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こういう旅はもう二度としないだろう

2020.08.10 公開 ツイート

旅ができるということは奇跡のように素晴らしいこと。

ニュージーランド「先住民のワイタハ族と火と水のセレモニーを体験するツアー」 銀色夏生

「人生こそが長いひとつの旅なのです」(文庫版あとがきより)という銀色夏生さんが、海外への旅を綴ったフォトエッセイ『こういう旅はもう二度としないだろう』。思うように旅ができないこの夏、銀色さんのちょっと変わった旅の思い出を通じて、世界を感じてみてください。

ニュージーランド「先住民のワイタハ族と火と水のセレモニーを体験するツアー」

マオリ族の祝典。ハカを踊る
角笛を吹く人
名物のマオリハンギ

ツアーはもういいって言ってなかった?
言ってた。でも、これを申し込んだのはベトナムツアーより前。それにこれは普通のツアーじゃないの。なぜこのツアーに申し込んだのか。
さかのぼること3ヶ月。
その頃私はクリスタルボウルという、クリスタルでできたボウル状のものを打って出すボーンという音に興味を持っていた。低く響くところがよくて。
それでクリスタルボウルの演奏会を探して何度か出かけた。

ある時の演奏会で、ヒーリングライアーという木製のお琴のようなハープのような楽器も一緒に演奏されていた。その音を聞いて、その演奏家の方の話を聞いて、私はとても興味を持った。その楽器は、木製の本体を自分で削るところから始まるのだそう。手をかけ時間をかけて作り上げ、それを奏でるという、なかなか気持ちのこもりそうな楽器だと思った。
そして、そのヒーリングライアーをちょっと私も作りたいなあと思い(作らなかった)、次のワークショップがどこであるか調べていたところ、このニュージーランドの「火と水のセレモニーを体験するツアー」の案内を見つけたのだ。

「2014年10月、50年に一度行われるワイタハの水の集会で、177年ぶりに羽黒山伏の手によって東のゲートに火が灯された。その火のエネルギーを灯し続け、環太平洋に繋ぎ広げるためにも2016年2月に再び集会が行われます。今回は、中米のマヤ族からグランドマザーが来て下さりマヤの火+ワイタハの火で儀式を行い西のゲートを活性化します。そして、ゲストの講話や音楽・踊りで楽しみます」。壮大だ。

ワイタハ族の長老というのは「幼少の頃よりシャーマンになる為に祖父母に育てられ、3歳の頃に洞窟で地中に3日間埋められる死の儀式を受ける。ワイタハの伝統を教えるシャーマンである。龍のお世話をするドラゴンケアーテイカー」と書いてある。日本にも来て龍の学校を何度か開催したことがあるそう。
ううむ。
なんかよくわからないけど。おもしろいかもしれない。
スケジュールをよく見ると、現地集合で8泊9日、セレモニー以外にもマオリ族の祝典に行ったり、岬や洞窟を見たり、オプションでドルフィンクルーズもあるというので観光もできそう。ただ気になるのは、ワイタハ族の聖なるマラエという集会所に6日間も宿泊することで、寝袋持参、全員で雑魚寝、と書いてある。
いったいそこはどんな世界なのだろう?

しばらく考えた末、こんな機会はもうないだろうと思い、行ってみることにした。詳しいことは何も知らないけどそれもすべてお楽しみということで。
そう。流れにまかせて生きよう。
なおこのツアーはスピリチュアルなツアーです。郷に入っては郷に従えで思い切り浸ってみます。


2016年2月4日(木)

現地集合となっているが、日本から直行便で行く人は午後4時に成田空港南ウイングカウンターで顔合わせ、とのこと。
ニュージーランド航空のところにだれかいるはずだが、特にそれらしき人々は見当たらない。
どうしよう。ひとり、若い女性が心細そうに立っている。カートにたくさんの荷物をのせて。神社でお守りを売るところにいるような、アルバイトの巫女さんのような和風の顔立ちだ。彼女もそうかなと思い、声をかけたらそうだった。でも他の人はどこにいるのだろう。
手元の資料のスタッフの方の電話番号に電話をかけると、今、チェックインの手続きをしているところということなので私も自分でチェックインする。別に自分で行ってもいいんだ。だったらひとりでチャカチャカやるわ。
そのまま出国手続きも済ませた。

出発時間が変更になり、6時半が7時20分になったので時間がかなりある。どうしようかと出発ロビーをウロウロしていたらフットマッサージのお店を見つけた。
ラッキー。
ここで時間をつぶそう。フットとヘッドのマッサージを合わせて40分お願いする。長時間のフライトだしね。足を軽くしよう。いつも出発までの時間が退屈だったから今後はできるだけ利用しようと思い、お店の会員になる。
飛行機に乗り込むところで一応参加者のチェックがあった。

