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悪夢障害

2020.08.06 公開 ポスト

10人中9人が経験する?意外と危険な「悪夢障害」という病西多昌規(精神科医・医学博士)

寝つきが悪い、眠れない、途中で目が覚める……睡眠に問題を抱える人は大勢いますが、中でも無視できないのが「悪夢」でしょう。悪夢によって睡眠が妨げられ、日常生活に支障が出るようになったら、それはもう立派な「病気」。その生涯有病率は、なんと7割以上ともいわれています。精神科医で睡眠医学の専門家として知られる西多昌規先生の『悪夢障害』は、そんな悪夢について徹底的に掘り下げた貴重な本。心当たりのある方は、ぜひこのためし読みをご覧になってみてください。

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他人事とは思えない生涯有病率

わたしの外来の患者にも、悪夢で苦しんでいる人は大勢いる。ただ、患者から夢について話してくることはほとんどない。医療者が夢のことを質問すると、重い口を開くなり、やっと聞いてくれる人がいたといわんばかりに話す、といった反応である。

(写真:iStock.com/ra2studio)

代表的な悪夢の例としては、

・悪事を働き、それが発覚する

・不審者に追いかけられる

・不条理なことで上司にこっぴどく叱られる

・高いところから突き落とされる

といった内容が、比較的多い。

「悪夢」は、起きて意識のあるときの体験に基づくものが多く、内容は精緻で現実味を帯びている。

不安、恐怖など否定的な感情を伴う傾向が強く、怒りや嫌悪などが混じることも多い。生命を脅かされるような、危険なエピソードを伴うこともある。

悪夢の中で差し迫った危機を避けようとしたり、なんらかの対処をしようとしたりする。しかし、荒唐無稽な夢の中で、危機回避や対処が成功することはほとんどない。

悪夢を見ない人は存在しないわけだが、それに毎晩のように苦しめられれば、「悪夢障害」という病気である疑いも生じてくる。

「悪夢障害」とは、悪夢を繰り返し見ることで睡眠が妨げられ、日常生活に大きな支障が出る睡眠障害のことである。

 

悪夢により睡眠が妨げられるため、眠るのが怖くなるだけではなく、日中、睡魔に襲われたり注意力が低下したりするなどの問題に苦しむことになる。

実際に「悪夢障害」に当てはまる人は、どのくらいいるのか。

睡眠医学の代表的な教科書である『Principles and Practice of Sleep Medicine』を調べると、悪夢障害の生涯有病率は調査した施設によって異なるが、67~90%と幅がある

7割弱から9割と聞くと、意外に多いという印象を抱く人も多いだろう。わたしもその一人だ。悪夢の定義の違いにもよるのだろうが、日頃から悪夢のことは他人にいいづらく、調査などで尋ねられて、初めて告白できるという人も多いからではないかと思われる。

自殺未遂者の66%が中等度あるいは重度の悪夢を見ていたという報告もある。これは悪夢と精神疾患やストレスが無縁ではないことを実証している結果である。

今日見た夢はいつ経験したことか?

「(夢は)その人の思考のきわめて個人的な表現」という言葉を残したのは、1940年代に夢の研究を行った、心理学者カルヴィン・S・ホールの言葉である。

(写真:iStock.com/fizkes)

ホールはさらに、時代を超えてもっとも普遍的な夢のテーマとして、(1)追われる、(2)落下する、(3)学校生活の光景、(4)性的体験、を挙げている。

日常で経験したことは、どのくらい後に夢となって出てくるのか。今日経験したことがすぐに夢に現れるのか、経験して数日たって夢に出てくるのか等々、タイムラグはどれくらいなのだろう。

出来事に伴う感情にもよりけりだが、1週間ぐらい前の出来事が夢に出ることが多いようである。

レム睡眠とほぼ同様の睡眠段階である逆説睡眠を発見したミシェル・ジュヴェは、旅行中に集めた100余りの夢の記録をもとに、1週間たつと、旅行先の景色がはっきり夢に出てくると記述している。

体験した出来事が、その日の夜に夢に現れることは少ないことも示されている。

 

ノルウェーからハーバード大学に留学していたマグダリーン・フォスとロア・フォスの夫妻は、被験者に日中の活動や出来事などを日記につけてもらい、覚えている夢も記録させて、起きている間の体験がその晩の夢に現れる確率を調べた。

その結果、65%の夢に当日の出来事が現れたが、そのイメージは、はっきりしないおぼろげなものであった。場所や人物、言動などが含まれたエピソード記憶の体をなしている夢は、わずか2%にすぎなかったという。

「夢のタイムラグ効果」についての業績を残しているモントリオール大学のトーレ・ニールセンによれば、その日の経験が当日の晩の夢にいきなり現れることもあるが、翌日になると、その経験が夢に出る確率は半減する。そして1週間後に、再び夢となって現れてくることが多いという。

 

睡眠中に人間の短期記憶は、海馬から大脳皮質に移されて長期記憶に変換されていくが、この記憶処理のプロセスに要する時間と、関係があるのだろう。

さらに興味深いことに、不安や恐怖といったネガティブな感情の強い体験は、このタイムラグが長くなることが明らかになっている。つまり、ネガティブな感情を伴った体験の処理は、それだけ時間がかかる複雑なプロセスを経ることを示唆している。

これは心的外傷後ストレス障害(PTSD)における悪夢が、トラウマ体験となる心的外傷を受けた直後には現れず、時間がたつとともに頻度も強さも増して現れてくるという症状と一致している。

関連書籍

西多昌規『悪夢障害』

「寝つきが悪い」「眠れない」「途中で目が覚める」など睡眠に問題を抱える人は大勢いるが、なかでも無視できないのが悪夢。「悪夢障害」とは「極度に不快な夢を繰り返し見ることで睡眠が妨げられ、日常生活に支障が出る」病であるが、この生涯有病率は7割以上ともいわれている。悪夢はうつ病の前兆でもありうるため、軽視は危険。また悪夢を見て叫ぶ場合はパーキンソン病などの可能性もあるので、注意が必要だ。悪夢にまつわるすべてを網羅した一冊。

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悪夢障害

寝つきが悪い、眠れない、途中で目が覚める……睡眠に問題を抱える人は大勢いますが、中でも無視できないのが「悪夢」でしょう。悪夢によって睡眠が妨げられ、日常生活に支障が出るようになったら、それはもう立派な「病気」。その生涯有病率は、なんと7割以上ともいわれています。精神科医で睡眠医学の専門家として知られる西多昌規先生の『悪夢障害』は、そんな悪夢について徹底的に掘り下げた貴重な本。心当たりのある方は、ぜひこのためし読みをご覧になってみてください。

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西多昌規 精神科医・医学博士

スタンフォード大学医学部睡眠・生体リズム研究所客員講師。1970年、石川県生まれ。東京医科歯科大学卒業。国立精神・神経医療研究センター病院、ハーバード大学医学部研究員、自治医科大学講師などを経て、現職。日本精神神経学会専門医、睡眠医療認定医など、資格多数。これまでに数多くの患者を臨床現場で診察するだけでなく、精神科産業医として、企業のメンタルヘルスの問題にも取り組んできた。現在はスタンフォード大学にて睡眠医学の研究を行っている。

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