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作詩入門

2020.10.24 更新 ツイート

「友達じゃがまんできない」は夜の公園にいた彼女のもの 前野健太

私に「シンガーソングライター」は似合わない

友達じゃかまんできない」という歌を書いたが、実は自分で書いていない。

モテキ」という映画と、「僕の好きな女の子」という映画で使ってもらったが、申し訳ない。作詩作曲とクレジットされているが、実は盗作だ。盗んだ作品だ。それはこの曲に限ったことではなく、自分の曲は盗作が多い。誰も気づかない。気づかれないからコソコソと続けてしまう。そうやって身につけた作詩術は、もういい加減解体しなきゃいけない。そして盗んだ相手に歌を還さなきゃいけない。いらない。そう言われるかもしれないが。

 

ああホントは、私は自分で歌詞など書きたくない。歌手になりたい。誰かが書いてくれた歌を、演じたい。歌の中で羽根を持ちたい。今となっては歌うことが好きかどうか分からないが、昔はきっと好きだった。可愛い声をしていた。背が小さくて、ずっと可愛い子だったのだ。

大人になっても、歌声は綺麗だった。自分の細くて高い歌声が嫌いだったが、今の気分なら、その声に乗って旅を出来たかもしれない。中途半端な田舎育ち、郊外育ち。男らしさとは、みたいな変なバイアスがかかっていた。三階のシュウちゃんはピアノをやっていた。私ら三兄弟の家は五階だったが、せっかく家にあったピアノを誰も弾かなかった。恥ずかしかったのだ。アホらしい。

細くて高い声が嫌いで、ウィスキーをストレートで飲み、声を潰していった。スタジオで散々歌い潰した後、そのままバーに行き、バーボン、スコッチをストレートで。ある時から喉が痛くなった。一時期うまく調整できて理想の声を手に入れたと思ったが、無理がたたって、今は痛い。アホだ。声を潰し、盗作をし、もう可愛らしさは、ない。腕毛もなぜか伸びるし。この腕毛は何のためにあるというのだろう。私にとってこの腕毛は歌を書くために、歌うために、どういう手助けをしてくれるのだろう。

話が逸れたが、そう、歌はほとんど自分で書いていない。
 
15年ほど前、公園にいた。夜。家の近くでぼんやりベンチに座っていた。缶のジュースを飲んでいたかもしれない。少し離れたところに男と女がいた。話し声が聞こえた。住宅街だったから静かで、その話し声は離れた自分にもハッキリと届いた。

その男女はいい感じに見えた。聞こえた。恋をしていたのだろう。恋はいい。人生で一番か二番目くらいにいいものだろう。細胞が跳ね上がるのだから。夕日の色を体が持つ瞬間。それが恋だ。女は男に言った。

 「ねえ、友達じゃ我慢できないよ」

私は耳をピンとそば立たせた。缶を持つ手が口の前で止まった。すごいセリフだ、と思った。そのまま女は続けた。

 「恋人になりたいよ。私の楽しい思い出全部あげるから」

思い出、ぜんぶ、あげる、だと。こいつは詩人ではないか、と思った。もうその瞬間、盗人状態に入っていた。するするするとそのセリフが体に入ってくる。いや、その女の声でタイプされていく感じだ。俺は紙だ。声もインクも言葉も歌も、すべては彼女のもの。彼女の才能。インクが薄れないうちに家に帰らねば。私は家に帰り小さいギタレレという楽器でさっそく曲をつけていった。歌詩はもうほとんどそのまま彼女のセリフだ。

(中略)

 真夜中の公園は寄り添う二人
 車は走る 風は通り過ぎる
 
 友達じゃがまんできない
 あなたの恋人になりたい
 私の楽しい思い出全部あげるから
 あなたの恋人になりたい

この曲が映画で使ってもらえるのは自分で書いてないからだろう。そして二本とも自分で歌っていないのは、その方が似合うからだ。私には「シンガーソングライター」は似合わない。それらしい顔つきをしているからなんだかそれっぽいが、ホントは街の歌をすっと盗んで懐に入れて、誰かに渡して歌ってもらうのが合っているのだ。

あの時の女と男はその後どうなったのだろう。そんなことはどうだっていい。歌が残った。私のところに。おい、あなた。もしこの文章に触れたら連絡を下さらないか。印税を返したい。そしてあなたの声でレコーディングをしたい。あと、もっと歌を発してほしい。あの時声をかければよかったのだ。あなたはよっぽど詩人だ。俺なんかより。と。

今日昼前だというのに歌舞伎町で壁ドンしているホストがいた。女の耳元で何やら囁いていた。あんたの歌も聞きたいよ。もっと囁いてくれ。自転車で横を通り過ぎても、しっかり盗んでみせるから。

*   *   *

「友達じゃがまんできない」はアルバム「ロマンスカー」に収録されています。

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作詩入門

街の詩情を歌い続ける、シンガーソングライターの前野健太による歌ができるまで。
どんなとき言葉は生まれてくるのか? 言葉はいつ歌になるのか?

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前野健太

シンガーソングライター、俳優。
1979年2月6日生まれ、埼玉県入間市出身。2007年『ロマンスカー』によりデビュー。ライヴ活動を精力的に行い、「FUJI ROCK FESTIVAL」「SUMMER SONIC」など音楽フェスへの出演を重ねる。俳優活動においては、主演映画『ライブテープ』が第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞。NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』他、TVドラマ、CM、映画、舞台に出演。エッセイ集『百年後』を刊行するなど、文筆活動にもファンが多く、他アーティストへの楽曲・歌詞提供も行う。

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