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もう親を捨てるしかない

2021.02.28 更新 ツイート

「世帯分離」で介護による親子共倒れを防ぐ 島田裕巳

超長寿国、日本。人生100年時代と言われて久しいですが、その分高齢化も進み、お金・介護・認知症などの問題はより深刻になってきています。現代において子は、介護という地獄を受け入れるほどの恩を親から受けていると言えるのでしょうか。宗教学者で作家の島田裕巳さんによる幻冬舎新書『もう親を捨てるしかない 介護・葬式・遺産は、要らない』より、本音でラクになる生き方「親捨て」について、一部を抜粋してご紹介します。

*   *   *

「世帯の分離」で介護費用や保険料が安くなることも

介護は実に大変なことである。

赤ん坊を育てる育児も大変で、親はそれにかかりきりになるが、赤ん坊の場合には、成長するにしたがって、世話は楽になる。何より、子どもの成長に喜びを感じることができる。

ところが、介護となれば、年を重ねるにつれて、世話はしだいに増えていく。認知症が重くなれば、介護する人間の生活は完全に振り回される。徘徊などということも起こる。しかも、介護される側が回復し、もとに戻ることは期待できない。

介護にすべてを費やせば、仕事などしていられないし、まともな生活は送れない。仕事がなくなれば、生活は困窮し、多くの人間たちがするように、死を選ぶしかなくなっていく。

高齢者の増加と、国の在宅介護の方針は、そうしたケースを、今後さらに増やしていくことにつながる。国がその方針で臨まないにしても、現実は確実にそちらの方向にむかっている。そこには、絶望的な状況があるだけである。

(写真はイメージです:iStock.com/Orthosie)

では、介護殺人に至らないためにはどうしたらいいのだろうか。

究極的には前回も述べたように、親を捨てることである。

そんなことを言い出せば、「人非人」であるという非難を覚悟しなければならない。

たしかに、介護が必要になった親を捨てるなどという行為は、相当に残虐なことであるように思える。

介護殺人に至った人々の場合も、介護を必要とする親が邪魔になったから殺したわけではない。

殺したくはないが、状況があまりに過酷で、生活が成り立たなくなり、精神的に追い込まれていったからこそ、やむを得ず親を殺し、その罪を背負うために自分も死のうとしたのである。

しかし、親を捨てていれば、介護殺人に至ることはない。親も人生の最後に殺されることはないし、それまで前科のいっさいない子どもが殺人者になることもないのだ。

たとえ、温情判決が出て、刑務所行きは免れたとしても、自分の親を手にかけたという事実は消えない。人生の最後まで、それを背負っていかなければならない。

ならば、親を捨てた方がいい。親もまた、捨てられることを覚悟すべきではないだろうか。

 

現実には、親捨てに近いことは行われている。

それが「世帯分離」という方法である。

世帯分離とは、親と子どもが同居していても、それぞれの世帯に分けることである。

これは主に、介護費用や保険料を節約するために行われている、一種の「裏ワザ」である。

 

世帯分離と聞くと、同居していた親と子どもが別居することになると思われるかもしれない。

ところが、一緒に住むということと、法的に世帯を同じくするということとは違う。それは、赤の他人が同居して住むシェアハウスのことを考えてみればいい。同居人ではあっても、同じ世帯になるわけではない。

したがって、世帯分離は、住民票上のことで、親の世帯と子どもの世帯とを分けるのだ。そうなると、介護サービスなどを受けている場合に、負担する額が大幅に減ってきたりする。子どもの収入が加算されなくなるからだ。

ただ、これはあくまで裏ワザであり、また、住民票上は世帯を分離しても、親子の同居は続くわけで、実際に親を捨てるというわけではない。

生活保護を受けるため、住居も分ける場合も

しかし、この世帯分離が、書類上のものではなく、現実のものとなる場合がある。

それは、2015年8月30日に放送されたNHKスペシャル「老人漂流社会──親子共倒れを防げ」でも紹介された。

これは、札幌市の団地で生活する80歳の男性のケースである。

(写真はイメージです:iStock.com/inga)

その男性は、年金を月あたり9万5000円支給されていたが、それだけでは生活ができず、生活保護で家賃や医療費を賄っていた。

ところが、そこに失業した45歳の息子が戻ってきた。単身者世帯から2人世帯になったわけだ。

それによって、老人の生活保護は打ち切られ、月々の負担は3万円増えた。そうなると、年金は次の支給日までには底をついてしまうことになる。

そこで、この男性を見守っていた「地域包括支援センター」では、親子が同居している状態では父親が生活保護を受けられないので、親子の世帯を実際に分けることにした。

親は高齢者施設に移り、それで生活保護を支給してもらうようにし、息子の方は、就労支援を受けられるようにして、それで自立を促そうというわけである。

これは、書類上のことではなく、本当の意味での世帯分離である。生活保護を受けるということになれば、同居の有無が問われるからである。

 

この番組では、2014年1月に、岩手県で91歳の母親を介護していた64歳の息子が、母親の年金だけで生活をしていたため、最後、二人とも凍死してしまった事件が引き合いに出されていた。

これも、もし息子が窮状を誰かに訴えていれば、世帯分離で救われたのではないかというのである。

こうした世帯分離は、第三者の介入によってなされたもので、子どもが直接に親を捨てるわけではない。

しかし、子どもの側が親の介護を放棄する形になるわけだから、親捨てに限りなく近い。

親を捨てなければ、親も助からないし、子どもも助からない。果ては介護殺人に至るかもしれないのだ。

介護殺人には至らないにしても、果たして子どもは親を自らの力で介護しなければならないものなのだろうか。仕事や生活を犠牲にしてまで、介護を優先させるべきなのだろうか。その点も疑問になってくる。

 

これからも、高齢化は進み、要介護認定される高齢者も増えていくわけだから、事態は相当に深刻である。

しかも、社会全体の経済状況は悪化し、政府や日銀が主張しているのとは異なり、これから経済が発展していくことなどとても見込めない。

貧困化し、下流に落ち込んでいく老人のことが今でも取り上げられ、問題視されているが、それもまだ事態としてははじまったばかりである。豊かで楽しい老後を享受できる人たちは、もう限られている。

そうした状況のなかで、今私たちは、親を捨てることを真剣に考えなければならない時代に立ち至っている。そうしなければ、過酷な現実を生き残ることができなくなっているのである。

関連書籍

島田裕巳『もう親を捨てるしかない 介護・葬式・遺産は、要らない』

年々、平均寿命が延び続ける日本。超長寿とは言っても認知症、寝たきり老人が膨大に存在する現代、親の介護は地獄だ。過去17年間で少なくとも672件の介護殺人事件が起き、もはや珍しくもなくなった。事件の背後には、時間、金、手間のみならず、重くのしかかる精神的負担に苦しみ、疲れ果てた無数の人々が存在する。現代において、そもそも子は、この地獄を受け入れるほどの恩を親から受けたと言えるのか? 家も家族も完全に弱体化・崩壊し、かつ親がなかなか死なない時代の、本音でラクになる生き方「親捨て」とは?

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島田裕巳 作家、宗教学者

1953年東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著作に『日本の10大新宗教』『平成宗教20年史』『葬式は、要らない』『戒名は、自分で決める』『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』『靖国神社』『八紘一宇』『もう親を捨てるしかない』『葬式格差』『二十二社』(すべて幻冬舎新書)、『世界はこのままイスラーム化するのか』(中田考氏との共著、幻冬舎新書)等がある。

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