1. Home
  2. 社会・教養
  3. 27才のルワンダ滞在記
  4. ルワンダのトイレで死にかける

27才のルワンダ滞在記

2021.10.05 更新 ツイート

ルワンダのトイレで死にかける 大石祐助

ぼくはあの日、人間、死ぬときはほんとうに走馬灯を見るのだと知った。

あと一歩のところで、彷徨うことになった広大なアフリカの大地
 

ルワンダに戻ってきて、数週間がたったある日のこと。

朝目覚めると、全身を駆けめぐる強いかゆみに襲われました。ベッドから飛び起き、服をめくると大量のじんましん。

 

幼いころ、たまに出たことがあったので、そこまで驚きはしませんでした。

ルワンダに帰ってきて慌ただしかったから、疲れているのかなくらいに捉えていました。

 

もしくは、よくないものでも食べたのか。

昨晩は、じゃがいものサモサ、ソーセージを入れたトマトのパスタ。そんな変なものを食べた覚えはありません。

 

かゆみも我慢すればなんとかなりそうだったので、そのまま職場へ行くことにしました。

2、3時間、パソコンと向き合っていたのですが、やはりかゆい。まったく集中できないので、昼前に帰宅することに。

 

家に着くと、さすがにここまでじんましんが引かないことに不安を覚え、ググってみます。

すると、じんましんの7割は、原因不明。残りの3割は、ヒスタミン食中毒だとあります。このヒスタミン食中毒は、主に生魚を食べた時に発症するらしく、ときおりソーセージやハムでも罹患するらしいのです。

 

これだ、昨日ソーセージを食べた。

原因が特定できて、ひと安心。夜になれば、さすがに治るはず。

 

ところが、休めど、じんましんは一向に引く気配がない。心なしか熱もでてきた。

まだ夜の6時前だったのですが、もう寝るしかないと思い、ベッドで横になります。

 

とはいえ、かゆくて眠れない。1時間ほど経ち、用を足すためにベッドから立ち上がりました。

 

すると、突如、吐き気と手足の痺れが襲ってきます。

えっ、なにこれ? 早くトイレに行かなければ。しかし、身体が言うことをきかない、目も回る。だんだんと世界から色が抜けて、白くなっていく。

 

早く、トイ……、レ……、に。

 

カラフルな観覧車やメリーランドが見える、家族と一緒に行った遊園地かな。気になるあの子とデートした江ノ島は楽しかったな、LINEを返さないと。オフィスでルワンダの同僚たちが何か話してる、早く行かなきゃ。

 

あれっ? 何してるんだ?

……そうだ、トイレに行こうと思ったら、急にめまいがしたんだ。

いまの映像はなに? まあいい、いまはとにかくトイレにいかないと。

ん? 身体がうごかない。まぶたも上がらない。声もでない。

 

動け、動け、動け。

「うっ」という喘ぎとともに、目を開けることができました。

目の前には洗面台。

洗面所兼トイレに向かう途中で、気を失って倒れていたようなのです。

ここで気を失っていました。いま思い出すだけでも恐ろしい

依然として、手足は痺れ、視界はぼやけ、立ち上がることができません。

さらに、首のうしろが猛烈に痛い。

 

もしかして、マラリア?

この言葉が、頭をよぎります。マラリアは蚊を媒介とする感染症です。

その代表的な症状は、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、嘔吐などです。なかでも熱帯熱マラリアは2日で死に至る病です。

 

もう、パニックです。

いやだ、死にたくない。故郷から離れたアフリカのトイレで死ぬなんて、ぜったいにいやだ。

 

しかし、蚊に刺された覚えはありません。気づいてないだけか……、それとも別の感染症? 十分ありえる。ここは日本ではない、アフリカだ。

 

腸チフス、アメーバ赤痢、アフリカ眠り病、デング熱、エボラ出血熱、それとも新手の感染症か。

未知のウイルスは、まだ数万種類あると聞いたことがある。今まで、こんな症状は経験したことがない。

 

未だ前例のない感染症に運悪く、なってしまったのかもしれない。ゾンビ映画の一人目は、こんな気持ちだったのか。世界初のリアルソンビはいやだ。

 

ゾンビになってたまるかという強い気持ちで、床を這いつくばって、携帯電話を探します。

側から見たら、もうその姿はゾンビそのものです。

 

朦朧とする意識の中で、どうにか首都にあるJICAルワンダ事務所の健康管理員さんに電話をかけます。

健康管理員さんの声を聞いてホッとしたのか、依然として手足の痺れや意識の遠さはあるものの、すこしずつ冷静さを取り戻してきました。

 

今朝のじんましんから失神までの状況を伝えます。

すると、健康管理員さんは「起立性低血圧じゃない?」と一言。「急にルワンダに帰ってきて、疲れているんだよ」と。

あんまりにも落ち着いているので、安心しました。なんだ、ただの立ちくらみと疲れか。マラリアでも、新種の感染症でもなかったんだ。

 

客観的に自分の置かれていた状況を見直すと、標高が1500メートルを超える高地での生活、食生活の急激な変化、毎日とびかう現地語へのストレス、活動への焦り、そして急に立ち上がったこと。

じんましんになるのも、起立性低血圧になるのも、いまなら頷けます。

決死の思いでかけた携帯電話。健康管理員さん、本当にありがとう。あなたに声に救われました

次の日はすっかり元気に。生きて、今日を迎えられてよかった。

ゾンビになって永遠にアフリカの大地をさまようことにならなくて、ほんとうによかった。

{ この記事をシェアする }

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP