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悪夢障害

2020.08.13 更新 ツイート

叫ぶ、殴る、歩き回る…レム睡眠行動障害には思わぬ病気が隠れている場合も 西多昌規

寝つきが悪い、眠れない、途中で目が覚める……睡眠に問題を抱える人は大勢いますが、中でも無視できないのが「悪夢」でしょう。悪夢によって睡眠が妨げられ、日常生活に支障が出るようになったら、それはもう立派な「病気」。その生涯有病率は、なんと7割以上ともいわれています。精神科医で睡眠医学の専門家として知られる西多昌規先生の『悪夢障害』は、そんな悪夢について徹底的に掘り下げた貴重な本。心当たりのある方は、ぜひこのためし読みをご覧になってみてください。

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こんな症状が出たら要注意

悪夢を見るレム睡眠中には、腕や脚などの主要な筋肉は、緊張が低下して力が入らないようになっている。眼球運動をつかさどる眼筋や、呼吸するために必要な胸部の筋肉など、最低限の筋肉しか動いていない。

レム睡眠中は、いわば脳からの運動指令を遮断する機能が働いている。これは生命にとっては合理的なことである。なぜならば、自身に危険が及ぶような悪夢に身体の筋肉が反応してしまっては、ケガをしたり事故になったりしてしまうからである。

(写真:iStock.com/Tero Vesalainen)

具体的には、誰かに追いかけられる夢ならば脇目も振らずに逃げようとする、あるいは逆に暴力的に防衛してしまう、などの行動である。

ところが、悪夢の内容に対して、行動できてしまう病気がある。端から見れば、とんでもないひどい寝ぼけ、といえるだろう。それは「レム睡眠行動障害」と呼ばれる。高齢者の男性に多く見られ、大規模調査では200人に1人程度の頻度とされている。

 

入眠して1~1.5時間ほどたつとレム睡眠に移行するが、本来、身体が動くことはないレム睡眠期において、四肢や体幹が複雑な動きを始める。他人が隣に寝ていればびっくりして飛び起きるような、寝言どころではない叫び声や罵声、驚声も少なくない。両手を前に突きだす、何かを振り払ったり、足で蹴飛ばしたりするような行動も見られる。

隣で寝ているパートナーを殴る、蹴るといった暴力的行動、あるいは立ち上がって室内を歩き回るなど、激しい行動をとる場合もある。その間に目覚めることはほとんどないので、レム睡眠終了までの20~30分ほどは、この異常行動が続くことになる。

この異常行動の原因と、患者が見ている夢の内容は大体一致している。夢は、例外なく悪夢である。実際にとった行動は覚えていないが、見た悪夢はしっかり思いだせることが多い。

パーキンソン病の兆しの可能性も

興味深いのは、悪夢の男女差である。男性の場合は、危機的状況における情動を伴った悪夢が多い。「暴漢から家族を守ろうとした」「通り魔に追いかけられて無我夢中で抗っていた」などの悪夢に反応して、隣で寝ている妻を殴ってしまった男性もいる。手を伸ばして罵詈雑言を叫んでいた男性は、自分がとばっちりを食うミスを犯した部下を厳しく叱責する夢を見ていた。

(写真:iStock.com/peterschreiber.media)

女性では、自分と子どもを守る自己防衛的な行動異常を示すことが多いという。日本大学医学部精神医学系教授の内山真は悪夢の男女差に関心を持っており、女性のレム睡眠行動障害の例を紹介している。

両手を振り回して大声で叫んでいた女性は、「自分の子どもが崖から落ちそうになっているのを必死で助けようとしていた」と述べている。「子どもを乗せていた乳母車が目を離したすきに坂を下りだして必死に追いかけていた」という悪夢によって、一生懸命走るような両脚の速い動きをしていた人もいたという。

わたしの経験でも、女性で暴力的行動をとる例は、男性に比べて少ないという印象がある。女性が夫に対して暴力的行動をとるケースは、あまり聞かない。

 

レム睡眠行動障害は、パーキンソン病やレビー小体型認知症、多系統変性症といった、脳や脊髄にある特定の神経細胞が徐々に障害を受け、脱落してしまう神経変性疾患の兆しであるという可能性が指摘されている。

これらの神経変性疾患は、ノンレム睡眠・レム睡眠の切り替えをつかさどっている脳部位(脳幹部)に生じやすいため、初期症状がレム睡眠行動障害として現れると考えられている。

しかし、すべてがこのような神経変性疾患に移行するわけではなく、特に若年者では一過性のものとして消失する場合もある。

レム睡眠行動障害患者が見る悪夢は、フロイトの精神分析論でも、ホブソンのような脳科学絶対論でも、説明が難しい。

避けなければならないのは、家族の病態に対する誤解である。患者の睡眠中の暴力的行動を、故意に行っている、あるいは自分への敵意や攻撃性が無意識にあるのではないかなどと、フロイトのような考察を行う家族もいないわけではない。

しかし、フロイト的な解釈ははっきり否定し、むしろ脳の機能異常であることを患者並びに家族に示すことが、治療の原則である。

 

診断がはっきりすれば、クロナゼパムという抗てんかん薬が効く。最近では、プラミペキソールなどドーパミン作動薬や抑肝散といった漢方薬が効くことも報告されている。

薬物治療も重要だが、高低差のあるベッドをやめてふとんにしてみる、寝室に危険物を置かないなど、行動異常中の外傷予防に努めることが基本である。

関連書籍

西多昌規『悪夢障害』

「寝つきが悪い」「眠れない」「途中で目が覚める」など睡眠に問題を抱える人は大勢いるが、なかでも無視できないのが悪夢。「悪夢障害」とは「極度に不快な夢を繰り返し見ることで睡眠が妨げられ、日常生活に支障が出る」病であるが、この生涯有病率は7割以上ともいわれている。悪夢はうつ病の前兆でもありうるため、軽視は危険。また悪夢を見て叫ぶ場合はパーキンソン病などの可能性もあるので、注意が必要だ。悪夢にまつわるすべてを網羅した一冊。

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悪夢障害

寝つきが悪い、眠れない、途中で目が覚める……睡眠に問題を抱える人は大勢いますが、中でも無視できないのが「悪夢」でしょう。悪夢によって睡眠が妨げられ、日常生活に支障が出るようになったら、それはもう立派な「病気」。その生涯有病率は、なんと7割以上ともいわれています。精神科医で睡眠医学の専門家として知られる西多昌規先生の『悪夢障害』は、そんな悪夢について徹底的に掘り下げた貴重な本。心当たりのある方は、ぜひこのためし読みをご覧になってみてください。

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西多昌規

精神科医・医学博士。スタンフォード大学医学部睡眠・生体リズム研究所客員講師。1970年、石川県生まれ。東京医科歯科大学卒業。国立精神・神経医療研究センター病院、ハーバード大学医学部研究員、自治医科大学講師などを経て、現職。日本精神神経学会専門医、睡眠医療認定医など、資格多数。これまでに数多くの患者を臨床現場で診察するだけでなく、精神科産業医として、企業のメンタルヘルスの問題にも取り組んできた。現在はスタンフォード大学にて睡眠医学の研究を行っている。

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