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事件でなければ動けません

2021.10.05 公開 ポスト

市民最大の〈警察不信〉はなぜ生まれるか古野まほろ(小説家)

(写真:iStock.com/TkKurikawa)

「警察は事件にならないと動いてくれない」のは本当なのか? 元警察官の古野まほろさんが、市民最大の〈警察不信〉をひもときながら、警察を動かすツールの使い方や不良警察官への対処法も徹底レクチャーした『事件でなければ動けません 困った警察官のトリセツ』。一家に一冊備えておきたいこの画期的な危機管理マニュアルから、試し読みをお届けします。

*   *   *

最大の〈警察不信〉――事件でなければ動けません

私は元警察官/元警察官僚です。20年弱、警察庁や都道府県警察に奉職(ほうしよく)してきました。そして今現在は、警察と全く無縁の、何の便宜供与(べんぎきようよ)も受けていない一市民です。

したがって、警察官としての常識もあれば、一市民としての常識もあるつもりです。

しかし、その両者を比較するとき、かなりのギャップを感じることが少なくありません。典型的な例を挙げれば、

  • 逮捕されれば無理矢理自白を強要される
  • 取調べでは泣き落としのためカツ丼が出る
  • 予算を確保するために交通切符を切っている
  • 組織的に上級幹部のための裏金を作っている
  • 具体的な事件が発生しないと動かない

等々といったところは、令和3年の大多数の警察官からすれば、あり得ないという意味での〈神話〉ですが、しかし少なからぬ市民からすれば、絶対不変という意味での〈神話〉ではないかと思います。

(略)

警察の側が、はたまた元警察官が、そんなことはあり得ない、〈神話〉だ、誤解で誇張だ―― とどれだけ主張しようが、その主張はあまり生産的ではありません。というのも、ここで問題なのは、それら〈神話〉が()()かあるいは(しん)()かなのではなく、何故市民がそのような〈神話〉を固く信じて疑わないか、なのですから。言い換えれば、何故市民がそのような〈警察不信〉を積年にわたって抱き続けているか、なのですから。

そして、そのような意味での〈警察不信〉のうち、永遠のチャンピオンはやはり、

  • 警察は事件にならないと動いてくれない

という、極めて歴史的かつ確固たる〈神話〉だと考えます。これももちろん、警察からすれば『あり得ない』という意味の神話で、市民からすれば『絶対不変で間違いない』という意味の神話です。

……カツ丼云々(うんぬん)という、いささか冗談交じりの雑学めいた神話に比べて、なんと絶望的な警察不信で、なんと絶望的なコミュニケーション・ギャップでしょうか。税金で警察を運用しているオーナーの側が、「警察は仕事をサボっている」「警察は自分たちを守ってくれない」と、長く、固く信じて疑わないのですから。

そこで本書においては、この

  • 警察は事件にならないと動いてくれない

という市民最大の〈警察不信〉について、

  1. その歴史的経緯や現状を検討しつつ
  2. もし可能であるのなら誤解を解き
  3. 市民と警察のコミュニケーション・ギャップを埋め
  4. 両者の円滑な橋渡しをする

ことを試みます。それが本書の目的です。

本書がこのような目的を設定したのは、

  1. 事件事故の被害に苦しむ市民と警察は、そもそも本質的な『同盟者』なのに
  2. そこに極めて歴史的かつ確固たる〈警察不信〉があるのは、制度・実務として健全でないばかりか
  3. 迅速(じんそく)に救済されるべき被害者とその権利を(ないがし)ろにするという意味で、警察の責務を放棄することだ

と考えるからです。

またここで、先の4.『両者の円滑な橋渡しを試みる』というのは、端的(たんてき)には、市民が警察を頼り、警察を動かそうとするとき、どのようにすれば円滑にゆくかを示すということ。もっと端的(たんてき)には、実務と実例を踏まえた〈警察のトリセツ〉〈警察官のトリセツ〉、時に〈どうしようもない警察/警察官のトリセツ〉を示す、ということでもあります。

(略)

ゆえに本書では、そうした唖然(あぜん)とする個人的経験も御紹介し検討しつつ、では市民は具体的にどうすればよいのかを、解決指向で考えてゆきます。重ねて、市民と警察は本質的な同盟者であり、同じ目的を達成すべき協働者(きようどうしや)だからです。批判は必要ですが、それは解決や目的達成に資するものであるべきです。最終的に必要なのは修理であって、講釈(こうしやく)ではありません。

ゆえに蛇足(だそく)ですが、本書は暴露本でも告発本でもなければ、特定のイデオロギーに立脚した、(タメ)にするプロパガンダでもありません。私は人生のうち20年弱を捧げた警察を愛していますし、本書が警察の問題点を指摘するのは、市民・警察双方の利益のため。まさかその不和のためではありません。世の中には、極めて利己的な党派的信条から、敢えて市民と警察の仲違(なかたが)いを仕掛ける方々もおられますが、私はそのような悪謀(あくぼう)には(くみ)しない(むね)、第一線で今この瞬間も汗に(まみ)れている、敬意を表すべき警察職員のため付言(ふげん)します。
 

それでは――

「事件でなければ動けません」=「何故警察は動いてくれないのか?」を検討し、警察のトリセツを考えるその前提として、まずは警察の現状・警察の実情を見てみましょう。

*   *   *

気になる続きは『事件でなければ動けません 困った警察官のトリセツ』でどうぞ。

関連書籍

古野まほろ『事件でなければ動けません 困った警察官のトリセツ』

困って相談しても、警察は人が死ぬような大きな被害が出るまで対応してくれない――市民のそのような警察不信は根強いが、警察は本当に「事件にならないと動いてくれない」のか? 警察の表も裏も知り尽くした元警察官が、被害者の訴えを無視し続けて悲劇を招いた桶川事件や最近の太宰府事件を検証しながら、その実情を分析する。110番・相談・被害届・告訴など警察を動かすツールの使い方から、不良【ゴンゾウ】警察官にあたってしまったときの対処法まで、被害に泣き寝入りせず身を守るための方法も徹底レクチャー。

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事件でなければ動けません

​困って相談しても、警察は人が死ぬような大きな被害が出るまで対応してくれない――市民のそのような警察不信は根強いが、警察は本当に「事件にならないと動いてくれない」のか? 警察の表も裏も知り尽くした元警察官が、被害者の訴えを無視し続けて悲劇を招いた桶川事件や最近の太宰府事件を検証しながら、その実情を分析する。110番・相談・被害届・告訴など警察を動かすツールの使い方から、不良(ゴンゾウ)警察官にあたってしまったときの対処法まで、被害に泣き寝入りせず身を守るための方法も徹底レクチャー。

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古野まほろ 小説家

東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁I種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。警察官僚として法学書等多数。作家として有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事。小説多数。

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