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日本は本当に沈むのか

2022.09.15 公開 ツイート

あなたが沈まないために 永井孝尚

日本の将来の危機や会社の業績悪化の話など、暗いニュースばかり聞き続けていると、「泥舟に乗りながら個人でできることなどあるのだろうか…」などと無力感に苛まれたりしがち。でもそうした感覚、マインドは間違っていると、企業戦略に詳しい永井孝尚さん(マーケティング戦略コンサルタント)は言います。この特集の「問い」からして違うかもというお話も。まずは何からはじめればいいのでしょうか――。

*   *   *

 

この特集は「日本は本当に沈むのか」という名前だが、この問題の本質は「あなたは本当に沈むのか」だ。言い換えれば「何もしないと5~10年後、あなたは今よりも悲惨な状況に陥っている」ということだ。

 

2022年5月、経済産業省が「未来人材ビジョン」を発表した。本資料には日本が置かれたリアルな状況が描かれている。SNS上には識者と呼ばれる人たちが「これはヤバい」「凄い資料だ」「これは必読!」という投稿が続いた。私には、実はこのこと自体がショックだった。

なぜならこの資料は数年前から言われ続けてきた様々な現象をまとめたものであり、特に新しいメッセージはないからだ。なぜ今さら新大陸を発見をしたかのように騒ぐのか、不思議だった。多くの人の日頃の危機意識が薄いからかもしれない。

そして「未来人材ビジョン」発表から4ヶ月が経過し、何か起こったかというと……残念ながら何も起こっていないように見える。「これはヤバい」といっても、結局は他人事なのだ。

そうしている間に、日本は着実に沈み続けている。かつて世界トップクラスの高賃金国・日本は、貧しくなり続けている。一例を挙げると、OECDによる世界各国の平均賃金比較2021年調査では、日本の平均賃金は米国の約半分。韓国・スロベニア・イタリアよりも低い。円安がグッと進んだ今年は、さらに大きく下がっているはずだ。そしてこのままでは今後も下がり続ける。その結果、私たちの生活がますます貧しくなっていく。

(写真:iStock.com/Ja_inter)

何が悪いかは、シンプルだ。「未来人材ビジョン」にもあるように、日本の人材力の劣化だ。一人一人のビジネスパーソンの実力差である。

 

日本は世界で最も早い時期から少子高齢化が進み、国内市場は縮小し続けている。つまりハンディキャップがある。本来、海外諸国よりも何倍もの努力が必要だし、海外にも進出すべきだ。たとえば韓国のエンタメ業界は国内市場が小さいので、世界市場に狙いを定めて成功している。しかし多くの日本のビジネスパーソンはそのような危機感がない。国内に閉じこもり、努力(=具体的な行動)も新たな挑戦もしていない。主体性がなく、受け身で仕事をしている。それがいまの日本の現実だ。

「ちょっと言いすぎじゃないか?」と思うかもしれない。では、こんな質問に答えられるだろうか?

【質問1】あなたが他の人と比べて、自分しか持たない武器は何ですか?

【質問2】あなたは仕事で、どんな付加価値を生み出していますか?

【質問3】あなたがその仕事をやっている理由は、何ですか?

ここで各質問に十数秒ほどかけて、答えを考えて欲しい。

では答え合わせをしてみよう。

【質問1】あなたが他の人と比べて、自分しか持たない武器は何ですか?

→「人柄です」「何でも頑張ることです」「現場を知っていることです」というのは、答えではない。抽象的だし、誰でも言えることだ。「自分しか持たない武器」とは、たとえば「ITに関わるどんなに複雑で難しい技術的問題でも、短時間で問題を切り分けて、解決策を導き出せる」とか、「破綻したプロジェクトに乗り込み、捨てる箇所と活かす箇所を見極め止血し、早期のプロジェクト撤退を成功させることだ」とか、「消費者を観察して隠れた潜在ニーズを見つけ出し、製品開発に繋げられる」といったように、具体的なものだ。

【質問2】あなたは仕事で、どんな付加価値を生み出していますか?

