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他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。

2022.05.31 公開 ツイート

「障がいを持つ子の親になったことを受け入れられない」→「あなたはすでにお子さんを愛しはじめています」幡野広志さんの人生相談 幡野広志

多発性骨髄腫という難病で余命宣告を受け、現在も闘病中の写真家、幡野広志さん。そんな幡野さんの人生相談集『なんで僕に聞くんだろう。』は、「cakes」連載時から年間でもっとも読まれた記事に輝くなど、大きな反響を呼びました。今回ご紹介する『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』は、その続編。家族のこと、恋愛のこと、将来のこと、病気のこと……。私たちの背中を押してくれる、幡野さんの優しく力強い言葉を、ぜひ味わってみてください。

*   *   *

Q.「障がいを持つ子の親になったことを受け入れられません」

障がいを持つ子どもの親になったことを受け入れられません。

先日、女の子を出産しました。

先天性の異常が有り、今後身体的に不自由が出たり、意思疎通が取れるかもわかりません。

毎日が辛く、子どもを心から可愛いと思えません

看護師さんや、周りの人たちから「この子はお母さんを選んで生まれてきたんだから」とか「神様は乗り越えられない試練は与えないんだ」などと良く言われます。

言われる度に辛くなります。言えないけど、そんなの選ばれたくなかったし、健康な子が良かったよと思います。

なんで自分の子なんだろう? そう思う度に、子どもに罪はないのにこんなことを考えてしまって申し訳ない気持ちと、自分には荷が重すぎて消えて無くなりたくなります

旦那はなるようにしかならないとしか言いません。考えることから逃げているように思います。自分の親も義両親も口にはしませんが落胆しているのがわかります。

 

大きくなったら一緒に遊んだり、悩んだり、色んな話をしたりしたかった。

正直、義務感で育てています

今は赤ちゃんなのでパッと見わかりにくいですが、これからどんどん違いが顕著になってくるんだと思うと苦しく、周りの健常児の子が羨ましくて仕方ありません。

障がい児とその親、という目で見られるのも苦痛です。

親になる資格や度量がなかったのかもしれません。嫌な親だと思います。でも育てなければならない。どうやったら周りと比べず子どもを心から愛して受け入れられるでしょうか?

幡野さんは質問に答えるとき、息子さんに相談されたと考えて答えるとおっしゃっていますよね。もし、息子さんの子どもが障がいを持って生まれて、一生話が出来ない子だったら、どう思いますか? 悲しいですか? 不幸だと思いますか?

ご気分を悪くされたら申し訳ありません。

このコロナ禍、幡野さんも神経を使う日々と思います。お身体ご自愛下さい。

これからも幡野さんの写真や文章を楽しみにしています。

(匿名希望 30歳 女性)

(写真:iStock.com/chameleonseye)

誰かの求める母親像になろうとしなくていい

あなた正直ですね、本当にすごく正直。正直な人って誰かを傷つけてしまったりするのですが、ぼくはあなたみたいな人が好きです。正直な言葉って人の心を揺さぶりますよね。「神様は乗り越えられない試練は与えないんだ」なんていってしまうなんちゃってキリシタンのごまかしの言葉とは大違いですよ。

試練なんてなけりゃないほどいいし、神様に試練を返品したいっておもいますよね。神様、その試練はありがた迷惑だよ。

なんちゃってキリシタンの頬を殴っても、殴られた頬を手で押さえるだけで、反対の頬をだしてこないだろうっておもうと、本心から神様うんぬんなんておもってなくて、ごまかしの言葉なんだとわかります。

何をごまかしているかというと、その場の空気をごまかしているんですよ。なんちゃってキリシタンからすると気まずいんですよ、なんて声をかけたらいいかわからないから。あなたの気持ちを受け止めているわけじゃなくて、空気をごまかしているだけなんです。香りでごまかす芳香剤みたいなものなんです。

 

悩みは誰かにはなすだけで楽になるなんていうけど、ちょっと誤解しているなってぼくはいつもおもうんです。はなすだけで楽になるのは、正直に本音をはなせたときと、それを否定されなかったときだけなんですよね。ただはなせばいいってもんじゃありません。

あなたのお子さんに対する正直な気持ちって、もうはなせなくなっちゃっているんじゃないですか? 家族にも友人にも医療者にもいえなくて、もしもはなせばそんなこといっちゃダメよっていわれて、あなたが自己嫌悪におちいる無限ループ。