ニュージーランド航空のエコノミーの狭いシートに乗り込む。お隣はニュージーランドのご夫婦。明るく挨拶され、チョコを2個いただいた。ありがとうございます。

龍に見える石
好きだった場所​​​​​​
コフェファタマラエ


2月5日(金)1日目(9日のうちの)

ごはんを食べて、映画を見て、寝て、10時間半ほどでオークランドに到着。
ただ今、ニュージーランドは朝の8時過ぎ。10時に到着ロビーでみなさんと集合ということになっている。入国手続きの長い列に並ぶ。
前方に、よくしゃべる頭つるつるの人が、よく通る声で楽しそうにしゃべっていた。このあとオーストラリアにサーフィンをしに行くとかなんとかって言ってる。

ロビーに行くと、すでに何人かの方が集まっていたのですぐにわかった。
主催者の女性が着物姿で迎えてくれている。彼女自身もヒーラーであり、ヒーリングやチャネリング、浄化、ヒーラー養成講座などを地方でなさってる。長老を日本に招聘して各地で祈りを行ったりもしているのだとか。活動的で感覚的でかわいらしく、ちょっと不安定な印象。
それからヒーリングライアーの奏者の方もいた。長い髪の女性。この方のホームページを見て、このツアーのことを知ったのだ。癒しの音のファシリテーターとかで、精神世界やヒーリング関係の通訳もやってらっしゃる。落ち着いていて、のんびりとした、やさしい印象。

大きな体の長老、発見!
この方か。龍のお世話をする人、ドラゴンケアーテイカーというのは。
3歳で地中に3日間、埋められた、死の儀式体験者……。アニメーション映画のシュレックそっくりだ。風格があり堂々としているけど、気さくな雰囲気でやさしそう。

そしてグアテマラからのゲスト、マヤ族の女史もいた。小柄できれいなおばあさん。民族衣装を着て、かわいらしくニコニコしていて、見るからに素敵そうな方だ。バリ島のスピリチュアルマスターで、ヒーラーでありヨガもするという男性も来る予定だったけどビザの関係で来れなくなったそう。

日本からのゲストという方もいた。指圧じゃないけど何か独自の身体療法を編み出し、健康セミナーを各地で開催しているという。頭がつるつるで(さっきの人だった)、よくしゃべり、陽気で、どこか得体の知れない、ちょっとうさんくさい印象。妖怪ぬらりひょんみたいな人物。

全員が集合したので空港わきの駐車場でみんなで大きな輪になる。
参加者は総勢30名ほど。ほぼ女性。ご夫婦2組、男性2名。ほとんどが何らかの形でスピリチュアルなことに携わってるようだ。
丸く輪になって、長老が旅の無事を祈る言葉を唱える。私たちも祈る。
すでにスピリチュアル感、満載……。
30名の妖精たち。

11時出発。バスに乗って北上する。長老の住む町へと。
隣に座った方と話す。
その方は、私よりも年上で、ショートカットの気さくなおばちゃん、という感じ。お寺の奥さんなのだそう。ホメオパシーとかヒーリングをされていて、珍しいところでは「傾聴ボランティア」というのをされているそう。ただひたすら相手の話を聞いてあげるのだとか。一瞬、すごく興味を覚えたが、すぐに消え去った。

ご自分でおっしゃっていたのだが、「私は落ち着きがなくていつもキョロキョロキョロキョロしてるんです」と。確かにそう言ってる今もお尻が浮いてる感じで、気が散漫になっている。たとえば、こっちで話してるのに隣でだれかがワーッと楽しそうに話していたらそっちが気になってソワソワしてしまうタイプ。でも年を感じさせないかわいい雰囲気もある。ドラえもんのスネ夫とかハツカネズミに似ている。

前にインドに行った時の話をしてくれて、「かつてここにいた!」という強烈なデジャブを体験したという。足の指のあいだに泥がむにゅっと入る感触までリアルに思い出したというので、前世、インドにいたのだろうなと思った。
iPadで外の景色を一生けんめいに撮っているが、使うのが初めてで操作の仕方がわからず、どうもうまくできない、できないと言ってる。撮り損ねた景色を「ああ~っ」と言いながら振り返って追いかけてる。本当にキョロキョロしてらっしゃる。

