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歴史作家の城めぐり〈増補改訂版〉

2021.07.30 更新 ツイート

第1回

天守のない土だけの城に、なぜこんなに魅せられるのか 伊東潤

気鋭の歴史作家として人気を集める伊東潤さんが、自身の作品の舞台となった関東甲信の47の名城の魅力を余すところなく紹介した『歴史作家の城めぐり〈増補改訂版〉』。各城の悲喜こもごものエピソードや英傑たちと秘話逸話のほか、それぞれの城の設計構想などの情報も臨場感豊かに解説した本書の試し読みをお届けします。

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城とは何か

皆さんは城というと、どのようなイメージをお持ちですか。一般の方は、大坂城、姫路城、熊本城のような石垣造りの天守台の上に載った大天守を思い浮かべるのではないでしょうか。もちろん天守も城の構成要素の一つです。ただし厳密には城の一部なのです。

つい数年前まで、大多数の方が城といえば天守だと思い込んでいました。

現に十五年ほど前、初めて八王子城に行った時、高尾駅で八王子城跡行きのバス乗り場はどこか聞いたところ、駅員さんに「八王子に城はありません」と断言されました。

それ以前の城跡に対する認識は、もっとひどかったと思われます。日本に三万以上あったと言われる城跡の多くは、昭和の高度成長期に壊されてしまいました。当時は歴史的遺物の保存など、官民共に歯牙(しが)にも掛けていなかったからです。それゆえろくな調査もせずに、多くの遺構が消滅しました。その中には、縄張り(城の設計構想)が永遠の謎になってしまった城もあります。

玉縄城(清泉女学院中学高等学校『玉縄城址』1961年刊より)

例えば玉縄城ですが、この城には昭和三十五年(一九六〇)の空撮写真があります。それを見ると、この時は、ほぼ完存状態でした。ところが、そこに学校を作ってしまったため、遺構のほとんどが破壊されてしまったのです。これは学校が悪いわけではなく、当時の日本人の遺構保存意識がなかったために起こってしまった悲劇なのです。

こうした背景を踏まえ、まずは城の基本知識を整理していきましょう。

城が築かれた時代とその目的

城とは、いつ築かれたのでしょうか。

狭義の城とは、「敵を防ぐために土を盛って造った土木構築物」となります。その定義に従えば、弥生時代の環濠(かんごう)集落も城と呼べるでしょう。

鎌倉時代末期から室町時代にかけても、城らしきものを拠点として戦ったという記録はありますし、幕末でも長岡城・会津城・松前城・五稜郭などを舞台にした激しい攻防戦がありました。明治時代に入ってからも、熊本城や人吉城を舞台にした近代戦が行われています。

それでも戦国時代の城郭攻防戦の数には敵いません。国内三万余と言われる城の大半が造られたのも、室町時代末期から江戸時代初期にかけてです。

その長い築城史の中で、太田道灌(どうかん)・馬場信春(のぶはる)・藤堂高虎・加藤清正といった城取り(築城家)の名人も現れました。

それでは、彼らが全知全能をめぐらし、城を造った目的とは何だったのでしょう。

「敵を防ぐためだろう」とお考えの方が大半だと思いますが、実は、城の用途は多岐にわたります。

ざっと思いつくだけでも、防衛拠点、侵略拠点、監視所、狼煙場、交通遮断拠点、補給基地、宿泊施設、関所、船舶停泊地などがあります。しかも、これらの役割が一つだけ課されているわけではなく、複数の役割を課されている城もあるのです。

城の魅力とは何か?

城の魅力を語るのは容易ではありません。大半の方が、「天守のない城なんて、どこに魅力があるのか」とお思いかもしれません。しかし最近では、多くの方が天守のない土だけの城に詰めかけています。なぜなのでしょう。

そんな好事家の話を総合すると、遺構を見て戦国時代の人々の息吹(いぶき)を身近に感じられることが魅力のようです。

わたしの場合は、四百年以上の歳月を隔てているにもかかわらず、そこに人の意志が感じられる点に魅かれます。なぜここに堀切(尾根筋を断ち切る堀)や竪堀(たてぼり 山の斜面に対し縦方向に掘られている堀)を入れているのか。土塁や馬出(城の出入口を守る小曲輪)を築く必要があったのか。そうした築城者の意図が、遺構を見るだけで伝わってくるところに強く魅かれるのです。

また城というのは、自然地形と妥協しながら造っていくものなので、一つとして同じものがありません(平地に築かれる方形居館(ほうけいきょかん)は別ですが)。

さらに経済力や駆り出せる労働力との兼ね合いもあるので、それらを考えて造ることになります。こうした限られた条件下で、いかに効果的な防御構造を追求していくかという苦心の痕跡(こんせき)を見るのが面白いのです。

*   *   *

本書で紹介するのは、以下の47城です。歴史作家ならではの城郭ガイドをどうぞお楽しみください。

【東京都】滝山城/石神井城/江戸城/浄福寺城
【神奈川県】小田原城/玉縄城/津久井城/三崎城/石垣山城/小机城
【埼玉県】松山城/菅谷城/杉山城/忍城/岩付城
【千葉県】国府台城/佐倉城/臼井城/本佐倉城/関宿城
【群馬県】岩櫃城/太田金山城/松井田城/沼田城
【栃木県】唐沢山城/祇園城/宇都宮城/足利氏館
【茨城県】逆井城/額田城/小幡城/石神城
【山梨県】新府城/躑躅ヶ崎館/岩殿城/若神子城
【長野県】高遠城/上田城/大島城/旭山城/戸石城
【静岡県】諏訪原城/下田城/興国寺城/丸子城/田中城/山中城

伊東潤『歴史作家の城めぐり〈増補改訂版〉』

気鋭の歴史作家として人気を集める著者が、自身の作品の舞台となった関東甲信の四七の名城の魅力を、余すところなく紹介。歴史作家ならではの視点で綴る各城の悲喜交々(こもごも)のエピソードはもちろん、北条早雲・武田信玄・真田昌幸・徳川家康などの英傑と各城との秘話逸話も読み応え十分。また、それぞれの城の攻防戦や縄張り(城の設計構想)などの情報も、イラストや写真を交えて臨場感豊かにわかりやすく解説。読めば必ず現地を訪れたくなる、もう一度行きたくなること請け合いの城郭ガイドの決定版!

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歴史作家の城めぐり〈増補改訂版〉

気鋭の歴史作家として人気を集める伊東潤さんが、自身の作品の舞台となった関東甲信の47の名城の魅力を余すところなく紹介した『歴史作家の城めぐり〈増補改訂版〉』。各城の悲喜こもごものエピソードや英傑たちと秘話逸話のほか、それぞれの城の設計構想などの情報も臨場感豊かに解説した本書の試し読みをお届けします。

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伊東潤

1960年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業。『黒南風の海 加藤清正「文禄・慶長の役」異聞』で「第1回本屋が選ぶ時代小説大賞」を、『国を蹴った男』で「第34回吉川英治文学新人賞」を、『巨鯨の海』で「第4回山田風太郎賞」を、『峠越え』で「第20回中山義秀文学賞」を、『義烈千秋 天狗党西へ』で「第2回歴史時代作家クラブ賞(作品賞)」を受賞。近刊に『潮待ちの宿』がある。

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