あなたはすでにお子さんの障がいとは別のものに苦しんでますよね。周囲の目と口なんて気にしちゃダメだよ。清廉潔白で聖人君子なマリア様みたいな母親でなければいけないとおもっているんだろうけど、誰かの求める母親像になろうとしなくていいんですよ。それを求めてくる人間が、ごまかしの世界と言葉で生きているんだから。

もし息子の子どもが障がいを持って生まれてきたら

『わたしはダフネ』という6月に公開される予定だったイタリア映画をみたんです(※編集部注:延期され2021年7月に公開)。なんで公開前の映画をぼくがみたのかというと、映画を鑑賞して短いコメントがほしいってお仕事だったんです。そういうコメントって書籍とか映画とかによくあるじゃないですか、あれですあれ。

そういう仕事をしたから書くわけじゃないし、ネタバレもちょっとあるから困る人は鍛え上げた指で素早く次のページまでとばしてほしいのだけど、父親とダウン症の娘が二人で旅をする物語なんです。旅の目的は、急に亡くなってしまった母親のお墓参りです。

父親と娘はきっともともと関係が上手くいってなくて、二人の関係を繋げていたのが母親だったんです。母親が亡くなったことでバラバラになりかけた親子が、悲しみを乗り越えるという共通点で親子関係を再構築するという話です。

 

映画はとても良かったのですが、この映画の主役であるダウン症の娘を演じているのが、本当にダウン症の女性なんです。

映画のなかで彼女は、スーパーで働いて、パソコンやスマホを使いこなし、旅先で出会った人と恋愛話をしたりするんです。もちろんこれは映画ですけど、映画だからこそ台本があって、どういうシーンか把握をして、自分の演じる役柄がそのシーンでどう感じるか類推して演技をするんです。

あまりにも自然で上手い演技をするので、ドキュメンタリー映画や本当の家族なのかと錯覚をするほどでした。もちろんダウン症の程度がおおきく関係しているとおもいますし、ダウン症にたいするぼくの偏見や知識不足があったのだとおもいます。

映画のなかで父親が、旅先で出会った人に「ダウン症は何もできないとおもっていた」と本音をもらすシーンがあるんです、「うまれたばかりのときは、見るものつらかった」ともはなします。

そのあとに、「成長すると母親に似てなんでもできるようになった、私が病気になったときは注射すらしてくれた」とはなし、そのシーンは終わります。とても胸をうつシーンです。もちろん映画のセリフですが、映画のセリフというのはとても練られているので、もしかしたら誰かが体験した正直な言葉なのかもしれません。

お子さんがどんな障がいなのかはわからないけど、ダウン症へのイメージってすこし変わりますよ。イタリアの福祉や教育が大きく関係するとおもうけど、それでもぼくは可能性のようなものを感じましたよ。機会があったらぜひみてください。

(写真:iStock.com/west)

「もし、息子さんの子どもが障がいを持って生まれて、一生話が出来ない子だったら、どう思いますか? 悲しいですか? 不幸だと思いますか?」

ぼくはまったく悲しくはありません。息子夫婦と子どもが不幸だともおもいません。だからといって障がいを持ってうまれたことを喜ばしいことだとも、幸運だともまったくおもいません。

たぶんですけど、男の子がうまれた、女の子がうまれた、障がいのある子がうまれた。ぼくはそれくらいに捉えてしまうような気がします、そう捉えるように努力をするのかもしれません。もしかしたらそれで息子夫婦と子どもを傷つけてしまうかもしれませんが、ぼくはそういう性格の人間です。

そして息子夫婦のメンタルを気にするとおもいます。きっとなんちゃってキリシタンのJ-POPならぬGOD-POP(以下G-POP)な励ましに、苦しんで悩むであろうことが容易に想像ができます。なんで容易に想像ができるかというと、あなたが正直な言葉にしてくれたからですよ。あなたの相談って、まるで映画をみたあとの問いかけに似ています。

 

あなたが健常者の親と比較の目でみられることが苦痛であるように、ぼくとあなたたちの両親を比べる必要もありません。所詮はおなじ立場に置かれていない人間の言葉です。外野だからなんとでもいえるよ。そしてご両親からすれば、そうやって比較されることは苦痛でしょう。

