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プロ野球激闘史

2020.07.04 公開 ツイート

落合博満 もう一度監督をして球界に革命を起こせ 広岡達朗

広岡達朗さんの新刊『プロ野球激闘史』は、巨人現役時代のライバル、西武・ヤクルト監督時代の教え子から次世代のスター候補まで、27人を語り尽くした“広岡版・日本プロ野球史”。「サインを覚えなかった天才・長嶋」「川上監督・森との確執」「天敵・江夏の弱点とは?」――セ・パ両リーグ日本一の名監督による、知られざるエピソードが満載です。

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プロ野球は天才の集団である。技術が卓越しているのはもちろん、その個性も、それぞれ独特なのだ。

この場合の「個性」とは、一般社会から見れば「変人」という表現に近いだろう。

たとえば私なども、その一人かもしれない。群れない。他人の目や意見を気にしない。「自分が正しい」と思うことはとことん追究し、実行する。野球でいえば基本にこだわり、本質を求める。いい換えれば頑固で、偏屈な人間に見えるだろう。

野球界を見渡すと、一世を風靡(ふうび)し、球史に残る成績を収めた選手には、同じような個性派が多い。その代表格が、史上初の3度三冠王になった落合博満である。

私が引退したのは1966(昭和41)年だから、1979(昭和54)年にプロ入りした落合と現役時代に戦ったことはない。だが1982(昭和57)年から4年間の西武監督時代には、ロッテの落合に何度も痛い目にあった。

バットを立てて構え、内角の球は左に、真ん中はセンター方向、そして外角球は右中間に痛打された。

落合の最大の特徴は、右打者の苦手な外角球を簡単にライトスタンドに打ち込んだことだ。

打撃の基本はセンター返し

落合の本を読んで感心したのは、「オレがライトにホームランを打ったのは、狙って打ったのではない。みんなセンター方向に打つつもりで、たまたま外角に来た球を打ち返したら右方向に入っただけだ」というようなことを書いていることだった。

インコースもセンター方向、アウトコースもセンター返し。いつでもセンターに打ち返すようなタイミングで打てば、左肩が開かない。つまり、インコースもセンター返しの気持ちで打てばファウルにならずに左方向へのヒットになるのだ。

コーチが指導するとき、「体を開くな」といってわからない選手には「なんでもかんでもセンター返しで打て」といえば、左肩が開かないで打てるようになる。

落合は人の見ていないところでよく練習した。私が西武の監督時代、ロッテ戦で川崎球場に行ったとき、予定より早く着いたのでロッテのスタッフに「打撃練習をしたいので室内練習場を貸してほしい」と頼むと、「いま落合さんがバッティングマシンで打っているのでダメです」と断られたことがあった。

落合はバッティングについてよく研究し、納得がいくまで練習したが、他人のいうことを安易に信用することはなかった。聞いた話だが、現役時代「シュート打ちの名人」といわれた山内一弘がロッテの監督のとき、「シュートはこうして打て」と教えると、落合は「山内さん、打ってみせてください」といったらしい。

マスコミ嫌いも徹底していた。落合は3度三冠王になったが、野球評論家の豊田泰光がインタビューして言葉に詰まったことがあったそうだ。西鉄時代から気が強く、個性派の代表のような豊田が何か質問すると「打ちゃいいんでしょ?」と答えたという。

「人のいうことは真に受けるな」

落合が現役時代に信頼していたのはロッテ時代の監督・稲尾和久だけで、バッティングについては誰の意見も聞こうとしなかった。

「東スポWeb」によると、2019年7月28日に放送された中日応援番組「サンデードラゴンズ」(CBC)にVTR出演した落合は、中日のドラフト1位ルーキー内野手・根尾昂について、「まだ1年目だよ。打てるわけねえわ、あのバッティングで。ちょこっと見たけどこの子は打てないと思った。現状では」と厳しい分析をしたという。

しかし落合らしかったのは、「ただひとつ言えることは教えてくれる人のことは真に受けないということだね。守備は教わっていい。バッティングだけは真に受けないこと。潰れていった選手を何人も見てきてるから。たいていが自分のいいところをみんななくして潰れていってる。教える人はそんなこと考えてないから。(打撃に関しては)自分で見つけりゃいいんじゃない」(「中日を惑わす落合氏の『根尾は打てない』発言」東スポWeb、2019年7月29日)というアドバイスだった。

落合の野球哲学は、中日の監督をやめて評論家になってからも変わっていないようだ。

実績のある落合をなぜ監督に迎えないのか

落合が中日の監督になって間もなくだったと思う。評論家としての取材で沖縄のキャンプを見にいったとき、落合はサブグラウンドでショートの井端弘和とセカンドの荒木雅博にノックをしていた。選手がやっと追いつくような球際のうまいノックで、私は一緒にいた元巨人監督の川上哲治さんと2時間ほど、見とれた経験がある。落合はこうして、中日が誇る二遊間を育て上げたのだろう。

落合の著書にも、監督経験者らしい緻密な内容が豊富に盛り込まれている。たとえば「体力のない選手には技術を教えるより、10年以上プロで通用する基礎体力をつけさせたほうがいい。体ができている選手にはプロのレベルの技術を。技術のある選手には何も教えないほうがいい」など、選手によってきめの細かい考察と指導法を考えている。

こうした思考は、誰にも頼らず独自の打法を研究・完成した落合独特の才能によるものだろう。野球界は、3度の三冠王と中日時代のりっぱな監督実績を持つ人材を、なぜ監督に迎えないのか。私は残念でならないし、落合にはもう一度監督として「球界に革命を起こせ」といいたい。これからどこで、どんな監督になるのか楽しみにしている。

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広岡達朗

1932年、広島県呉市生まれ。早稲田大学教育学部卒業。学生野球全盛時代に早大の名ショートとして活躍。54年、巨人に入団。1年目から正遊撃手を務め、打率.314で新人王とベストナインに輝いた。引退後は評論家活動を経て、広島とヤクルトでコーチを務めた。監督としてヤクルトと西武で日本シリーズに優勝し、セ・パ両リーグで日本一を達成。指導者としての手腕が高く評価された。92年、野球殿堂入り。『動じない。』(王貞治氏・藤平信一氏との共著)、『巨人への遺言』『中村天風 悲運に心悩ますな』『日本野球よ、それは間違っている!』『言わなきゃいけないプロ野球の大問題』(すべて幻冬舎)など著書多数。新刊『プロ野球激闘史』(幻冬舎)が好評発売中。

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