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やまゆり園事件

2020.07.30 更新 ツイート

第3回(全3回)

「共生社会」を美辞麗句で終わらせないために神奈川新聞取材班

2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された「やまゆり園事件」。地元紙として4年間にわたり取材を続けてきた神奈川新聞記者による座談会、最終回です。(構成:大山くまお 写真:神奈川新聞社)

*   *   *

――根本的な質問になりますが、なぜ植松聖死刑囚(以下、植松と略)はこのような犯行に及んだのだとお考えでしょうか?

「社会の役に立つ存在になりたかった」という動機

石川 よく訊かれるのですが、本当に難しい質問だと思います。植松との接見をだいぶ重ねてきましたが、会えば会うほどわからなくなってきます。それを言うと川島にすごく怒られるんですが。「新聞記者だろ、何回面会しているんだ」と。

石川泰大記者

ただ、僕が思っているのは、社会的な見方と彼の本当の動機は違うんじゃないかということです。社会的な見方というのは、植松は効率性や生産性の問題から障害者を切り捨てようとしたというもの。障害者に対する差別や偏見があったから、そういう考えになった。これが一般的な見方だと思います。もちろん、そういう面もあると思います。

でも、接見を重ねていく中で、植松は非常にコンプレックスを持った人間だということがわかってきました。「超人」への憧れもその表れだと思います。彼は自分の社会的なポジションに不満を持っていて、自分は社会の役に立つ存在になりたい、どこかで自分の名前を社会に残したいと思っていたのではないでしょうか。

そこで、人生の一発逆転のために利用したのが、彼の目の前にいた障害者だったんじゃないでしょうか。もし彼が高齢者施設で働いていたのなら高齢者を狙っていただろうし、そうでなければ生活困窮者を狙っていたかもしれない。植松が障害者を「不幸を生み出す存在」と決めつけて「不要」だと繰り返し発言してきたのも、最首さん(最首悟・和光大学名誉教授)が「(植松は)弱者を排除する冷め切った風潮のある社会に、自分の主張が受け入れられることを理解していた」と指摘されていましたが、社会の大多数がそう思っている雰囲気を理解していて、植松はそれを利用したんじゃないかと思うときがあります。

なぜそう思ったのかというと、接見しているときに「なぜこのような事件を起こしたのか」と問うと、「生産性のない障害者は排除すべき」「日本国のため」などと、それまで彼が言ってきたことを述べ連ねるのですが、一方で自分の価値を求めているような発言もしていました。たとえば、あるときの接見で、「リンカーンを超えた」という発言をしたことがあります。「リンカーンは黒人を(奴隷制度から)解放した。自分は重度障害者を生み育てる恐怖から皆さまを守った」というわけです。ならば、それが犯行の理由かと詰めていくと、「いや、それは関係ないんです」と否定して、また元の主張を繰り返す。彼にとって触れられたくない部分がそこにあるのでしょう。

そうしないと、「なんだ、あいつ、小さい奴だな」と思われてしまうから、大層な理由をつけているのだと見ていました。川島が指摘する「超人」への憧れは非常に重要なポイントだと思います。

神奈川新聞取材班『やまゆり園事件』

「植松聖」とは誰なのか? 2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が刃物で刺され死亡、職員2人を含む26人が重軽傷を負った。犯人は、元職員の植松聖。当時26歳。「重度障害者は不幸をばらまく、生きるに値しない存在」――彼の強烈な差別意識はなぜ生まれたのか? これは「特異な考えの持ち主」による「特異な事件」だったのか? 植松死刑囚との37回の接見ほか、地元紙記者が迷い、悩みながら懸命に取材を続けた4年間のドキュメント。

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やまゆり園事件

〈目次〉
第1章 2016年7月26日
未明の襲撃/伏せられた実名と19人の人柄/拘置所から届いた手記とイラスト

第2章 植松聖という人間
植松死刑囚の生い立ち/アクリル板越しに見た素顔/遺族がぶつけた思い/「被告を死刑とする」

第3章 匿名裁判
記号になった被害者/実名の意味/19人の生きた証し

第4章 優生思想
「生きるに値しない命」という思想/強制不妊とやまゆり園事件/能力主義の陰で/死刑と植松の命

第5章 共に生きる
被害者はいま/ある施設長の告白/揺れるやまゆり園/訪問の家の実践/“成就”した反対運動/分けない教育/学校は変われるか/共生の学び舎/呼吸器の子「地域で学びたい」/言葉で意思疎通できなくても/横田弘とやまゆり園事件

終章「分ける社会」を変える

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