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眠れぬ夜のひとりごと

2022.05.15 更新 ツイート

孤独と旅をするように生きる 真木あかり

(写真:iStock.com/cyano66)

ひとりじゃない、とは思えない夜がある

 

「あなたはひとりじゃない」

といった類のフレーズを見ると、考え込んでしまう自分がいる。

深く悩んでいる人に向けて、メディアでしばしば呼びかけられる文章だ。ひとりだと思っているかもしれないけれど、そんなときは友達に悩みを打ち明けてみよう。まわりに頼ってみよう。孤立することなく、解決していこう。そんなふうに促すための呼びかけである。

言いたいことはよく理解できる。社会に生きている限り、完全な孤立というのは逆に難しい。仕事をしていれば相手がいるし、飲食店やコンビニに行けば馴染みの店員さんがいる。精神的に困難になれば、病院に行くこともできる。確かにひとりじゃない。でも、そうじゃないんだといつも思うのだ。

 

もう数年前のことだ。詳しい経緯は省くが、ある方から「真木先生は占い師なのに、どうして不幸なんですか。未来が見えるはずなのに、なんで結婚もしてもらえなくて、孤独で、幸せじゃないんですか」といった言葉をぶつけられたことがある。今なら「占い師は未来は読めても、自在に変えることはできない」「そもそも結婚=幸福ではない」「結婚なら2回もしたぞ、別れたが」などと反応できるのだが──いや、今でもできないだろうか。

 

頭を殴られたようなショックを受けて、やっとの思いで「そうですね、ごめんなさい」とだけ返信し、ノートパソコンを閉じた。椅子に座っていることすらできなくなり、床にへたりこむと涙がおもしろいくらいに溢れてきた。不幸でごめんなさい。頑張ったけど、だめだったの。すごく頑張ったんだけど。論理性のかけらもない言葉ばかりが頭を駆け巡る。

当時の私は尊厳を損われるようなことがいくつか重なり、失意のズンドコ、いやどん底にいた。孤独感に押しつぶされそうだったし、幸せという感覚の大部分を思い出せなくなってから長い時間が経っていた。それでも仕事は頑張れていたが、ここでも否定されてしまったわけである。悪いことというのは、かくも重なるものだ。少し吐いて、うずくまって泣いた。

 

当時はひとり暮らしであり、恋人との関係は破綻していた。ショックだわ孤独だわで誰かに話を聞いて欲しいと思ったが、とんと相手が思いつかない。友達はいるし、1日に複数の人と仕事のやり取りはしている。確かにひとりじゃない。でも、こんなに重たい話をできる相手は浮かばなかった。親しい人ほど、笑って楽しく過ごしていて欲しかった。私の重たい話なんて聞かせるよりも、どう反応したらいいか困惑させるよりも。

 

今なら冷静に判断できるのだが、自分で自分を追い込む発想というものには際限がない。私は友達の悩みなら、夜通しだって話を聞いてあげたいと思う。泣きたいなら泣いて欲しいし、お酒を飲みたいなら一緒に飲む。そんなのはなんでもないのだ。私の友人たちも、そうであると思う。しかしこのときは、「とてもそんなことはさせられない」と思った。確かにひとりじゃない。でも、現実問題として私はひとりなのだった。

深い穴の底で「孤独」と向き合ったら

本というものの優れているところは、個人攻撃をしてこないところである。まあ「作家の××はカス」みたいな過激な内容の本は確かにあり、その方々には気の毒だと思う。ただ、平凡な一市民としてはそうした心配はほぼなく、すっかりニンゲンが怖くなった私は(正確に言えば、前から怖くはあった)、“孤独本”を読み漁った。

書店の一角に「孤独を感じたときに読む本」「孤独をいやす本」的なコーナーがあるのだ。とてもきれいなことが書いてあった。このエッセイが掲載されるのは幻冬舎plusというサイトなので媚びて書くが、幻冬舎新書の『孤独の価値』(森博嗣)や『極上の孤独』(下重暁子)も読んだ。大変勉強になった。

ははあ、孤独は現代人の病理であるが、価値でもあるのだな。それは理解したのだが、現実として私は孤独であり、愛した人に尊厳を傷つけられたり、「孤独で不幸」と言われたりした傷というのは変わらず途方に暮れた。当たり前である。“孤独本”でどうにかなるのは、立ち上がろうとする段階にある人だ。私はまだ暗くて深い穴の底にいた。まずは自分の手と足で這い上がる、話はそれからなのだ。

 