→「製品開発です」「営業です」は答えではない。それらは単なる業務名だ。「付加価値」とは、たとえばマネジャーが「部下のやる気を引き出して組織の生産性を50%アップした」とか、医者が「今年は患者100名を治療し、日常生活に復帰させた」とかいうように、具体的に生み出す価値だ。

【質問3】あなたがその仕事をやっている理由は、何ですか?

→「たまたまこの会社に入れたから」「上司の命令で」というのは論外。その答えは、あなたがその仕事を主体性もなく受け身でこなしている証明でもある。あなたが今の仕事で、何を武器にして、どんな価値を生み出そうとしているのかを考えないと、この質問には答えられない。

 

質問1~3に答えられた人は、ぜひそのまま続けて欲しい。しかし私の経験では、多くの人はこの質問に答えられない。

実力差は、言い換えると危機感の差だ。危機感がないから、具体的に考えないし、行動にも繋がらない。

つまり「日本は沈むのか?」と他人事で考えている間は、人は行動しない。「このままでは自分は沈む。これはまずいぞ」という切実な危機感を感じて、はじめて人は行動する。

自分の家が火事になって「困ったなぁ」と言いながら何も行動しない人はいないだろう。即座に家族の安否を確認し、大切な所持品をチェックし、消火するのか家から逃げるかを判断した上で、すぐに行動する。まったく同じことだ。

まずはこの問題を自分ごととして考えた上で、具体的な行動を始めるべきだ。これが出発点だ。具体的には、先の三つの質問を、次のように具体的に考えて答えられるようにして欲しい。

(1) 自分の長所と短所を見極めた上で、自分の得意なところに狙いを定め、自分しか持たない武器を決め

(2)(1)の武器を活かして、自分の仕事でどんな付加価値を生み出すかを考え抜く

(3)(2)の付加価値によって、自分が社会にどのように貢献するかを考え抜く

たとえば、この質問を考え続けてきた私は、いまはこう考えている。

(1)の答え
ビジネス経験に基づいて、マーケティングや経営戦略を理解し、ビジネスパーソンに分かりやすく伝えることができる。そして、それらを活かすための執筆力やプレゼン力を身に付けている。

(2)の答え
著書、永井経営塾、講演、研修などを通じて、できるだけ多くのビジネスパーソンの仕事力向上を全力で支援する

(3)の答え
ビジネスパーソンの仕事力向上を通じて、日本の成長を実現する

 

答えは人によってそれぞれだ。他人のことは心配する必要はない。しかしぜひ考えて欲しいことは、もし最初の(1)「自分しか持たない武器」がないとしたら、どのように武器を用意するかを考えて欲しい。最初は種のようなものでもOK。それを育てていけばいい。そして(2)(3)に繋げていくのだ。

 

具体的な行動を起こさない限り、世の中は0.1ミリも変わらない。

あなたはどんな行動をするだろうか?

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日本は本当に沈むのか

円安が進み、物価は上昇、平均賃金は約30年ほぼ横ばい、人口は減り続け、ジェンダーギャップ指数は116位(WEF、2022)、社会的不安や脆弱性も高まる中、変わらず自民党が主導する日本。企業の復活もままならず、イーロン・マスク氏の言う「消滅」の道をたどるのか。今後の日本の展望は。

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永井孝尚 マーケティング戦略コンサルタント

慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャー、人材育成責任者として同社ソフトウェア事業の成長を支える。2013年に退社しウォンツアンドバリュー株式会社を設立。毎年2000人以上に講演や研修を提供しマーケティング戦略の面白さを伝え続けている。2021年からは完全オンラインの「永井経営塾」を主宰。
多摩大学大学院MBA修了。多摩大学大学院客員教授を担当。
著書はシリーズ60万部の『100円のコーラを1000円で売る方法』、10万部『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)、10万部『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(ソフトバンク新書)など、累計100万部を超える。最新著は『世界のエリートが学んでいるMBAマーケティング必読書50冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)

永井孝尚オフィシャル・サイト

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