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やまゆり園事件

2020.07.26 公開 / 2021.07.26 更新 ツイート

第2回(全3回)

自分も「生きるに値しない命がある」と思ってはいないだろうか?【再掲】 神奈川新聞取材班

神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された「やまゆり園事件」から今日7月26日で5年。お亡くなりになられた方々に謹んで哀悼の意を表します。昨年行われた、神奈川新聞記者による座談会を再掲します。

*  *  *

2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が死亡、職員を含む26人が重軽傷を負うという、大変痛ましい事件が起きました。犠牲になられた方々に、心より哀悼の意を表します。
差別と偏見、優生思想、匿名報道ほか、事件が突きつけた問いに向き合い、4年間にわたって取材を続けてきた、地元紙・神奈川新聞記者による座談会の2回目です。(構成:大山くまお 写真:神奈川新聞社)

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植松は決して「特異な人間」ではない

――植松聖死刑囚(以下、植松)は「事件を起こしたことは、いまでも間違っていなかったと思います。意思疎通のできない重度障害者は人の幸せを奪い、不幸をばらまく存在。絶対に安楽死させなければいけない」と繰り返し語っていたと、取材班が出された『やまゆり園事件』に記されています。取材を続けていて、植松という人間についてどのような考えを持つようになりましたか?

田中大樹記者

田中 僕たちが常に考えていたのは、決して植松は特異な人間ではないということです。「植松的なもの」は誰にでもあるんじゃないのか。たとえば、効率や経済的な一つの指標で人間を判断することもそう。もちろん、背景には今の社会があります。今の社会の中で、みんな生きづらさを感じている。

実際に犯行に至るまでにはかなりハードルがありますが、「植松的なもの」の芽みたいなものは一人ひとりの中にあるんじゃないのというところは意識していました。

――誰もが「植松的なもの」を持っているのではないかという考えに至ったきっかけは何でしょうか。

田中 我々の会社は社風としてはリベラルで、マイノリティの取材なども、事件の前から、複数の記者がいろいろな角度で行っていました。

やまゆり園事件は障害者がテーマでしたが、自分のテーマとして追いかけているものとクロスオーバーさせることで、ご質問のようなところに結びついていったことはあると思います。

石川 僕はこれまで植松と37回の接見をしてきたのですが、常に自分が試されているような気持ちでした。

植松の語る言葉や考えはこの間一貫して変わらなかったのですが、どこかで「あっ、そうかもな」と思ってしまう自分がいないか。そういう怖さは、最初から最後までずっとありました。1回1回、今日はこれについて詰めて話をしようと考えて接見に臨んでも、植松から逆に面会時間30分の間、ずっと試されているような気がしてならなかったです。非常にプレッシャーの大きい取材でした。

当然、記者として、相手から言葉を引き出し、それを社会に発信して、みんなで考えてもらうという仕事をしているのですが、いざ一人の人間に戻ったときに「俺は植松の言葉をどれだけ否定できるのか、俺は否定できるだけの言葉を持ち合わせているのか」と考えてしまうのです。そんなもやもやした思いとか疑問とかを文字にして社会で共有することで、僕だけじゃなくて、みんなで考えようよ、という意識で取材をしていました。

 

 

関連書籍

神奈川新聞取材班『やまゆり園事件』

2016年7月26日、知的障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が死亡、26人が重軽傷を負った「やまゆり園事件」。犯人は植松聖、当時26歳の元職員だった。なぜ彼は「障害者は生きるに値しない」と考えるに至ったのか。地元紙記者が、37回の接見ほか丹念な取材を続け、差別を許容する現代日本のゆがみを浮き彫りにした渾身のドキュメント。

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やまゆり園事件

〈目次〉
第1章 2016年7月26日
未明の襲撃/伏せられた実名と19人の人柄/拘置所から届いた手記とイラスト

第2章 植松聖という人間
植松死刑囚の生い立ち/アクリル板越しに見た素顔/遺族がぶつけた思い/「被告を死刑とする」

第3章 匿名裁判
記号になった被害者/実名の意味/19人の生きた証し

第4章 優生思想
「生きるに値しない命」という思想/強制不妊とやまゆり園事件/能力主義の陰で/死刑と植松の命

第5章 共に生きる
被害者はいま/ある施設長の告白/揺れるやまゆり園/訪問の家の実践/“成就”した反対運動/分けない教育/学校は変われるか/共生の学び舎/呼吸器の子「地域で学びたい」/言葉で意思疎通できなくても/横田弘とやまゆり園事件

終章「分ける社会」を変える

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