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月が綺麗ですね 綾の倫敦日記

2021.10.19 更新 ツイート

海外旅行が再開したヨーロッパで、旅行の未来が垣間見えた 鈴木綾

(写真:iStock.com/Baloncici)

結婚ラッシュが始まる年齢になった私は、パンデミックにもかかわらず、友達の結婚式に出るために、この2ヶ月間で3回もイギリスを出て海外旅行している。出入国制限がまだまだかかる日本にのみなさまに言えるのは、パンデミック後の海外は「無理じゃないけど相当大変です!」ってこと。

 

貴重なバーバリーのトレンチコートがダメになった。携帯の充電器に眼鏡、数えきれないくらい失くし物をした。旅慣れている私が、今までの人生で経験したことのなかった「旅行トラウマ」を語ります。

今月に入って入出国制限が大分緩和されたけど、9月末まではイギリスを出入りするたびに少なくとも3回、コロナのPCR検査を受けなければならなかった。

まずはイギリスを出る時、陰性証明が必要だった(旅行先の多くの国が入国の条件として要求している。これがないと空港で搭乗を拒否される)。出発前3日以内の証明が要る。家で自分でできる検査の結果ではダメで、ちゃんとした検査会社の検査でないといけない。これは安くても45ポンド(7,000円)もかかる。

帰りも同様で、陰性証明書が必要。これは先々週からやっと少し緩和された。旅行が短ければイギリス出国前の検査結果で再入国オッケーになった。そうでなければ旅行先でもう一度検査を受けなければいけなかった。旅行先での検査費用はピンからキリまである。ヨーロッパの多くの国では、検査は薬局で20ユーロ(2,600円)で受けられるけど、アメリカの検査は120ドル(13,000円)もかかるらしい。

それから、これは今も変わっていないけど、イギリスを帰ってから二日後にももう一回検査を受ける必要がある。感染率が高い「レッド・リスト」に入っている国からの渡航者は自主隔離+2日目、そして10日目の検査が必要。帰った後の検査もちゃんとしたところで受けなければいけないので、また45ポンドが飛んでいってしまう。痛いー。

7月末から9月末まで、私用も含めて4回海外に行ったけど、旅行の予算に15,000円の検査代がオンされる。コロナ前、週末にでも簡単にヨーロッパのどこでも行ける! というのが冬の暗いイギリスに住む唯一の救いだったが、こういうルールがあると旅行はもう簡単ではない。

空港でコロナ検査やら追加用紙の記入やらでバタバタするので、旅するのがいつも以上、100倍くらいストレスフルになった。その上、旅行運がすごく悪くなった。物を失くしたり、忘れたりした。で、一番大きなトラウマになった旅行事件は、間違いなくバーバリーのトレンチコートの件だった。

パリからイギリスに帰る時だった。早朝のユーロスター(パリとロンドンをつなぐ高速鉄道列車)に乗ろうとしていた。国境を超えるわけだから、駅でパスポートチェックと手荷物のX線検査が必要。X線検査は空港より大雑把で、荷物を入れるプラスチックの箱がない。やむをえずバーバリーのトレンチとカバンをベルトに乗せた。

検査の向こうで待っていていたらトレンチコートがなかなか出てこなかった。検査機器もなぜか止まっていた。そしたら駅の人がコートを持ってきた……。

「申し訳ありません。コートがベルトの間に挟まっちゃって……」

!!!!! 私のバーバリーコートが完全にだめになっていた。ボタンも取れていた。穴も空いていた。本当は泣きたかったけど、あまりのショックで涙も言葉も出なかった。

駅長が駆けつけてきて、私を安心させようと話しかけてきた。

「本当に申し訳ありません。すぐ対応します。こちらへどうぞ」

駅長がズタズタになったコートを撮影し、写真をすぐ顧客サービスに送った。駅長がかわいそうな私のコートを見ている姿に、ようやく涙が出そうになった。

「本当に綺麗なコートですね……本当に残念です……すみません……いいコートなのに」と彼は撮影しながら何度もつぶやいていた。

こんな時におかしいかもしれないけど、フランス人の「ファッションに対する尊敬の念」を実感した。

ユーロスターは損なわれた物の値段の75%まで補償するので、ロンドンに帰ったあと顧客サービスに連絡してください、と駅長が教えてくれた。アップグレードしたビジネスクラスのチケットもくれた。

「本当に小さなものだけど、ビジネスは食事が出るので車内でゆっくりして朝ご飯でも召し上がってください」

20代に一生懸命お金をためて買って5年も大事にしていたトレンチがだめになって本当に悲しかったけど、ユーロスターの対応に感動した。

ロンドンに帰ったあと、直せる可能性があるのか、それとも新しいコートになるのかを確認するためにバーバリーのロンドン本店に行った。バーバリーも顧客サービスが驚くほどよくて、お店の人が私の連絡先や事件の趣旨をメモっている間に別の店員がシャンパンのグラスを持ってきてくれた。

バーバリーから「これは直せない」と言われ、ユーロスターから「ちゃんと75%払います」と確認できたので、新しいトレンチを買うためにもう一度バーバリーの本店に行った。

ブランド店は並んでいる商品の間が空いてれば空いているほど高級感が出る。そう言う意味では、リージェントストリートにあるバーバリー本店は最高に豪華。ショールームまでの長い階段、全てのカバンや洋服は一個一個、一着一着が360度ぐるりと見えるぐらい丁寧に並んでいる。ふわふわなベイジュ色のカーペットが敷いてあって、お店は静か。これこそがラグジャリー。

こんな豪華なお店なお店に入るとやっぱり緊張する。

でもニコニコしている女性店員さんが、すぐシャンパンのグラスとトレンチのスタイルを持ってきてくれた。

鏡の前でトレンチを試着して、「ベルトと後ろで結んでいただけますか。東京の女性たちはみんな後ろで結んでます」と彼女に尋ねたら意外な返事が返ってきた。

「日本語喋れますか?」

彼女は日本のハーフで日本語が喋れた! 彼女は日本人観光客の接客をよくしていたけど、コロナで日本人のお客さんが減って日本語を喋る機会も少なくなったと彼女は話した。ちょっと自慢しちゃうけど、私の日本語の方が彼女の日本語より流暢だった(申し訳ないけど)。

コロナで旅行がすごく大変だったりして、まだ「通常」の生活に戻っていない。でも、こういった触れ合いがあると、希望を持ってもいいと思う。

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月が綺麗ですね 綾の倫敦日記

イギリスに住む30代女性が向き合う社会の矛盾と現実。そして幸福について。

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鈴木綾

1988年生まれ。6年間東京で外資企業に勤務し、MBAを取得。現在はロンドンの投資会社に勤務。2017〜2018年までハフポスト・ジャパンに「これでいいの20代」を連載。日常生活の中で感じている幸せ、悩みや違和感について日々エッセイを執筆。日本語で書いているけど、日本人ではない。

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