漫画やドラマではこんなとき、よく「突然の訪問者」が登場する。主人公が部屋で呆然としていると、ビールとつまみを手に突然訪問してくる友人(なぜか在宅とわかっている)。ベランダでボーッとしていると、タイミングよくボーッとしているお隣さん(なぜか目が合う)。心配して様子を見に来てくれる同僚(なぜか住所を知っている)。彼らがキーとなって物語は動き始め、主人公は人を信じることや愛を受け取ることを覚え幸せになっていく。私の人生の脚本からはそこがすっぽり抜け落ちているように思った。今なら「相手役はぜひ斎藤工さんで加筆していただきたい。中村倫也さんも入れて欲しい」と思ってしまったりするわけだが、当時は脚本の続きがあることすら信じられなかった。ちなみにダニエル・クレイグでもいい(まだ言うか)。

人生の脚本には必ず続きがある

私の美徳はしぶといことである。長く暗く深い穴の底で過ごしたが、なんとか這い上がって人間的な生活を取り戻した。今は3度目の結婚をして、ひとりではなくなった。過去には「ふたりでいても孤独なら、ひとりでいる孤独のほうがよっぽどましだ」と思って別れたパートナーもいた。しかし今の夫は実に根気強い人で、心に空いた広大な暗い穴を毎日丁寧に埋めていってくれた。「突然の訪問者」はついぞ来ることはなかったが、人生の脚本にはちゃんと続きがあったのだ。

 

今になって思うに、私たちは孤独になるのではない。もともとが孤独なのだ。友達ができたり、人から愛されたりすれば気にならなくなるが、人と一緒にいるから感じる孤独もある。突然嫌われるなど、至近距離から突き飛ばされるような孤独もある。しかし、今孤独な人もいずれ孤独でなくなる日が来るし、逆もまた然りである。自分を振り返っても、今はたまたま孤独でないだけなのだと思う。私たちはみな、孤独な旅の途中にいるのだ。

 

ときどき、私を不幸だと言った方のことを思い出す。大きな悲しみと深い孤独を背負ったその人に、私はなんと言えばよかったのだろう。理屈で否定しても、ひどいじゃないかと声を荒らげても、その人の「真木あかりは不幸だ」という思いは変わらないだろう。孤独の価値を説いても、ただの強がりと受け取られそうだ。

 

「今は孤独で不幸かもしれませんね。でも、幸せになる途中にいるんですよ」──あの当時はとても言えなかったセリフだが、仮に言えたら納得してもらえただろうか。私がその方だったら「そんなの詭弁だ」と言いたくなりそうだ。キレイゴトに過ぎないと。でも、「未来を読める」とされている占い師のセリフとしては、なかなか悪くない気がするのだ。

 

占い師には、これから行く旅路を思い通りにしてあげることはできない。代わりに旅をしてあげることもできない。この旅路の意味や行く手を少し、照らしてあげることができるだけだ。それによってご相談者様が「じゃあ、まあ、ちょっと歩き続けてみるか」という気持ちになってもらえるように、私は日々星を読んでいる。淋しくても大丈夫、と思えるように。大丈夫じゃなくても、大丈夫になっていけるように。かつて私を不幸と言った方も今、どこかで自分らしい、良い旅をしていて欲しいと切に願う。

どうか、それが明るく広やかな、怖くない旅路であるように、とも。

コラムのおまけとして、「孤独」に胸打たれた本を3冊ご紹介します。

ヤマシタトモコ『HER』祥伝社

Case.3のお話がとても良いので、ぜひ読んでいただきたいなと思います。

 

村上春樹『女のいない男たち』文春文庫

「女の不在」を軸として書かれた短編集。私は「木野」という話が一番好きです。

 

中島敦『李陵・山月記』新潮文庫

「山月記」が好きです。失ってからわかること、というものはたくさんありますね。そのときは必死で、臆病な自尊心と尊大な羞恥心をもって。

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コメント

mary  占い師は先が読めても変えることはできない…そうなんだよな…。そしてずっと諦めずに前を、上を見続けることができない時期も当然あるんだよな… 孤独と旅をするように生きる|眠れぬ夜のひとりごと|真木あかり - 幻冬舎plus https://t.co/twTQS6zOAD 7日前 replyretweetfavorite

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真木あかり

大学卒業後、フリーライターを経て占いの道へ。『辛口誕生日事典 2018』『悪魔の12星座占い』(宝島社)など著書多数。LINE占い「チベタン・オラクル」監修。個人鑑定も行っている。

Blog http://makiakari.hatenablog.com/
Twitter @makiakari

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