員分買って現地に持っていった

「名古屋のパチンコ店キットカットのロゴを使わせてくれと言ってきたが、ネスレ日本が断っていた」

もちろん、そんな声は全体から見ればゼロに近い割合です。でも、これを広めればもっとたくさんの人が買ってくれるのではないか。0.1%の人しか知らないものを5%、10%と広げていくと、すごいことにならないか。だから、やる価値はある。

 

とはいえ、方法論が浮かびません。

手っ取り早いのは、もちろん広告です。でもそれは使えません。そこで目をつけたのがインターネットです。まだSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)はなく、ブロードバンドの登場とともに、ブログを書く人が徐々に増えてきた時代でした。

インターネット時代になったこと、そして個人のブログが情報源としてマスコミにもウォッチされるようになったこと。まだ期間はそれほど経っていませんでしたが、世の中の趨勢から、新しい現実になりそうな雰囲気は感じられました。

ちょうど今でいう、コロナ禍におけるリモートワークのような存在でしょうか。インターネット時代は不可逆的に進むという予測は、誰の眼にも明らかだったからです。

 

この新しい現実から、私たちの諦めていた問題が明らかになりました。

「テレビコマーシャル以外に、効果的な広告手段なんてあるのだろうか

そこから、次のような発想が生まれました。

「お金を使ってテレビで広告を流して売れた例しがない。だったら、インターネット上で口コミを拡散してもらえないか

 

これが問題に対するソリューションです。では、どのような口コミを拡散してもらうのが効果的か。ブロガーは、ただの宣伝を書いてくれるはずがありません。彼らが書きたくなるような「ネタ」を提供しなければならない。私たちは考えに考えました。浮かんだのは「ニュース」です。

「受験生のお守り」になったキットカット

自分は面白いネタを知っている。そのことを自慢したい。自分だけが知っているのはもったいない。みんなにも知ってもらいたい。

これがブロガーの心理だと思ったのです。だとしたら、キットカットと「きっと勝つ」というムーブメントを、どのようにしたらニュースに仕立てられるか。このテーマについて、さらに深く考えました。とくにこだわったのが、インターネットで拡散されやすいかどうかという視点です。

(写真:iStock.com/kazuma seki)

さまざまな仕掛けを試みました。

合格電報になぞらえ「キット、サクラサクよ」というメッセージを入れたパネルをつくって店頭に置きました。受験と言えば予備校。予備校の売店にキットカットを置いてもらいました。いずれも失敗です。

新たに生まれたアイデアは、ホテルとのコラボレーションでした。当時、地方に住む受験生は、居住地から離れた大学を受験する場合、ホテルに宿泊して複数の大学の入試に臨むのが普通でした。今のように、地方で受験できる環境はまだありませんでした。そこで次のような取り組みを考えたのです。

「宿泊している受験生が試験に行く前に、ホテルの人からキットカットと『キット、サクラサクよ』のメッセージが入ったポストカードを手渡してもらう。そのとき、ホテルの人には『がんばってくださいね』とひと言添えてもらう」

ほとんどのホテルに断られますが、新宿の京王プラザホテルとワシントンホテルだけが引き受けてくださった。結果は好評。引き受けてくださるホテルは年々増加し、ひとつのニュースをつくることができました。

 

しかし、まだインパクトに欠ける。もっと強いニュースをつくろうとしていたとき、私の知らないところで光明となる現象が生まれていました。

1月中旬に行われるセンター試験(現在の大学入学共通テスト)。受験生が最初に取り組む難関です。全国各地で行われますが、東京のいくつかの試験会場のゴミ箱に、キットカットの空箱が多く見られたそうです。

その現象が、ブログでささやかれます。

受験生は試験会場にキットカットを持っていく

 

はじめはそれほど反響がなかったものの、そのブログを読んだ朝日新聞の記者が、コラム「青鉛筆」に取り上げてから一気に広がりました。

そのコラムを、翌朝の情報番組が取り上げます。当時の新聞とテレビの影響力は絶大でした。すぐにセブン-イレブンの担当者から「品ぞろえしたいからキットカットを入れてくれ」という電話がかかってきたほどです。

このニュースが広まることで、キットカットは「受験生のお守り」というブランドイメージを確立していくことになります。

関連書籍

高岡浩三『イノベーション道場 極限まで思考し、人を巻き込む極意』

考えよ、行動せよ! 新しい価値を生むのはあなただ! 本田圭佑氏(サッカー選手、実業家) 挑戦を後押しする、最強のメソッド。 入山章栄氏(早大大学院教授) 最高に実践的な一冊! 世界標準の経験と理論が詰まっている。 世界を驚かせるようなイノベーションが生まれなくなって久しい昨今、高岡浩三氏はネスレ日本社長として、「ネスカフェアンバサダー」や「キットカット受験生応援キャンペーン」など革新的なサービスを世の中に展開した。その実績は、マーケティングの権威、フィリップ・コトラー氏らからジャパンミラクルと称賛された。本書では、著者が練り上げ、実践してきた、革新を生み出す手法を惜しみなく公開し、日本でイノベーションを生み出す術を伝授する。 イノベーションは何も技術革新のみを指すものではない。誰でもどんな職種でもイノベーションを起こすことができる、というコンセプトから、イノベーションを再定義し、実際の思考法(NRPS法)を紹介する。NRPS法とは、社会で起きている問題、周囲で起きている出来事に目を配り、「現実がどう変化しているか」を観察することで認識できる、いま私たちが置かれている現実を認識し、問題を炙り出し、その解決法を生み出す手法のこと。 この思考法を獲得し、徹底的に考え抜けば、誰でもイノベーションを起こすことができる、衝撃の1冊! はじめに イノベーションを諦めていないか 第1章 イノベーションを再定義する 第2章 イノベーションを生み出すNRPS法 第3章 なぜ日本でイノベーションが起こらないのか 第4章 イノベーションの目覚めは「外圧」だった 第5章 イノベーションの具体例をNRPS法で読み解く 第6章 イノベーションは「考え抜く」ことから生まれる おわりに 上司に期待するな。極限まで自分ひとりで考え抜け

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イノベーション道場

元ネスレ日本代表をつとめ、現在はビジネスプロデューサー・マーケターとして多くの企業を成長に導いている高岡浩三さん。近著『イノベーション道場』は、「ネスカフェアンバサダー」「キットカット受験生応援キャンペーン」など、数々の革新的サービスを世に送り出してきた高岡さんの経験から練り上げられた、「イノベーションを生み出す手法」を惜しみなく公開しています。現状打破を考えるビジネスパーソンなら必読の本書より、内容を一部ご紹介します。

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高岡浩三 元ネスレ日本社長

ケイアンドカンパニー代表取締役、元ネスレ日本代表取締役社長兼CEO。1983年、神戸大学経営学部卒。同年ネスレ日本入社。各種ブランドマネジャー等を経て、「キットカット」受験生応援キャンペーンや、新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを提案・構築し、利益率の低い日本の食品業界において、新しいビジネスモデルを追求しながら超高収益企業の土台をつくる。2010~2020年までネスレ日本CEO。2020年4月より現職。
現在は、DXを通じたイノベーション創出のビジネスプロデューサーとして「高岡イノベーション道場」を主催し、自ら後進の育成に取り組む。
マーケティングの世界的権威のフィリップ・コトラー氏が日本人で最高のマーケターと絶賛する。
著書に『ゲームのルールを変えろ――ネスレ日本トップが明かす新・日本的経営』(ダイヤモンド社)、『逆算力』(日経BP社)、コトラー氏との共著で『Marketing in the 21st century』他多数。

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