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認知症・行方不明者1万人の衝撃

2021.07.06 更新 ツイート

自宅から500メートルの場所で凍死した76歳男性…これが認知症のリアルだ NHK「認知症・行方不明者1万人」取材班

日本人にとって、国民的な病のひとつとなっている認知症。2014年の放送後、たちまち大反響を呼んだ「認知症行方不明者1万人~知られざる徘徊の実態~」(NHKスペシャル)を書籍化した『認知症・行方不明者1万人の衝撃』は、認知症を原因とする徘徊、失踪の問題に深くメスを入れたノンフィクションだ。超高齢社会を迎えたいま、誰もが当事者になりうるこの問題。本書を読んで、その実態と解決策をぜひ知っていただきたいと思う。

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ほんの少し目を離した間に……

亡くなった男性の名前は、吉澤賢三さん、当時七六歳。死亡する半年ほど前から、認知症を患っていた。

(写真:iStock.com/sh22)

賢三さんが家から行方不明になったのは、二〇一二年三月二六日の午後六時過ぎ。家族がほんの少し目を離した間の出来事だった

四九年にわたって連れ添ってきた妻のマユミさんは、そのとき、一五分ほど一階の部屋に降りていた。二階のリビングに戻ると夫の姿は、そこにはなかった。

「主人がいなくなったことは、すぐに分かったので、慌てて外に飛び出していきました。いつもは、家を出てすぐ右側の道を歩いていくので、その先を捜せば見つかるのですが、この日は、なぜか、いませんでした。ただ、行方不明になるのは初めてではなく、以前は見つかっていたので、死ぬなんて本当に思いもよりませんでした

賢三さんに認知症の症状が出始めたのは、肺炎のために入院していた病院を退院し、体が元気に動くようになってからだった。徘徊の症状は頻繁に出ていて、夕方になると、ほぼ毎日、外出しようとしていたという。

現役時代、賢三さんは、幼稚園の送迎バスを運転する仕事をしていた。そのため、窓から道路を走るバスを見ると「俺のバスだ。運転しなければいけない」と言って出かけようとするため、マユミさんは、止めるのが大変だった。

行方が分からなくなってしまったことも二回あったが、すぐに無事発見された。それで、今回も大丈夫だろうと最初は考えていた。

「毎日が地獄だった」と語る家族

しかし、前向きな情報は一つもなく、行方はつかめないままだった。

(写真:iStock.com/Hiroyuki)

マユミさんは、次第に夜も眠れなくなり、睡眠薬を飲んでソファーでうたた寝をする、苦しい日々を送っていた。

本当にもう毎日が地獄という感じでした。このまま見つからなかったらどうしようという思いと、必ず見つかるという思いが錯綜して。こんな別れ方をしなきゃいけないなんて、どうしてなんだろうと思ったりもして……。ただもう、早く見つかる、早く見つけたいということだけでした」

裕子さんも、あきらめそうになりながら、一縷の望みを捨てられずにいた。

「こんなに捜しているのに、どうして見つからないんだろうって思いました。とにかく一生懸命思いつく所を考えて、一度捜した所をまた……。見過ごしたかもしれないって思いながら、何度も何度も捜していました。

自分を責める気持ちも、すごくあったんですけど、やっぱり一番つらくて自分を責めているのは、母でしたので、私はそれを口にすることはできませんでした。数日経って、もうだめかもと思いましたが、やはりまだどこかで生きているかもと思う気持ちを抑えることはできませんでした

賢三さんは、認知症以外に、以前から患っている持病の薬を定期的に飲んでいて、その薬の効果が切れると声を上げたり動いたりすることが困難になってしまう。このため、行方不明になって数日経てば、生存の可能性は非常に低くなる。そのことを家族は頭では理解していた。

それでも、どこかで助けられ命をつないでいるのではないか。そう思い、先の見えない日々が続いていた。

行方不明から三週間後の四月一六日。警察から賢三さんとみられる遺体が発見されたと電話がかかってきた

霊安室に向かったマユミさんは、「遺体のいたみが激しいから会わないほうがいいのでは」と警察官に止められた。しかし、やはり一目でもと思い、顔を見せてもらった。一瞬で、すぐに賢三さんだと分かった。時計とサンダルからも本人だと確認できた。

マユミさんの目からは、いつの間にか涙があふれていた。

「ただただ残念で、どうしてこんなふうになってしまったんだろうって。本当に泣けるだけで、何も考えられずに、とにかくなぜ亡くなってしまったんだろうと。なぜ見つけてあげられなかったのか。そんな気持ちでいっぱいでした」

賢三さんが、倒れていたのは、自宅から五〇〇メートルほど離れた所にある民家の敷地だった。川沿いの場所にあり、道路を隔てるものはなかったため、迷い込んでしまったとみられている。

雑草がおいしげっていて、周囲から死角になっており、住人も普段立ち入らない所だったため分からず、屋根を修理に来た職人が、人が倒れていることに気づいたのだった。

検視の結果は「凍死」だった。娘の裕子さんは、その民家の前の道路を捜していたことをはっきりと覚えていた。

「やっと会えたと思いながらも、もっと早く見つけてあげられなくて、本当にごめんねって、言いました」

関連書籍

NHK「認知症・行方不明者1万人」取材班『認知症・行方不明者1万人の衝撃 失われた人生・家族の苦悩』

認知症による徘徊などで家を出て、 そのまま戻れず行方不明になる人が、年間1万人もいた! 悲劇はすぐそこで起きていた。 社会を動かした「NHKスペシャル」待望の書籍化。 放送をきっかけに、認知症で身元不明の女性が約7年ぶりに家族と再会。 国や自治体が対策に着手するなど、社会を動かしたNHKスペシャル「“認知症800万人”時代 行方不明者1万人〜知られざる徘徊の実態〜」を書籍化。2014年菊池寛賞受賞番組。 日本人にとって、国民的な病のひとつとなっている認知症。今や65歳以上の4人に1人が、認知症とその予備軍だ。また、認知症やその疑いがあり、徘徊などで行方不明になった人は年間およそ1万人となる。 本書では、認知症による徘徊で行方不明となっている肉親を捜し続ける家族の苦しみや、身元を確認する仕組みの課題などについて取材。 超高齢社会に突入した日本で、誰もが当事者となり得る問題について、警察・自治体・家族への膨大なアンケートから分かった知られざる実態と解決策を提示する一冊。 認知症の人を介護する家族に向けて、医療・介護の専門家が教える認知症ケアのポイントも丁寧に解説。

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認知症・行方不明者1万人の衝撃

日本人にとって、国民的な病のひとつとなっている認知症。放送後、たちまち大反響を呼んだ「認知症行方不明者1万人~知られざる徘徊の実態~」(NHKスペシャル)を書籍化した『認知症・行方不明者1万人の衝撃』は、認知症を原因とする徘徊、失踪の問題に深くメスを入れたノンフィクションだ。超高齢社会を迎えたいま、誰もが当事者になりうるこの問題。本書を読んで、その実態と解決策をぜひ知っていただきたいと思う。

バックナンバー

NHK「認知症・行方不明者1万人」取材班

放送後、たちまち大きな反響を呼んだ、NHKスペシャル『認知症行方不明者1万人~知られざる徘徊の実態~』を制作。2014年、菊地寛賞受賞。

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