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事件でなければ動けません

2021.10.12 公開 ポスト

被害届や告訴はどうやって出すのでしょうか?古野まほろ(小説家)

(写真:Fast&Slow / PIXTA)

「警察は事件にならないと動いてくれない」のは本当なのか? 元警察官の古野まほろさんが、市民最大の〈警察不信〉をひもときながら、警察を動かすツールの使い方や不良警察官への対処法も徹底レクチャーした『事件でなければ動けません 困った警察官のトリセツ』。この画期的危機管理マニュアルの第4章「警察アクセスFAQ」から、試し読みをお届けします。

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被害届とか告訴とかは、こちらが事前に書面にして持ってゆくのでしょうか?

それを否定する権限は警察にはありませんが、現実論として難しいと思われます。 したがって、どうしてもというなら別論、書面にして持ってゆく必要はありません。

そもそも相談の段階においては、「どんな事実があったのか?」「どんな行為が行われたのか?」についての事情聴取をし、時に事情聴取を重ね、市民と警察官が協働して物語・筋・事実を固め、そこで初めて具体的な〈犯罪〉についての検討をするという流れになります(緊急の対応が必要な場合を除きますが)。またこの〈犯罪〉についての検討は、極めて専門的なスキルを必要とするものだ、ということは既に述べました。

これを裏から言えば、相談以前の段階で、市民が〈犯罪〉についての検討をし、その具体的な〈犯罪〉についての被害届を提出したり告訴をしたりするのは、現実論として難しいということになります。

仮に何の〈犯罪〉に該当するかが極めて明確なケースであっても、被害届の様式の埋め方には幾許(いくばく)かのクセがありますし、まして告訴(告訴状)となると、クセがあるどころか専門用語を駆使した極めて人工的な/非日常的な文書としなければなりませんので、普通の市民が作成することはまず不可能です。初めて本格的な確定申告をするとか、初めて本格的な許可申請をするとか、そうした場合と同様、『懸命に勉強してあれこれ調べればどうにか形になるかも知れないが』『勉強や検索でどうにもならない専門的な難関が多く』『基本的には税理士、行政書士等の、少なくともアドバイスが必要』なケースです。この場合の専門家は弁護士ですが。

よって、被害届・告訴については、警察官と協働して事実を詰めてゆく流れの中で、「被害届が出せるのかどうか」「告訴ができるのかどうか」確認する、それも警察官と打ち合わせながら確認する――という流れが、自然で無理がありません。

なお最初から「どうしても被害届を出す」「どうしても告訴する」と考えるのは自由ですし、それは市民の権利とも言えますし、それを警察官に強く訴えることに何の問題もありませんが……ただしその場合も、その可否は警察官の、専門家としての確認と判断によります。仮に不可となったとして、その全てが警察官のサボタージュであり不適正事案であるとは言えません。

加えて、「どうしても告訴する」と決意したときは、実際上、弁護士に告訴状を作成してもらい、弁護士に担当警察官とネゴシエーションしてもらうしかないでしょう。しかし記述(きじゅつ)のとおり、これは非常に難しい問題を(はら)むので、弁護士といえど、告訴状を『一発OK』に持ち込むのはほとんど無理です。要は弁護士に頼んだときでさえ、それなりの時間と費用が掛かる上、成功の確証はありません。

誰かと一緒に相談に行ってもよいものでしょうか?

構いません。実際にも多くの例があります。

厳密に言えば、既に述べましたが、警察庁舎にはいわゆる『庁舎管理権』が働きますから、警察署長等が、警察庁舎に入庁できる者を――行政法上合理的な範囲内で――制限することもできます(だからキチンと受付をして入庁証等を借りなければなりません)。

しかしそれは一般論でして、ならより具体的に、相談に同伴しようとする人が入庁を断られるケースがあるかというと……(はな)から警察の仕事を妨害しようとする意図が明確とかいうなら別論……そんなケースは滅多(めった)にありません。

実際にも、「1人では恐くて警察署になんか行けない」「1人では上手く説明できるかどうか不安」「そもそも当事者は2人です」といった場合は多いでしょうし、相談者のことを心配した親御さん・配偶者の(かた)・恋人の方・親しい御友人等々が、付き添いを買って出る場合もあるでしょう。警察官としても、より正確な情報をより多く獲得すべく、相談しやすい環境/語りやすい雰囲気を作った(ほう)が仕事上プラスになります。よって、そうした方々から相談者に同伴したい(むね)の要望があった場合、無下(むげ)に断る理由はありません。

しかしながら、相談の過程において「どうしても相談者さんだけと話をしたい」「どうしても相談者さんだけと意思確認したい」「相談者さんだけにしか明かせない事情・手法・情報等がある」「相談者さんだけが行うべき手続がある」といった状況は、警察の仕事において自然に発生します。別段、同伴者のことを邪魔に思っていなくとも、仕事の性質上「スミマセン、しばらく席を外していただけませんか?」「スミマセン、ここからは相談者さんと別室で仕事をします」という展開になることは全く自然です。重ねて、それは同伴者のことを信用していないからではありません。警察ではそういう性質の仕事が多い、というだけです。

そうした場合に警察官の指示に従っていただけるのなら、同伴者があっても文句を言う警察官はいないはずです。ただし、そもそも〈事件〉〈犯罪〉に係る機微(きび)な話をする以上、同席する同伴者にあっては、しっかりと身分証で身元確認をされる。これは当然です(庁舎に入庁する段階で確認されるでしょうが……)。

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いざというときのために、一家に一冊。本書『事件でなければ動けません』には、ほかにも役立つFAQが満載です。

関連書籍

古野まほろ『事件でなければ動けません 困った警察官のトリセツ』

困って相談しても、警察は人が死ぬような大きな被害が出るまで対応してくれない――市民のそのような警察不信は根強いが、警察は本当に「事件にならないと動いてくれない」のか? 警察の表も裏も知り尽くした元警察官が、被害者の訴えを無視し続けて悲劇を招いた桶川事件や最近の太宰府事件を検証しながら、その実情を分析する。110番・相談・被害届・告訴など警察を動かすツールの使い方から、不良【ゴンゾウ】警察官にあたってしまったときの対処法まで、被害に泣き寝入りせず身を守るための方法も徹底レクチャー。

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事件でなければ動けません

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古野まほろ 小説家

東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁I種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。警察官僚として法学書等多数。作家として有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事。小説多数。

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