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ツレ&貂々のコドモ大人化プロジェクト

2012.09.01 公開 ポスト

その83

夏の「青春」親子ふたたび望月昭/細川貂々

 幼稚園が「なつやすみ」になり、生活のリズムが夏休みモードになってしまった。僕も毎日幼稚園に送り迎えしていたのがなくなり、送り迎えだけで万歩計の数字が一万歩あったものが皆無になってしまったので、運動不足を補うため夕方にウォーキングをする毎日だ。
 僕らは熱帯の生物であるイグアナと同居していたので、エアコンを使う習慣がない。それでも、今はイグアナもおらず、関西の夏はべらぼうに暑いので、体温を越えるような暑い日は、エアコンのスイッチを入れてしまう。息子はエアコンの効いた部屋でテレビを見ている。なんだかイン・ドアでいかんなと思う。
 週に二回は、電車に乗って外出する。
 また、この夏は三回首都圏に移動しなければならない必要が生じてしまった。
 昨年、この時期に亡くなった相棒の「かあちゃん」の、一周忌の初盆と命日である。それぞれが一週間ずつ、その間に二週間は関西に戻るという生活になっている。
 この移動は、全部「青春18きっぷ」を利用した。
 新幹線だと、エアコンがきつすぎる、息子がじっとしていられない、などの問題があるのだが、普通電車のみの乗車で最低でも10時間はかかる「青春18きっぷ」の利用もまた、苦行のようだ。相棒は二回参加したが、それぞれ戻りのときは途中で抜け、三回目には自分だけ飛行機で先回りしてしまった。
 普通電車が大好きな僕と息子も、延々と東海道線に乗るのは既に飽き、時間がかかっても中央線を利用したり、天竜浜名湖鉄道や御殿場線などを使って一部迂回して見聞を広めたりもしている。浜名湖周辺ではウナギを食べたりもした。
「ウナギ、ひろしまでもたべました」
 と息子は言うが、あれはアナゴである。浜名湖のウナギは、たいそう脂が乗っていて、コッテリしていた。息子がウナギを喜ぶので、この夏ウナギを何度も食べた。僕は、胆石症ゆえに禁じられていたウナギを三回食べてなんともなかったのだが、四回目食べた後の就寝時から、胆石で痛んでいた部位がしくしくと「予感めいた」痛みを覚えたので、これはしまったと反省している。反省はするが、ウナギ、美味いよね。

 そういえば、昨年の夏も「青春18きっぷ」を利用した。昨年は一枚買って、首都圏に二度行き、関西への戻りは新幹線。あとは琵琶湖の周りをぐるぐる回ったり、福知山線を使って兵庫の北部に行ったりした。でも昨年の息子は、トイレはまだオムツ。移動の際にもベビーカー必携で、乗り換えにはしばしばエレベーターを使用していた。そういう意味では、今年も一緒に移動しているリクガメ「松井君」に近い存在だった。常に僕が抱えて移動させるような状態。
 一年前と比べると、息子は同行者的存在になっている。乗り換えのときにトイレに行き、車中でもトイレに行って、そのせいで座席を他の乗客に明け渡したりすることもあるのだが。駅での乗り換えもエスカレーター。目を離すとどこかに行ってしまって、お土産物売り場の鉄道グッズのところにへばりついているのを発見したりすることもある。途中で勝手に計画を変える主張をすることもあるが、そういうのに従うのが面白いときもある。
 天竜浜名湖鉄道に乗ったときは「転車台見学ツアー」なるものに参加したいと息子が言い出したので、調べて、間に合うように列車を乗り継いで行った。息子と同じような「子鉄」(ちびっこ鉄道マニアの意だ)を従えたパパママたちが大勢いて、なかなか楽しかった。
 もっとも、「青春18きっぷ」で移動しているときに、その乗車券のルールを逸脱するような提案は困り者だ。中央線経由のときにはしばしば、特急「あずさ」や「スーパーあずさ」を見かけるたび「あずさ2ごうにのりたい」と主張するのでウンザリした。小海線や飯田線に乗り換えたいとも主張したが、それをやったら最後、その日のうちには関西に戻れなくなるので、そこもぐっと我慢させた。
 息子は自分の主張が通らないと、ちょっと小ばかにしたような声色で。
「ふん、ふーん、パパ、パパなんてキライ」
 と言ったりする。キライでけっこう。
 食事は駅弁。主に寿司かオイナリ。あとはミニスナック菓子を用意して、乗り換えのときに食べさせたりする。列車の中での飲み食いは基本的にしない。いや、新幹線のような長距離列車のときはするのだが。青春旅のときは普通列車なのでよほど空いていない限りはしないようにしている。

