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作詩入門

2020.09.21 更新 ツイート

新連載

いい詩とは自分が風景になれたとき #作詩入門の秋 前野健太

<入門の秋>特集7人目は、街の詩情を歌い続ける、シンガーソングライターの前野健太さんによる「作詩入門」。どんなときに言葉は詩になるのか? 詩は歌になるのか? ご自身の曲「ヒマだから」を例に。 

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すべてのものに「意味」はなくても「歌」はある

 

自分のことを歌っているようで、実はただの街の観察日誌のようなものなのかもしれません。自分の書いた詩を、自分の声で、自分で曲をつけて歌うわけですから、その人のことのようにおもわれてしまうのは、至極当然のことなのですが。

でも感覚としては、「探りを入れてる人」。自分がほんとにふつうの人間なので、歌は内部にはないんです。ぼーっとしてても歌はカスほども生まれません。街に出て、パッと出会い、化学反応が始まる。なんだっていいんです。あ、猫、とか。その光景にビーンと来たらもう歌が発動してるということではないでしょうか。猫が「歌」で、私は入れ物。すーっと体に入れてく。

最近だと路地裏で交尾してる猫がいたんですね。あう、あう、と。それで目が合った。猫と。お互い止まった。紫陽花が咲いていた。雨に濡れていた。もうこれで一発ですね。

猫が交尾してた
雨の路地裏で
猫と目が合った
紫陽花が濡れていた

こんなもんでいいんじゃないでしょうか。作詩。詩いうか風景画に近いのかもしれません。スケッチ。これを強引に歌にしていくのですが、歌のある風景にいることの方が仕上げよりも重要かもしれません。自分の場合ですが。

たとえば猫の歌でもう一つ。昔の歌ですが、「ヒマだから」という歌があります。

猫しか友達のいない
おっさん 裏通り遊ぶ

これも裏通り。芸がないんです。あ、さっきの交尾していた歌はまだ歌になっていません。歌詞の途中の段階。こっちはもうCD(編集部注:アルバム「ファックミー」)に入れて発表しています。

裏通りにおっさんがいて、猫と戯れていた。おっさん、身寄りのない感じがして、たぶんホームレスなんじゃないかなと思いました。猫と仲良さそうに戯れている光景に、歌が発動して、ビビっときました。

で、しばらくその様子をちょっと離れたところから、見ていて、猫にフォーカスしていくと、なんかおっさんと遊んであげてる感じがした。そこで発動した歌が、ちょっと複雑というか、いろんな要素が混じっていた。犬猫の殺処分のことをぼんやり考えてたんでしょうね、その数日前に。猫は何も悪くないよな…人間って勝手だな…それでも猫は人間に優しいんだから…。そんな思いがこの光景と混じったんですね。そこで出て来たのが、さっきのとひっくり返した

おっさんしか友達のいない
ふりをする やさしい猫

という歌詞。これをさっきのにくっ付けた。

猫しか友達のいない
おっさん 裏通り遊ぶ

おっさんしか友達のいない
ふりをする やさしい猫

最初のだけでもよかったのですが、その風景に惹かれた理由が、このあとにくっ付けた歌詞を書けたことで分かったというか。書いたことで気づいたんですね。というか勝手に物語にした。そして実際歌うわけですが、気持ちは入るわけです。殺処分のことを考えてたから。ねーこーー、で熱が入るわけです。

シンガーソングライターというのはよく自作自演と言われていますが、自作自浄という感じもします。社会の中にいて、いろいろ溜まっていくわけです。重くなるわけです。生きてるだけで重くなるわけです。それを燃やして自浄するわけです。洗い流す、歌い燃やすわけです。さっきは「探りを入れてる」と書きましたが、ガソリン集めてるのかもしれませんね。作詩って。

話は少し変わりますが、私の好きな歌に「七つの子」という歌があります。「かーらーすーなぜなくのー」という歌です。あれを書いた野口雨情という人はすごいなと思います。名前に「情」が入っていますからね。人間界では憎まれ役のカラスですが、あの「かーかー」という声は実は「かわいい かわいい」と言ってるんだよ。自分の七つの子に対して、かわいい、かわいい、と言っている、その声なんだよ、と。

からす なぜなくの
からすは山に
かわいい七つの
子があるからよ

かわいい かわいいと
からすはなくの
かわいい かわいいと
なくんだよ

「七つの子」作詞:野口雨情

私なんぞはもちろん足元にも及びませんが、こういうものを目指したいな、と思いますね。遊び心があって、でも情がすーっと漂ってる。情を風景の中に走らせている感じがするんです。カラスの鳴き声を聴いて「かわいい、かわいい」に聞こえた、というんですから。

すべてのものに「意味」なんてなくても「歌」はあると思います。作詩って風景を濡らすことというか、風景をゆるくするものでもあるのかなと思います。たった1人で街とまぐわう。そんなたいそれたものでもないかな。ただヒマなんです。

街の観察日誌のようでありながら、実はただ自分のことを歌っているだけなのかもしれません。街と自分が入れ替わり、自分と街が入れ替わる。作詩とは、そういうただの「流れ」にすぎないのかもしれません。

いい詩が書けた! という時の達成感は、風景になれた、という感じに近いのかな。ちがうか。

*   *   *

「作詩入門」は、これから連載として続きます。第2回もお楽しみに。
さらに、

前野健太無観客生配信ライブ【今の時代がいちばんいいよ】開催!

9月22日(祝・火)21:00 開演
@東京 吉祥寺MANDA-LA2より生配信
Streaming+にてオンラインライブ リアルタイム配信
出演:前野健太
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視聴料金:¥2,000
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■販売URL:https://eplus.jp/sf/detail/3316250001-P0030001
■販売期間:9/15(火)12:00 ~ 9/22(祝・火)23:00

アーカイブ視聴可能期間 9/25(金)23:00 まで
問い合わせ:MANDA-LA2 0422-42-1679

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作詩入門

街の詩情を歌い続ける、シンガーソングライターの前野健太による歌ができるまで。
どんなとき言葉は生まれてくるのか? 言葉はいつ歌になるのか?

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前野健太

シンガーソングライター、俳優。
1979年2月6日生まれ、埼玉県入間市出身。2007年『ロマンスカー』によりデビュー。ライヴ活動を精力的に行い、「FUJI ROCK FESTIVAL」「SUMMER SONIC」など音楽フェスへの出演を重ねる。俳優活動においては、主演映画『ライブテープ』が第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞。NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』他、TVドラマ、CM、映画、舞台に出演。エッセイ集『百年後』を刊行するなど、文筆活動にもファンが多く、他アーティストへの楽曲・歌詞提供も行う。

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