12時半にランチ。
郊外のフードコートや中華レストランなどがある場所で、各自、自由に1時間の休憩。私はフードコートでチキンパイと紅茶を食べる。ひとりで心細く……。なので味も感じられない。売店をのぞくと、1リットルの水が4NZドル(約320円)。物価は安くない。
ふたたびバスに乗る。
曇り空で雨がぱらついている。外にはなだらかな緑の丘が続き、牛がいた。
バス内でマイクを使ってマヤ女史の話、「今日はマヤ暦では1日。水の日です。マオリの言葉には、ありがとう、ごめんなさい、がありません。すべてが神に属しているから言う必要がないのです」。

2時半にカウリミュージアムというところに着いた。
観光だ! うれしい!
地下にある琥珀の展示室が素敵なのでぜひ見てください、と教えられたので楽しみ。
カウリというのは、ニュージーランドでしか見られない巨木。かつては北島北部を中心とした広大な森林に分布していたけど、ほとんどが伐採され、現在残っているカウリは大切に保護されて伐採できないそう。高さ50メートル以上、幹の直径15メートル以上、幹の容積240立方メートル以上になるものもあり、樹齢が1000年を超すものも多いとか。

さっそく博物館の中へ入る。
カウリ材で作った豪華な家具、1900年頃のニュージーランドの生活ぶり、カウリの伐採・加工の作業場面、木を切る道具、長さ22・5メートルの巨大な板などがうまく展示されていた。幹の直径が2メートルもあって本当に大きかった。
そして、地下のカウリ・ガム(琥珀)の展示室へ。びっしりと展示されていた。琥珀好きの私はひそかに大興奮。大小のかたまり、素朴に形作られた小物……。十字架、鳥、どれもかわいい。琥珀のどこが好きなのか考えると、この色かも。飴みたいだから。おいしいはちみつみたいなこっくりとした味の飴。
あのぬらりひょん先生がいた。楽しそうに何か語ってる。調子よく。
最後は売店だ。琥珀の何かを買いたいなあと思って見る。アクセサリーがあった。でもデザインが好きじゃなかったので買わなかった。

夕方。5時45分。
シュレック似の長老のプライベートマラエに到着。
聖なる山プーハンガトホラの麓にあるという木造の集会所。
そこでお葬式も結婚式も行われるというとても神聖な建物らしい。飲食や写真撮影、髪を触ることも禁止。建物の中央のラインに物を置くことはタブー。

長老の家族が集まり、歓迎のセレモニーが行われた。椅子に座って向かい合い、来る者、迎える者、共に挨拶の口上を述べ、最後に全員で抱き合って挨拶を交わす。
ハグだ。私も粛々とやり終える。
奥にたくさん飾られている一族の写真の説明もあり、セレモニーは1時間半も続いた。

そのあと、マットレスを敷きつめ、各自の寝床を作る。私もマットレスにシーツをかぶせ、持参した寝袋を広げた。足元にスーツケース。見渡すとぎっしりで足の踏み場もない。

8時から夕食。
隣の食堂へ移動する。
スープ、パン、焼いた肉、野菜を各自で取りに行く。こういう感じか。食事は期待していなかったので素朴でおいしく感じる。前の席にご夫婦がいらして、旦那さんは宮崎県出身というので親近感を覚える。アーティスティックな技術者で海外生活も長かったらしい。一緒に来たという友人夫婦の旦那さんの方は気の整体師さんで、「すごい人です」と言う。
「僕は今までに2回、心臓が止まったことがあるのですが、何も言ってないのにそれを言い当てたのは彼と長老だけです」と言っていた。長老が日本で行った龍の学校に奥さんの方が出て、その縁で今回こちらにいらしたのだそう。
へえ~っ。

食後にシャワー。男女各3つしかないので順番に。四角く囲まれたシャワー室で急ぎぎみに使う。

寝る前、ぬらりひょん先生がまわりの人たちに施術していたので私も興味を持って近寄る。顔や肩、骨盤、恥骨広げ、乳首回しまで! さまざまなやり方を教えてもらう。自分で自分を治す体術というので、いいかもと思う。でも痛かった。また、咀嚼することの大切さを語っていた。なるほど、と思いそれはメモする。ぬらりひょん先生はヘラヘラしてて調子がいいけど、言ってることは納得できる。そう悪い人ではないのかもしれない。

11時、就寝。
全員で雑魚寝。緊張が取れない。
でも郷に入っては郷に従えだ。アイマスクをして眠りに入る。

*   *   *

続きは幻冬舎文庫『こういう旅はもう二度としないだろう』で!

関連書籍

銀色夏生『こういう旅はもう二度としないだろう』

今、目の前のここが、今日の私たちの愛すべき世界で、見えているものが現実です。見えなくなったものをいつまでも追いかけるのはやめて、この世界でできることを今までと同じようにイキイキと体験したい。(文庫版あとがきより)

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