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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2020.09.30 更新 ツイート

第140回 二度目の恐怖 いとうあさこ

“三度目の正直”と言う言葉がある。“物事は一度や二度は当てにならないが、三度目は確実”と言う意味だそう。すごく前向きだし諦めない感じが好き。調べてみると英語で「Third time’s the charm(三回目は幸運が舞い込む)」。ドイツ語では「Aller guten Dinge sind drei.(三回目に成功する)」。他に中国語でも同じ言い回しがあるそうで。世界中で“三度目”の素晴らしさは認められているようだ。

 

ただ私はよく三度目の前に、“二度目の恐怖”という壁にぶち当たる。それはだいたい“痛い”とか“怖い”などイヤな事をする時。一度目、何とか乗り越えたとしましょう。そうしたら二度目の時、“こうすればいい”と学習の方向にいけばいいのですが、私はその恐怖を“知っちゃっている”故に怖さが倍増。“知る”と言う本来素晴らしい経験がうっかり悪い形で出てしまうのです。

ちょうど今、私はプライベートでなかなかの試練と闘っている。それは“南部鉄で体を擦る”というマッサージ。元々何やっても体調がよくならなかった友達が、ここに通って治ったと。要は体質改善に成功したのです。わたくしも50歳。人間ドックの数値的にはよくても、あちこちガタは来ておりまして。要メンテナンスです。

ただですね、これがなかなか痛い。どれくらい痛いかと申しますと、近くにあったタオルを噛んで我慢するけど結局呻き続ける、ってくらい痛いです。ええ、かなりです。自分は結構我慢強い方だと思っていたのですが、あまりに痛くて途中で言いました。「麻酔とかないですか?」それほどの衝撃でしたが、せっかく紹介してもらって始めたこの施術。体がいい感じになるまで頑張ろうと先日二度目の施術へ。ただこれまた、前回より痛い、感じがする。最初は再びタオル噛んで我慢していたのですが、もう普通に「ぎゃーっ」とか言っちゃって。大悶絶の二回目でした。先生に伺うと「今回の方がより深いとこやったからから前より痛いかも」と仰っておられましたが、やはり“知っちゃった”せいで、もう触れる前からビクビクして体を強ばらせちゃったしな。ああ、二度目、怖い。

そう思うとそんな事は多々ありまして。例えばバンジージャンプ。私のファーストバンジーは25、6歳でまだお笑いの仕事につくとも思っていなかった頃。友達と遊びに行った遊園地にて「怖いけど面白そう」なんて。そう、まだ“知らなかった”から。初めて立ったお立ち台(? )はなかなかの高さ。でも先にやった友達の感想も「楽しかったぁ!」だったし、下から「おーい!」なんて手を振りながら見ていてくれたんで、お兄さんの「スリー、ツー、ワン、ゴー!」の「ゴー!」より早く飛んじゃうという今では考えられない暴挙を。

でもこれで“知ってしまった”んです、怖さを。知ったのは“安全だった”じゃなくて“怖さ”の方。そこからまさかお笑いという仕事につき、何度もやる事になるとは。毎回、上でなかなか心が決められず。ようやく「よし行こう!」と思うとちょうど下から「テープチェンジです」の声。待たせてしまっているプレッシャーと再び折れてしまった心で余計に飛べなくなる。もう悪循環。と言うか、回数を重ねれば重ねるほど怖さが増してきている気がする。

スカイダイビングもそう。初めて飛ぶ時、一緒だった森三中・大島ちゃんが経験者で。「絶対大丈夫! もう高すぎて怖いとかじゃないよ」と。大島ちゃんも同じバンジーダメダメメンバーなので「そんな人がこう言うなら」とやってみたところ、私の感想は……怖かった。すごくすごく怖かった。知らない国の知らないおじさんと繋がれたロープなんて全然信用出来ず。しかもそのおじさんがサービスなんでしょうが急降下してみたりグルグルしてみたりしてきて。最初は「プリーズストップ」みたいな事を何度も言っていたのですが、まったくもって止めてくれる気配がなかったので「止めてって言ってんだろがぁ!! 今すぐ止めろぉ!!」と日本語で怒鳴ると何かが伝わったんでしょうね。スーッと静かに降りてくれました。スカイダイビングはまだこの一回だけですが、そんなわけで“知っちゃって”ますからね、私。二度目どうなるか、想像できず。

高さだけではなく、冷たさ、と言う恐怖もあります。10年くらい前に番組の企画で“どれだけ夏に見えるかコンテスト”というのがありまして。どれだけ寒さを感じさせずに真冬の海に飛び込めるか、というもの。その日はかなり冷え込んでいて細かい雪が海風にあおられ、斜めに降っていた。そこにビキニで登場。「寒くない。まったく寒くない。」と自分に言い聞かせながら砂浜でアハハハとはしゃいでみせる。いいよいいよ、このままいこう。デッキチェアに腰掛けてかき氷なんかも食べちゃって。よし、いける。椅子から立ち上がりビーチボールとじゃれ合いながら一路海へ。アハハハアハハハアハハハ、バッシャーン……ギャーッ!! え? え? 何この冷たいとか寒いとか、そんな簡単な言葉ではなく。心臓をドンッとされたような衝撃。あ、でも今コンテスト中だ。夏感出さなきゃ。ただその後の記憶はあまりはっきりせず。気づけば砂浜に用意されたお湯に飛び込んでいた。結果は思いっきりを買われて優勝。その為第二回にもお呼ばれしたのですが、もうあの“ドンッ”を“知っちゃった”から。自分では精一杯やったつもりではありますが、どこか躊躇しちゃったのかも。二連続の優勝にはなりませんでした。

この“ドンッ”はその後何度も。こういう冷たい海に飛び込む系はもちろんの事、フィンランドの湖に氷が張れば潜りに行くし、夏の暑い時ですら滝行は信じられないほど強めの“ドンッ”がくる。もうあのファースト“ドンッ”の衝撃は忘れられない。さ、そろそろ三度目のマッサージの予約を入れねば。もうこれに関してはどうなる事が“三度目の正直”なのかはよくわかりませんが。なんとか“二度目の恐怖”を乗り越えたんだから。今度は“三度目の卓越”、みたいな領域までいけないかなぁ。

 

【本日の乾杯】

自家製の大根のぬか漬けを細かく切って、納豆と混ぜて。軽くあぶった海苔にくるんでパクリ。簡単だし、香りもいい。今回はビールだけど、だいぶ寒くなってきたからそろそろキューッと日本酒、ってのも良い感じ。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

寂しいだか、楽しいだか、よくわからないけど、日々、一生懸命生きてます。 人気芸人の、笑って、共感して、思わず沁みるエッセイ集。

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