 飲み食いといえば、夏場の息子の食欲低下ぶりには泣かされる。列車に乗っているときも旺盛な食欲とは言えないが、ふだんの生活の食べなさぶりに困っている。暑くて食べないのだろうとは思うのだが、エアコンで涼しくしても食欲が出るわけでもない。
 それでも、昨年と異なって「かしわ(鶏肉)のカラアゲ」が好物になり、自分でもそれが好きだという認識を持っているようで、炊いたゴハンとカラアゲを用意すれば、三回に二回は食べてくれる。あとは変わらずカレーライス。ニンジンなどの野菜をすりおろして作っている。これは三回に一回くらいしか満足には食べない。その他、前述の「ウナギ」様の、甘いタレを絡ませて焼いた魚。ウナギやアナゴ、関西だとハモの照り焼きもある。これも新しい好物だ。しかし食が進むかどうかは状況による。
 幼稚園からは「お箸をまだ上手に使えませんね。夏休みに練習してください」と言われているのだが、そもそも食欲がないので、箸を持ちたいという気持ちからも遠いところにいて、それが適わない。もう二つ宿題があって「ハサミも上手に使えるよう練習してください」「ピアニカの練習をしてください」どれも興味を持たせられず、なかなかそちらに向かわせることができない。夏休みの宿題がちゃんとできないコになっている。

 しかし、それにしても「なつやすみ」は長い。8月の終わりに二日間だけ「とうえんび」があって、そのとき8月生まれのコの「おたんじょうかい」をしたりするのだが、それが終わるとまた半月お休みだ。幼稚園が再び始まるのは9月の二週目。実質的には三週目からスタートだ。これから毎年、息子には「なつやすみ」がある。小学校に上がっても中学校に上がっても、おそらく高校に行ってもたっぷりの「夏休み」があるのだろう。自分を省みて思えば、大学生のときの夏休みも長かった。親としては、きちんとした生活をしている日常的な期間の他に、この「なつやすみ」「夏休み」が訪れてくるのと向き合わなくてはならないのだ。日常を送っている大人にとっては、これもなかなか脅威である。

 それでも息子はこの「なつやすみ」の間に、ふだんの日常ではできないような経験を積んで、自分の中になにかを育んでいるのだろう。大好きな鉄道にもたっぷり乗った。「とうかいどうせん」「ちゅうおうほんせん」「たかさきせん」「ちちぶせん」の駅名を幾つも覚えた。夏だけで靴を一足履きつぶした。あちこちで「ウナギ」「カラアゲ」を食べた。「とうえんび」に他のコと並んでいるのを見たが、どのコもよく日焼けしていて、そしてうちの息子も同じように日焼けしていた。「なつやすみ」を満喫しているコドモに見えた。 

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ツレ&貂々のコドモ大人化プロジェクト

『ツレがうつになりまして。』で人気の漫画家の細川貂々さんとツレの望月昭さんのところに子どもが産まれました。望月さんは、うつ病の療養生活のころとは一転、日々が慌しくなってきたのです。40歳を過ぎて始まった男の子育て業をご覧ください。

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望月昭/細川貂々

望月 昭
1964年生まれ。幼少期をヨーロッパで過ごし、小学校入学時に帰国。セツ・モードセミナーで細川貂々と出会う。 卒業後、外資系IT企業で活躍するも、ある日突然うつになり、闘病生活に入る。2006年12月に寛解。現在は、家事、育児を一手に引き受ける。著書に『こんなツレでごめんなさい。』(文藝春秋)がある。

細川貂々
1969年生まれ。セツ・モードセミナー卒業後、漫画家、イラストレーターとして活動。夫のうつ闘病生活を描いた『ツレがうつになりまして。』がベストセラーに。結婚12年目にして妊娠が発覚。現在は、夫と息子、ペットのイグアナたちと同居中。その他の著書に『その後のツレがうつになりまして。』『イグアナの嫁』(共に小社刊)『どーすんの?私』『びっくり妊娠なんとか出産』(共に小学館)など多数。

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