あなたたちの両親が落胆したのであれば、あなたたちに配慮して言葉にしない本音があって、それを誰かにもらせば「神様は乗り越えられない試練は与えないんだ」ってG-POPを奏でられてしまうとおもうんです。

考えかたを上手く整理できればあなたなら大丈夫

ぼくが病気になったときに感じたことなんですけど、現実を受けいれるというのが乗り越えるためのいちばん良い方法だとおもっています。でもこれは医療者からほぼ100%怒られます、怒られる理由も理解ができます。なぜなら病気や困難を受けいれることが苦痛である患者さんがとても多いからです。

コロナの影響だってそうですよね、新型コロナウイルスがある社会を受けいれられる人って、とても少ないんじゃないでしょうか。

ぼくは病気になったときに、とても悲しみました。そして本音を大切にして、正直にいようとおもいました。ごまかしの言葉ではごまかした気持ちしか伝わらないからです。そして後悔や悲観をしても現状が良くなることはないと理解をしました。その上でこれからをどうするか考えました。そうやって受けいれていきました。

 

健常の子どもと比べるのは無意味だとおもいます、それはもちろんあなたも理解しているとおもいます。でもこれって障がいのある子どもだけじゃなくて、健常な子どもだっておなじことですよ。周りと比べようとすることが、苦しめる原因です。比べることが無意味であると、理解をすることが第一歩です。

受けいれるのであればきっと時間がかかるとおもいます。もちろん受けいれられなくたっていいんですよ。

でもあなたならできるんじゃないかとぼくは感じるんです。そうじゃなかったら毎週たくさん届く相談でわざわざあなたの相談を選んでいないとおもいます。考えかたを上手く整理できれば、あなたなら大丈夫だと伝えたかったんだとおもいます。

これもG-POPな励ましと変わらないものかもしれません。もしかしたら余計に苦しめているかもしれません。

 

あなたはいまは子どもを心から可愛いとおもえないし、義務感で育てているのかもしれないけど、「どうやったら周りと比べず子どもを心から愛して受け入れられるでしょうか?」ってこれから愛する方法を模索していますよね。

しかも周囲に期待をしたりするのではなくて、自分が変わろうとしていますよね。ぼくはそこにあなたなら大丈夫であろうという可能性を感じました。でもゆっくりでいいんですよ、あなたもお子さんも人生は長いし、マラソンをフルスピードで走らなくていいとおもうんです。

もうすでに、お子さんを愛しはじめているんだとおもいます。

関連書籍

幡野広志『だいたい人間関係で悩まされる #なんで僕に聞くんだろう。』

甘いだけのアドバイスなんてもう要らない! 厳しかったり、ゆるかったり。突き放したり、抱きしめたり。 ガンなった写真家が、相談者の心のど真ん中を刺してくる! 本気で悩む人の「本当に欲しい言葉」が見つかる、唯一無二の人生相談。

幡野広志『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。』

がんになった写真家になぜかみんな人生相談。毎週必ず話題になる『なんで僕に聞くんだろう。』書籍第2弾。家族のこと、恋愛のこと、将来のこと、病気のこと。みんな“幡野さん”に聞きたがる!

幡野広志『なんで僕に聞くんだろう。』

「家庭ある人の子を産みたい」「親の期待と違う道を歩きたい」「虐待してしまう」「風俗嬢に恋をした」「息子が不登校」「毒親に育てられた」「売春がやめられない」「精神疾患がバレるのが怖い」......。誰にも言えない悩みを、なぜか皆、余命宣告を受けた写真家には打ち明ける。どんな悩みも、軽やかだけど深く、変化球な名言で刺し、包む!異色の人生相談。

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他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう。

多発性骨髄腫という難病で余命宣告を受け、現在も闘病中の写真家、幡野広志さん。そんな幡野さんの人生相談集『なんで僕に聞くんだろう。』は、「cakes」連載時から年間でもっとも読まれた記事に輝くなど、大きな反響を呼びました。今回ご紹介する『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』は、その続編。家族のこと、恋愛のこと、将来のこと、病気のこと……。私たちの背中を押してくれる、幡野さんの優しく力強い言葉を、ぜひ味わってみてください。

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幡野広志 写真家

1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと。」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。

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