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フィンランドで暮らしてみた

2021.06.04 更新 ツイート

フィンランドの元気なご長寿さんたち 芹澤桂

日本は言わずと知れた長寿大国だけれど、フィンランドのお年寄りもまた元気だ。

まず、フィンランドでは子供が18歳前後で独り立ちする。学生のうちは資金が乏しくとも友達や恋人とルームシェアするので、親と住み続けるという選択はほぼないに近い。もし成人以降も親と同居していると言えば何か事情があるんだなと察してもらえ周りが黙る、そのぐらいのインパクトがある。

 

それゆえ親も子供に老後の面倒を見てもらおうなどとは考えず、貯金と年金とをやりくりして定年退職後も自立し続けられる。離婚家庭が多いフィンランドでは高齢男性の一人暮らしも多いが、家事ができないのを理由に家族の誰かに同居を迫るなどということもない。男性も女性も、簡単なものでも料理し家計をやりくりし自立しているのである。

たくましいお年寄りたち

例えば我が家の隣に一人で住む足の悪いおじいさんは、家事が困難なので週に数回市のサポートにより無料のクリーナーが派遣されてきて、食事も週2で配達が来る。毎週週末になると車で1時間ほど離れたところに住んでいる息子さんかお嬢さんが会いに来ているけれど、それ以外は一人。雪かきや落ち葉かきは我が家がついでにやってしまうし、高齢者施設に入るよりも自分の慣れ親しんだ家の方でできるだけ長く暮らそうとしているのがよくわかる。

行政の手続きも社会保障番号やそれに紐づくネットバンクアカウントで済んでしまうので、お年寄りが役所に何時間も並ぶこともなければ、なんならみんな自治体のパソコン講座に通ったりしてネットを使いこなしている。自治体主催の無料もしくは低額の各種講座があるのもこの国のすごいところで、社会人はもちろん、定年退職した人も語学やIT、趣味など幅広く学んでいる。

例えば我が義父はいまだにスマートフォンを持たず古い携帯電話を好んで使っているけれど、それは彼が機械に弱いのではなく、最新式のiPadを使っており電子新聞の購読も検索もできるからスマホはいらない、というだけだ。

そんなフィンランドのたくましいお年寄りたちの中でもひときわ異彩を放っている、もとい、多才な方を今日は紹介したい。とはいっても有名人ではなく、一般の方である。

フラフープおじいさん

ケイヨ・ペンッティネンさん72歳。

彼について何から説明すればいいのかわからない。定年退職する以前は、市立病院の施設員をしていたそうだ。その傍ら、アコーディオン奏者としても活躍し、しばしばステージに立っている現役のミュージシャンでもある。

その他にも油絵が趣味で、特に月をモチーフにしたフィンランドの風景画がとても美しく、彼の家に遊びに行くと壁に飾られたその絵たちに私はいつも見とれてしまう。

ひょんなことで知り合ったケイヨさんだが、初めてご自宅に遊びに行った際、まずアコーディオンの腕前を披露しリクエストまで募ってくれ、それから自身の絵と、地下にあるアトリエを見せてくれたのをよく覚えている。

ミュージシャンで絵も描ける、それに体も鍛えており今も日課の散歩と筋トレは欠かさないと聞いてそんなスーパー人間がいるのか、と驚いたものだ。

しかしそのあとだった。彼のさらなる能力が発揮されたのは。

ご自宅でお茶をごちそうになりくつろいでいると、彼はおもむろに大きなわっかを数本、どこからか取り出してきた。フラフープである。

フラフープにお目にかかるのは小学校以来で最初は何かわからなかったぐらいなのに、ケイヨさんはいきなり居間でそれを回し始め、お茶のお替りを出すかのようにこちらにも勧めてきた。聞くと毎日庭で、居間で、練習しているという。あるときは6時間もフラフープをしていたというから、よくそんなに飽きないねぇと驚くと、飽きないんじゃなく落ちないから回し続けただけ、と事も無げに言ってのける。

つまり、何時間も練習していたというだけじゃなく、一度もフラフープを落とさずに回し続けていたのだ。もちろん回しながら話したり歩いたりはもちろん、水を飲む、などもできる。

それも彼のフラフープを回す姿を見ると納得がいく。初心者と違って上半身は動かず、急ぎもせず、本人のお人柄そのものになんとも穏やかに回しているのだ。これについては地元新聞が取材に来た際の動画が残っている。

ギネス申請中

一度なんて、通りに面した庭でパートナーと2人して歩きながらフラフープをしていたら、パトカーが不審がって停車し見物していったこともあるという。

その後、会うたびに「この前は7時間」「8時間」と自己記録を更新し続けるものだから、これはただことじゃないぞ、と本人に勧めてギネス世界記録への登録申請を出しているところである。しかしギネスの審査は時間がかかり、そうこうしているうちについに10時間超えをも記録してしまった。

今はフラフープを回しながらアコーディオンを弾く練習もしているのだそうだ。

フィンランドには、と大きくくくってしまうと語弊があるけれど、私の周りには、こんなユニークな人々が少なくない。

次回もそんな方々を紹介出来たらと思う。

(フラフープおじいさん。フラフープしながらアコーディオン)
(記事にもなる)
(CDも出している)

(ケイヨさんの作品たち)

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芹澤桂 小説家

1983年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。2008年「ファディダディ・ストーカーズ」にて第2回パピルス新人賞特別賞を受賞しデビュー。ヘルシンキ在住。

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